オレンジ色の白い猫





飲みかけのパック牛乳を左手に移しかえて立ち止まる。

なー…

耳を掠める小さな鳴き声。
猫っぽい。

鳴き声がしたと思った方を辿って、校舎裏の茂みをかきわけて進んだ。

やっぱり。
かきわけた茂みの奥、来なければ気付くことのない場所に、それはいた。
白い小さな仔猫。
白い学ランと一緒に。

「誰の学ランよ…ってか…あーあ、ボロボロだぁ」
仔猫の爪跡と、噛み締めた跡。
もはや仔猫の遊び道具代わりになっているんでしょう。
誰だか知らないけどどうするんだろ、コレ。

しゃがみこんで学ランを手に取る。そしたら仔猫がすり寄ってきた。
手を伸ばして、頭を撫でる。
だけど顔をあげた仔猫は、口から覗かせた小さな舌で、ペロペロと私の手を舐めてきた。

「なによ、あんたおなか減ってんの?」
思えば昼休みは終わったばかりで、さっき購買も引きあげていた。
私も教室に戻ろうとしていたところだったんだけど。
「っつってもあんたみたいなおチビちゃんに食べれるのなんてなー…」
ないよね、と言いかけてふと気付く。
私が今飲んでるのって牛乳じゃん。

「飲む?」
受け皿があるわけもなく、ちょっとためらったけど自分の手に飲みかけの牛乳を出してやる。
はじめは少し。
うかがうように鼻をひくつかせて、それからペロリと舐め始めた。
はじめは恐る恐るしていたけど、本当におなかがすいてたのか、すぐにがっつくようにおなかに収めていった。

「ちびっちゃいクセに食欲旺盛ねー…」
なくなりかけた牛乳を、また手の平に注ぎ足して促してやる。

「あれ、じゃん。なにしてるの?」
がさがさっと茂みをかきわける音がして、振り向けばそこにキヨがいた。

「キヨこそなんでこんなところに……」
言いかけて、キヨが学ランを着ていないことに気付き、納得する。
「なんだ、この猫連れてきたのキヨなんでしょ」
「まぁね〜」
にししと笑って、キヨが私の隣に座った。

「え〜なに、こいつメシ食ってるの?」
「うん。だってなんかすごいおなか減ってたみたいだったよ?キヨなんもあげなかったの?」
「ううん」
ホラ見て!と抱えてた食べ物を見せてくれる。
まだポケットにも入ってるとも付け加えて。

「にぼし、たいやき、ポテチ、柿ピー……にぼしはともかく子猫がお菓子なんて食べるわけないでしょっ!」
ぽか、と軽くぶったら、キヨが泣きマネをした。
「わ〜、ちゃんが暴力ふるう〜」
手で顔を隠したその下は、笑ってるクセに。
「はいはい。…アレ、まだ足んない?」
飲みかけの牛乳も全部手の平に出す。
「これで最後だよー」
またがっつくように舐め始める。

「なんだかなー俺がやったとき全然食ってくんなかったんだけどなー」
「なによ、どうせ柿ピーとかあげようとしたんでしょ!」
「まさか!」
首をぶんぶん振って、キヨはそれを否定する。
「…頭振るとバカになるよ?」
「えー、バカになってもラッキーだから大丈夫!…じゃなくて!
俺さっきこいつにミルクあげたんだけど、そんとき舐めてもくんなかったんだぜー」
ぶーと口を尖らせてむくれるキヨは、まるで子供みたいだった。

「警戒してたんじゃないの?図体のデカイオレンジ頭に」
「そっかなー」
キヨが持っていたにぼしを仔猫の目の前でチラつかせる。
だけど仔猫は見向きもせず、牛乳をお腹に運んでいる。

「ね?」
「きっとあんた嫌われてんのよ」
「うわっ!ヒドーイ」
けらけら軽く笑って、キヨは私に抱きついてきた。
「なによ」
「んーん、ホッとした。なんにも食べなかったら死んじゃうじゃん、こいつ」
「…………うん」
がいてよかった」
「…………」

それからキヨは静かになって、でも私に抱きついたままで。
気になって横目で盗み見るように見たら、目が合った。
「このまま昼寝しちゃおうよ」
にかっと白い歯を見せてキヨは笑う。
手の平の牛乳をすべて飲み終えた仔猫は、私の膝に乗っかってうつらうつらし始めた。
遠くで本鈴が聞こえた。
だけど私はまぁいいかと思って、キヨにもたれかかった。

まだ外で昼寝するには肌寒いような季節だったけど、人肌と動物の体温は意外に暖かくて、木漏れ日にまどろむ。
安易なまでに私たちは意識を落としていった。








そして次に目を開けたときは、すべてがオレンジ色に染まってて。
身じろげば、すでに起きていたらしいキヨに強く抱きしめられる。
「キヨ?」
振り向けば、キヨのオレンジ色の髪が、さらに鮮やかに映し出されていて。
木々も、制服も、膝の上の仔猫も、きっと私も。
オレンジ色だ。

2人の唇が重なったのを見たのは、膝の上のオレンジ色の白い猫…だけ。








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キヨって案外ムツカシイですね・・・侮ってたよ!
山吹って好きなんで、ドリームを書きたいとおもうのですが、悩むところがひとつ。

その1 なんか山吹って男子校っぽい。
その2 いや、でも共学かもしんない。
その3 どっちにしよう・・・どうしよう。曖昧なのは嫌だなぁ・・・

というわけです。・・・どっちだと思いますか?(聞くな)

それよりもまたお題に添えてるんだかいないんだか…
オレンジ色に染まった白い猫書きたかったのですよ。
というか、オレンジの時点でこれはキヨだ!とか思ったりです。
チョー適当・・・ごめん!


2003/2/18       アラナミ