マイファニーキャットガール






私はこのぬいぐるみのような猫を膝に自室でゆっくりと本を読む。

最高の時間だ、たまらない。

ファンタジー小説だと思って買ってしまったエッセイでも(がっかり!!)心中穏やかに読めるから不思議だ。
金曜の午後、同室の友達もいないのもとても不思議だった。
そしてなにより、ここにドラコマルフォイがいるのもとても不思議だった。

彼は私の隣りに腰かけ、本を読むでもなくなにをするでもなくただ私を見ている。

最高に微妙な時間だ。たまらなく視線が痛い。



「…ねぇ、マルフォイ。ひとつ聞いてもいい?」
「なんだ、言ってみろ」
ドラコは機嫌よく微笑み、そして彼女にもっと近づいて答えを待った。
うわぁ、うわぁ、うわぁ。
じり、とお尻を後退させてはたじろいだ。
ぶつかった視線をよそに泳がせてあさっての方向へ顔をそむける。
だからドラコの少し不機嫌に歪んだ顔などは見てないのだ。

「どうしてここにいるの?」
ここは女子寮で、の自室で、そして他女生徒との共同部屋でもある場所だ。
女生徒ならまだしも、男子生徒はここに入ってはまずいのではないか、とは言った。
いくらドラコをお気に入りとしているスネイプ教授だって、こんなところを目撃したらただではすまないでしょうに。
むしろ、あの自分の寮から点数を滅多にひくことのない彼から点を引かせる姿を見ることが出来るかもしれない。
「ノアに会いにきたんだよ」
マルフォイは淡々と言った。
「嘘だ」
これも淡々と。そしてアイスブルーの瞳を燃えるようにに向け、てのひらを頬に添えた。
まただ、なんとなくはそう思った。


「お前に会いに来たんだよ」


近づいたドラコの唇をよける余裕がなかった。
理由もなかった。
…つもりもなかった。







「これは挨拶?」
唇といわず頬に額に首に耳に溢れるほどのキスの嵐が降ってくる。
「いや」
なにを言ってるんだ、とでも言うようにドラコはを見て、さらにまぶたにキスを与えた。
「お前を愛しているというしるしだろう」
もっとも、挨拶のたびにこうして欲しいというのなら話は別だけどな、と意地悪くドラコは笑った。とても嬉しそうに。

「愛している?」
はオウム返しで返した。
双眸は大きく見開かれ、いくつものキスを甘んじて受けているくせに頭を傾げた。
身体全体でそれを感じ取っているのに、頭は理解していない、そんな感じだ。

「そう、僕は君を、愛している」

ゆっくりと、ひとつひとつの言葉を区切ってわかりやすいよう、聞き取りやすいようドラコは言った。
あいしている――――…愛して、。

突然頬が赤らんで、はそれを急激に理解した。頭で。

「あ…、あい、あい、あい…っ!!!?」
「馬鹿だな」

馬鹿にしたように言うドラコの言葉は辛辣だった。けれどその目はいつもの、例えばグリフィンドールの彼の天敵である者たちに向けるような視線とは違い、優しかった。
ニヤリと不敵に笑うドラコは今、その言葉どおり敵なし不動の自信を持っている。
そしてそのまま本に視線を戻していく。
馬鹿だな、と。ドラコの声が頭の中でずっとリフレインし、胸をしめつけた。
ふわふわのノアを抱きしめて、それをやり過ごそうと思えるくらいに。
読みかけの本は放り出されたまま、いまさらそちらに集中することも出来ない。

「あ、うん、え、でも、あれ?聞…かない、の?返事とか」
「馬鹿だな」

ページをめくる手そのままに、ドラコはに笑いかけた。
聞かなくてもわかってるだなんて、きっと、そんなところ。
だって、言わなくたってわかってる。胸の中絶え間なく打つ心臓の音がそれを教えてくれるのだから。

ノアがみゃおんと鳴いた。
ほっぺたはいまだ熱をもっている。








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お久しぶりです、もう少し休みます。2月中旬以降は帰ってこれると思います…多分。

2005/2/6   アラナミ