スパイス ラブ オムライス








「ミッチーって、すごいスケベそう」
誰からともなく零れた言葉に、体育館中が大笑いした。

大笑いの中、爆弾発言をした張本人は隠れて誰だかわからなくなってしまったけど、でも三井はどうでもよさそうだ。
中心で、「そうかぁ〜?」なんて笑ってるあたり大したものだと思う。
スケベそうじゃなくって、スケベもスケベ、そりゃあもう筋金入りのムッツリなんです…とは言えないけど。
自分がそうであることを微塵にも出さないその技術、賞賛に値するワ。
と冷ややかな目線を送っていたら、見事バッチリ目があったんだけれど、あたしは知らないフリをすることにする。

飛んで火にいる夏の虫、やぶから蛇、なんて。
この間のあの事件参照さながら、現場を抑えてしまった一応カノジョのワタクシとしては、余計なことはしない言わないやらない。
どうせはねっ返って元に戻ってくるのはあたしなのヨ。

「そんなことより練習練習!」
再びオレンジ色のバスケットボール片手にドリブル、シュート。
にやついて細められたいやらしーい目が、始終あたしに向いてたのなんか、またあたしは知らないフリ。






バスケットの練習が終わって、カラスの鳴く帰り道。
待ち合わせてるわけじゃないけど、約束してるわけじゃないけど、なんとなーくの流れで、バイトの入ってない日のあたしは、三井の練習が終わるのを待っていたりする。
そして一緒に帰っちゃったりしている。
「おそーい」
「ワリィな」

三井は三井で別に待ってなくってもいいとか、そういうことをはじめのうちは言っていたような気がしたけれど、ああそうと、前に本当に帰ったその翌日、ずいぶん拗ねていたのを覚えているので、なるべーくあたしはここで待っていることを心がけている。
やー、でも本当はちょこっとだけあたしも一緒に帰れて嬉しいのですヨ。
そしてあたしはワリィなと、ぜんぜん悪く思ってないくせにそう言ってあどけなく笑う三井の顔が結構好きだったりする。
なんでか、子供っぽくって、カワイイ。
そんななんでもないことがどうしてか嬉しくって、あたしは三井よりちょっと先を歩く。
三井はその後ろをついてくる。
数秒後、あたしの手をそっと握るというオプションをつけて。

三井は三井で突拍子もなく有り得ない!と思うことをやらかして幻滅させるけど、こうやってなにげなく優しかったり嬉しかったりすることをするので、どうにもずるいと思う。
だからあたしは三井なんて嫌いだと思ったその一瞬後、大好きだと思ってしまうんだわ。

、今日ウチ来る?」
「なんで。あたし早く家帰ってドラマの続き見なくちゃ」
なんでなんて、あの放課後のバスケの練習。
あのときの三井の目を見たときから、予想はついたんだけどね、しちゃってたんだけどね。
「来いよ」
「えー、」
あたしはちゃあんと知らないフリ、してたんだよ?
だからちゃんとその気にさせてつれてってみやがれ、三井寿。

ぐっと、握った手が力強くあたしをとどめさせる。
真剣な、目。
あ、手に汗かいてる。
…そんなに…あたしと…

「ヤらせろ」

ベシッ

ふう…ムードもへったくれもない男でした、三井寿。
そうね、そうよね、思いかえすあのときも、やー、もうムードもなにもないどころがふざけるなってんだ!
ボールの扱い上手いくせに、こっちに関しては下手っていうか素人っていうか…遊んでたワリには信じられないほどの経験地のなさ。
女はすればするほど女が下がるっていうけど、男はすればするほどあがるっていうよね。
もしかしてあたしの方が三井より経験ある!?とか言ったらあたしちょっと再起不能かもしんない。
なんだろう、この空しさっていうか、せちがらさっていうかはがゆさ?
早く家帰ってドラマ見てに電話しよう。
そうしよう。

「はぁー、あたし、帰るよー」
バイバイって手を振って、短いスカート翻して、あたしはそこを後にする。
…正確には後にしようとした。
だけど三井と握ったままの手は、一方的に強く繋がって離れないから。
「ちょっと、…なにヨ」
「ダメ、帰さねー、今日はぜってーするって決めたんだ」
あきらめ悪く三井の手はあたしの腕にも伸びて、もう、もう離さないとその目が語るのです。
「絶対って…アンタ、勝手にそう決めたんデショ、あたしには関係ないー!」
「大丈夫、今日オレん家オヤ帰ってこねーんだよ、な!」
「三井ンとこは大丈夫でも、ウチはいつでも親はいるのっ!」
力強くもう離さないと意思を持った三井の腕、込められる力。
イヤヨイヤヨモスキノウチさながら思うように力が込められないあたし。
そこに男女の力の差もプラスしてあげて、どうしてあたしが適うはずありましょうか。

「うるせー、ハナっから気付いてた癖に」
あら、バレてましたか。
「気持ちいいことしよーぜ」
それはそれはにっこりと楽しそうに笑うもんですから。
まるでさっきしたみたくあどけないあたしの大好きな笑顔で笑うもんですから。

「三井の部屋までだっこしてって」
バスケ部でしょ?
レギュラーでしょ?
あたしのこと、好きなんでしょ?

わがままを、言ってみました。





、おまえバスケ部黄金の腕をこき使って…」
「えへへへー」
すごいじゃない、えらいじゃない。
そんな意味をこめてこめかみにキスしたら、なんとなくバカにされたと思ったらしい三井に、からかうようにくすぐられた。









あたしは、あたしは、あたしは。
結局ドラマの続きも見忘れて。
 (見る間もなく押し倒されて)
に電話をかけることもなく。
 (だって愚痴の電話はいらないワ)
あたしの彼氏の部屋に無断外泊。
 (きっと帰ったら怒られちゃうね)

ハジメテのあの日を塗り替えるくらいステキな夜をすごして、あたしたちはできそこないのオムライスをふたりで食べた。










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夜明けのコーヒーならぬ、夜明けのオムライスみたいな。
このできそこないのオムライスはミッチーが作ったんです。
きっとそうなんです。

ちょっと、ちょっとね、えっちぃお話が書きたかったの。挫折。
ていうか恥ずかしいタイトルじゃ!


2004/1/24       アラナミ