ピッ、とボタンを押す。
ガタンゴトン、それは意図的に舞い落ちて、あたしの手に。
カラカラと落ちた3枚の10円玉は、ポケットの中に収まった。

そうだ、それはたとえば無機質なあたしたちの関係のように。





      ベンディングマシーン





こんにち、数メートル歩けばどこにでもある自動販売機…つまりが自販機。
いつでもどこでも手に入る水分・糖分・嗜好品。
簡易かつ便利。
望めば絶対に…ただしマネーある限り、だ。

うすらボケてまだ霞んでいる目を天井に走らせる。
真っ白な天井。
陽の光が白にはじけて綺麗だった。
起き上がって目を擦る。
外気があたしの背中を掠めて通り抜けたような気がした。
目で追って見ても、そこにはなにもあるはずがなくて…。
あたしの心を風が駆け抜けた。

(自販機なんて、あの人知ってるのかなぁ…)
(多分、知らないでしょうね。あの人にとってあたしたちの世界のことなんてどうでもいいことだもの…しかもジャパンのことなんて)
(…苦しい)
ちらり、と横を見れば、そこら中ばらまかれた紙幣。
わざわざ日本円に換金するなんて…きっと嫌味なんだ。
見慣れたお金。
だけど要らないお金。
ぽんぽんとお金を放りこまれては、買われる。
あたしを…あたしという性の処理物を。

(あの人…ルシウスにとってあたしって、どんなものなの?)
考えても考えても辿り着く答えはたったひとつ。
無駄だ。
浅はかな願いなど届くはずがないんだから。
どんなものかって、そりゃただの性欲処理物に決まってる。
あの人が人並みに誰かを愛すなんて、信じられないから。

あの人の奥さんだって、ただの政略結婚とか言う奴で、家同士が結婚したようなもんだと、言っていたもの。
愛なんてないんだって。
帰る家と名誉と誇りがあればどうでもいい。
両手でもあまるほどに愛人のいるルシウスのことだ、今たまたまあたしに興味があるだけ。
いつまで続くかわからない。
あの人の心に愛なんて殊勝なものあるはずないんだ。

それは少なからずあたしの心を軽くした。
誰も愛さない。
誰もあの人の心を手に入れることはない。
よかった。
あたしだけのものになるなんて有り得ないから。
だったらせめて誰のものにもなってほしくないから。
ただ誇り高く孤高に、ひとりであり続けてよ。
一方的な愛だけに愛されて、愛し愛される喜びを知らずにすごせばいい。

「かわいそうな人」
そんなこと面と向かって言えば、あの堅い杖で死ぬ直前まで殴られてしまうのだろうけど。
憐れまれることをなにより嫌う。
「……かわいそうな…ひと」
膝を抱えて顔を埋めた。
一筋流れた涙がシーツに染みを作った。
隠すように擦って、バスルームへ向かう。
身体の汚れを洗い流すように、積もったあの人への想いも流れてなくなってしまえばいいのに。
それはかなわぬことだけども。

コックをひねって熱いお湯を降らせる。
スポンジにたっぷりのボディソープ、まず腕に擦りつけて泡を産んでいく。
生成された泡はすぐにお湯が流していって、排水溝へ流れていく。
汚れた体液や汗とかはみんな泡とお湯と一緒に流れてく。
あたしの想いは流れることなくここにとどまり続ける。
シャワーの下からその降り注ぐ様を仰いで目を瞑る。
反った背中に時折お湯に揺らいだ髪があたった。
降り注ぐお湯はあたしの顔から首筋を伝い、身体を流れて足元へ流れてく。
それが妙にくすぐったい。
貴方に愛されてるときのようだから?
(………まさか)
これはただの妄想。
(あの人が誰かを愛するなんて有り得ない)

振り払ってシャワーを止める。
ひっかけてあったバスローブをまとってあたしはまたベッドルームへ戻った。
床にぽたぽた水滴が道を作っていくだろう。
だけど大丈夫。
どうせすべての面倒事はこの屋敷に住み着いたしもべ妖精がどうにかしてくれる。
ほら、さっきまで濡れていたはずの髪はいつの間にか彼らの力によって乾かされてる。
身体も。
(ルシウスは小さなことでも自分が煩わされるのを嫌うから)
ベッドルームの扉を開ければ、ああ、やっぱり。

「遅いではないか」
意地悪く嘲笑するルシウス。
いけ高々とふんぞり返ってベッドに座って待っていた。
すでにベッドメイクし直されたそれは、言うまでもなくしもべ妖精の力。
あたしがこうやってバスルームから帰ってくると、キレイに直ってる。
…そして、またルシウスがいる。
「早いわね」
「お前がずいぶん長いこと眠っていただけだろう?」
「……そうかもしれない」
だってあたしは時間がわからない。
だってここには時計がない。
だってここには時を知る術もない。

ベッドに座るルシウスに近づく。
ひざまずいてローブの前をかき分けた。
戒めの革のベルトを外してジッパーをおろしてコンニチワ。
ぐったりと力ない貴方を勃ちあげさせるのがあたしの最初の仕事。
「ん、………」
サオの裏側を下でなぞって緩慢な刺激を。
カリの部分を甘噛みしてささやかな刺激を。
先端を下で突付いてそれから軽く吸う。
これはあたしにとって始まりの儀式のようなものだ。
それから両手を添えて口全体で頬張るんだ。
「フン………」
ぐっ、とあたしの頭にルシウスの手と指が絡む。
……正確には髪に、だが。

