乗ったときは始発でした
ゆけばゆくほど人は溢れるルルル
本当は学校へゆくはずでした
短い睡眠からの寝不足に、揺れる電車のドリームダイブ
いつも目が覚める降りる駅で
いつも目が覚める降りる駅で
この人ごみをかきわけて降りることがいやになってしまったよ
もう少し眠りたいと思ってしまったよ







   各 駅 停 車 で ウ ラ ラ







電車の心地よい揺れは、お母さんのなかにいたときと同じ振動がするんだってね。
だから安心するんだね。
だから眠くなっちゃうんだね。

背中からあたたかい日差しが照らします。
足元からはあたたかい暖房です。
人の波は冷気を遮断してあたしまで届きません。

横浜を過ぎます。
川崎を通ります。
品川は確認できなかった。
新橋にかかります。

そう、目が覚めたら終点。


だけどだけどだけど、そのまま折り返して東京ゆきは、熱海行きへ。
もと来た道をリターンですのよ。



入れかわり立ちかわり隣の人は変わります。
あたしはずっとここに座ったまま。
そうして心地よい振動に身体をまかしてゆっくりと眠ります。
決して時計はみないでね。
乗り越して乗り越してそれから帰ってくるなんて、とっくに遅刻は決定だね。
でもたまにはいいじゃない。
ちょっとだけ、いいじゃない。

一駅過ぎるごとに満員電車のピークは過ぎてゆきます。
少なくなってゆきます。
ゆるやかになってゆきます。
そしてほとんど誰もいなくなるのかしら?





「ねぇ、どこにいくの?」
ぽかぽか日差しに似たオレンジの髪の少年があたしの隣で笑いかける。
白い学ランに太陽の色をともした髪はなんだかとてもまばゆかった。
「…どこでしょう」
どこへゆくかと聞かれても、あたしはどこにゆくのでしょうか。
考えてみれば、学校をサボってしまったあたしは、親のいる家に帰るわけにもいかず、かといってフラフラ遊ぶ気力もない。
どうせなら、いっそこのままずっとくりかえし電車の中に乗っていようかとも思った。
「この電車は熱海ゆきだよ?」
「うーん、君こそ、どこいくの?」
中学か、高校か、どっちにしろ、学生が出歩くべき時間じゃないことは確かなのだけれど、あたしもしがない専門学生。
もしもこの目の前のオレンジ君がサボリだというのなら、同じだねと笑い飛ばしてしまいましょうか。

「さぁ、なんか、あったかかったから」
降りたくなかったんだと、オレンジ君は白い歯を見せて笑った。
そしてあたしは少年のその言葉が、あたしが思ったことと同じだとひどく喜びを感じて、やっぱりオレンジ君と同じように白い歯を見せて笑った。
「奇遇だねぇオレンジ君。あたしもね、なんかね、あったかくって眠くって、ついドリームダイブしてしまったのです」
「オレンジ君?」
「ふふふ、君のことだよ。オレンジ髪の少年」

ぽかぽかあったかいからでしょうか。
どうなんでしょうか。
普段のあたしなら見ず知らずの人に話しかけられてもしらんぷりんなのにね。

「じゃあおねぇさんははちみつさん?」
「それはあたしの髪の色がキャラメルハニーだから?」
「そうだよ」
それはそれで悪くない、とあたしは思ったので、にっこり笑って可愛いねと言った。
オレンジ君もそうでしょと笑った。

海が輝いてます。
富士山が見えます。
春には満開の桜が見れたでしょうか。
梅の里小田原を越えました。
次は箱根を目指します。

「温泉街だわー」
昔は温泉なんてって思ってた。
でも今はあれよね、いいよね、行きたいなぁ。
「温泉卵がおいしいよね」
オレンジ君はにっこりと笑うのです。
あたしの隣で笑うのです。
「いいね!おんせんたまご!」
「半熟よりとけててうんまいと思うんだ」
「そうね、うんまいよね」
交わされるオレンジ君との会話はあったかかった。
この日差しと似ていた。
あたしは起きていたけれど、それこそ夢見心地のような気分でいたの。


どうしてかしら、こんなにも、あったかい気持ち。
初めて会った子なのに。
ほんの数十分前に会った子なのに。


ガタン ゴトン 電車は揺れる。
心地よい振動に抱かれてまっすぐ進む。

だから、だから自然に。
そうなることがあたりまえのように。
夢見心地のあたし。
オレンジ君も?
ゆっくりと交わされる視線。
間に日差しがぽかぽか照らします。

人気の少ない平日昼間の電車。
グリーン車前の3両目。
ふたりで占領したボックス席で。



「ん……」










電車はもうすぐ、熱海へ着く。





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電車といえば、この間中学入試でしたね、私立の!
なつかしい…

てゆうかこういうのって電車でナンパって部類?
この間見かけましたよ、ナンパされてるおねーさん。
おねーさんが降りた後、おにいやんは別車両へハンティング(笑)へ行きました。


2004/2/11         アラナミ