貴方を好きだと思うこと。





「うう…寒い」

とにもかくも突然やってきた雨に、つい先日まで暑かった日常はまるで幻のように去ってった。
今や長そで上着がなくてどうして外を歩けるというか。
それ以上に部屋の中にいたにしたって。
おとといと今日との温度差に風邪をひいてしまいそうです、あたし。
サマーセーターごときでは防寒もやわい、寒い。
あたしは小さく身震いをする。

「寒いっすか?」
心配してるような、そうでもないような、むしろ怒ってるような、そんな表情であたしを覗きこんだ赤い髪の男の子。
桜木君。
つりあがった眉が怖いとみんな言うけど。
への字のムッとしたような口元が怖いとみんな言うけど。
赤い髪が近寄りがたくて怖いとみんな言うけど。
言うけど、さぁ。

あたし、可愛いと、思うんだよね。



「チョー寒い」
言って、これって廃れた言い方かもしんないと思った。
別にそんなこと桜木君は指摘しないけど。
っていうかわかんないだろーけど。

大き目のサマーセーターはすっぽりとあたしの手のひらから指先まで隠してくれるけど、通気性のいいそれは、網目からひゅうひゅうと隙間風が入り込んできて寒い。
というか短いスカートが寒い、寒いのだよ。
口の前で合わせた手を、はぁと息を吹きかけてみるけど、そうしたってすぐに風にさらされて余計に冷たくなってしまう。
うう…あたしは暑いの好きな子だけど、寒いのだけはダメなの。
嫌、嫌い、ダメ、ぜったいムリ。

さん、コレ着てください」
ふわりと肩にかけられた、大きな学ラン。
あたしの短いスカートすら隠してしまうってすごいなぁ。
ほんのりと暖かくなる、身体と心。
あたしは桜木君が顔に似合わずとても優しい人だということをよく知っていた。
「ありがとぉ、桜木君」
にへへとあたしは笑う。
きっとしあわせそうに笑っているんだろう。
「いやいや、天才ですから!」
関係ないよ、ソレ。
そう言ったら、桜木君は「ヌ、」と言ってたじろいだ。

ホラ、ホラ。
可愛いでしょう。
舌っ足らずな言い方とか、表情とか。
真剣にバスケをするときとか、笑ってるとき。
すごく愛しいと、思うの。


「今日は部活行かないの?」
「今日は使えないんすよ」
困ったように笑う桜木君は、そのままじっとまっすぐ体育館の方を見つめた。
とても遠い目をしていると、思った。
まるでバスケができないことがとても悲しくて切ないみたいだった。
実際、そうなんだろう、桜木君にとって。

体育館は受験生の為にプチ講義を開いて使ってるらしい。
毎週水曜の決まりごとのように。
そして毎週桜木君はここで寂しそうに体育館を見つめているのだ。

「バスケやりたい?」
「そりゃあ、バスケットマンですから」
胸を貼ってニッカと笑った桜木君に、あたしは思わず吹き出してしまった。
どこか腑に落ちない表情の桜木君。
おかしいなぁ、もう。
ねぇ…ねぇ、桜木君。
あたしねぇ、知ってるよ。
桜木君がとても不器用なことを、あたし知っている。


好きですか、晴子を。
あの子が好きですか、あなたは。


桜木君をとてもいとおしいと思うのは、どこまでも続く浅瀬を歩くようなものだ。
南国の白浜の青い海、遠浅。
とてもとても心地いい感覚に、あたしはどこまでもそれをいとおしんで進んでゆく。
ときおり波があたしを楽しませ、足をくすぐる魚に喜ばされ、あたしは笑いながらどこまでゆくの。
そうして足が痛くなる頃、岸にも帰れず、沖にもゆけず、あたしはひとり途方に暮れるの。
それでも波は優しくあたしに笑いかけるでしょう。

「風邪、ひかないでくださいよ」
白い歯を見せて笑う桜木君に、またあたしは遠浅を一歩進んだのだと、そう思った。





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桜木君はとても優しい人だと思うのです。
とても可愛いひとだと思うのです。
私は彼が好きです、とても。

晴子ちゃんの友達という設定で、桜木が好きなヒロインちゃん。
切ないんだろうと思ってさ。

スラダン夢が少ない上に桜木夢はさらに少ないので(だってみんな流川かミッチー!)、いっそ自分で。
これはこれで片思いが味わえると思ってかんべんしてください(なに

2003/9/23             アラナミ