「ンぁっ、……グッ、…ハッ…」
乱暴に絡ませた髪を力任せ好きなように動かされる。
喉の奥、息も詰まるようなところまで抜き差しされて。
苦しくて涙がにじむ。
「ハ、ア………」
歪んで霞んだ視界の端に、白い肌を薄く上気させたルシウスの顔にあたしは欲情する。
いつもは開け放したままルシウスの気が済むまで抜き差しさせていく口。
だけどもあたしはつい口を小さくすぼめて歯で擦るようにしてしまう。
「…………ハッ、」
思いもよらない大きな刺激にドクン、と口の中のそれは大きく跳ね上がる。
どうしようない優越感と満足感があたしの心を支配した。
だけど次の瞬間強く床に叩きつけられた。

「…ッア!!」
「道具ふぜいが自らの意思で動くな……」
威圧感のある目。
次に逆らったら殺すとでも言うような。
左手の杖を肩に押し付けられる。
その目は動くな、と命令してる。
床と杖の間、ギリギリと音を立てて挟み込まれて痛い。
傾いてくるルシウスの上半身、だけどもベッドには座ったままの。
右手があたしの秘部に伸びる。
力任せに掴まれてムリヤリ指が進入してくる。
「っ………イッ……」
「痛い?なにを言う、こんなに蜜を含ませて」
中を掻き毟られるように乱暴に愛撫される。
痛みに身体が引きつるけど、ルシウスが止めるはずもなくさらに指は増やさせれた。
「まだなにもしていないと言うに、なんだこのすべりは……淫乱め」
ずっずっ、と卑猥な音だけがあたしの脳を刺激する。

変よ、おかしいの、あたしの身体。
痛みにさえ感じてしまうから。
これがルシウスに与えられた神経への刺激だとわかるだけで感じてしまうから。
「咥えてただけでも感じるのか、お前は。それだけで疼くのか、お前は」
5本の指がムリヤリ入れ込まれた。
言いしれない異物感と圧迫感。
あまりな行為に身体が強張る。
それでもどこか疼くように掻き立てる欲があることも確かな事実で。
「………アッ……ン」
ピタリと、ルシウスの指の動きが止まる。
ハ、と鼻で笑われたのがわかった。
「フィストファックでも、イけると言うのか?」
にたりと、ルシウスの口の端があがる。
「ヤ、ィヤァッ……………ッッッ!」

ぐ、と。
下半身にものすごい圧迫感。
息も詰まるような感覚があたしを襲う。
だけどそんなあたしに気遣うでもなんでもなくルシウスは腕を引き抜いていく。
そしてまた入れて。
交互に襲い来る圧迫感と排泄感。
あまりな感覚に声も出ない。
「どうした?鳴いてみせたまえ…美しく、淫乱に……

刹那、ドクンと心臓が高鳴った。
身体が震え出す。
「ハ…ァアンッ……、アッ、ルシ…ウ、ス……」
揺れ出す腰を止める術などあたしは知らない。
ただあたしは助けを求めるように涙目で鳴きながら手を伸ばすだけだ。
優越感に浸ったように、莫迦なあたしを嘲るように貴方は笑う。
ずる、と引き抜かれた腕があたしの背中に回る。
杖を持ったままの左手も。
軽々と騎乗位のかたちに持ってこられる。
「自分で入れてみせろ」
震える手と膝を必死に押さえつけて膝立ちする。
ルシウスの肩につかまることを許されたあたしは、そっと腰を浮かせてぴたりと秘部にそれをあてがって。
小さく、少しずつ、ゆっくりと、腰を下ろしていく。
だけどあたしの腰に添えられた手が力任せに突き刺すよう促して。

「……………ッッ!」
反り返る背中。
刺激に上を仰いで。
乱暴に抱いて、刺激だけを求めて、愛情なんてはき捨てて。
欲しいのは性欲が弾ける瞬間までの行為だから。
貴方は誰も愛さないから、誰のものにもならないから。
さぁ、あたしの中で弾けて頂戴。






うすらボケてまだ霞んでいる目を天井に走らせる。
真っ白な天井。
陽の光が白にはじけて綺麗だった。
起き上がって目を擦る。
外気があたしの背中を掠めて通り抜けたような気がした。
目で追って見ても、そこにはなにもあるはずがない。
あたしの心を風が駆け抜けただけだから。

床にちらばった日本円を冷たい目で見つめた。
いまがなんじなのか、なんにちなのか、なんようびなのか、なんがつなのか、なんねんなのか……わからない。
けど、また同じことを繰り返す。
またあたしはバスルームへ向かって戻ってここにいるあの人に抱かれる。
それだけだから。
たったそれっぽっちだから。


あたしは貴方のベンディングマシーン。
永遠に。
飲み尽くして喰らい尽くして飽きて捨てるまで。








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テニプリで書いてたのに何故かこの人に。
これは…さすがにまずいかなぁ、と思う。
アンケートもこそりと反映してますのでエロイっちゃエロイですが…痛いです。
無理矢理感を出そうとしたら本当に…(殴)
ごめんなさい!

2003/4/4       アラナミ