「………おい、」 振り返ったそこには、ドラコマルフォイがいた。 シャランラ、星空にタンバリン投げつけて 4 …………………。 嗚呼、あたしは。 日ごろの行いも悪くはないし、頭だってそこそこだし、性格は少しユニークと言われながらにも顔は悪くないので一般的な見方をすれば中の上、ないし上の下くらいの位置にいるくらいだとおもわれるのですが、つまりまぁそこそこ申し分ない女の子なわけで、そんな女の子が恋人たちの三大イベントともいえる中のクリスマスダンスパーティでパートナーも見つけずに壁の花となり(ジョージ先輩は除く)、ダンブルドア校長先生様にはだまくらかされたー!!と苦悶しつつもどうしようもなくうじうじとクリスマスプレゼントも貰わなかったわーとアンニュイオーラを放っていたわけでありまして、まして。 今この目の前にいる人っていうか声をかけた人って言うかドラコマルフォイ君っていうか、 ウソだーーーー!!!!! きっと今の可愛そうなあたしを見かねて脳が勝手に幸せな幻覚と幻聴を作り出したんだ。うん、そうに決まっている。 「おい、声をかけてるだろう、聞こえないのか?」 まるであたかも本物のように動き話す幻覚幻聴は素晴らしくいい出来だ。 それってあたしがいかにいつもマルフォイ君をよく見てるかってことになるのかなぁ。捨てたもんじゃないでしょ! とかいっても接点がないからにはどうしようもないけどね、あは!! てゆうかあれよね、あれ。 もしもこれが幻覚なんだとしたらいいことに普段味わえないことをしてみちゃったりしてもいいかしらね。 例えばマルフォイ君に話しかけてみたり、笑いかけてみたり、笑いかけて貰っちゃったり、あまつさえ好きです!!とか言っちゃったりね!! 「こんばんわ、マルフォイ君!!」 にっこりあたしはマルフォイ君に笑いかけた。 ちょっとびっくりしてるわ、なんてリアルなのかしらあたしの幻覚!!素晴らしいわ!! 「ここも庭が一望できるのよ、素敵でしょ」左手で横に座るよう促した。 マルフォイ君は無表情のままゆっくりと足を運んできた。だけど座りはしない。 ああ、でもこの光景をもしもグリフィンドールの誰かに見られてしまったらそれこそ絶句ものでしょうね!って言っても幻覚だからあたししか見えないんだけどね!! それにしてもここは雰囲気がありすぎる。 なんて素晴らしく恋人たちのスポットっぽいありさまであるのだろう。 そこにあたしは一人、脳が見せた幻覚に声をかけて笑いかけて少なからずの喜びを噛み締めているのね。情けない!! 思わず頭がたれてしまってよ!! 「はぁ…」 「…なんでため息なんてつくんだ」 「なんだか自分が情けなくって」 噴水はキラキラ、フェアリーはフワフワ。 好きな人がいて、好きな人はあたしでない他の女の子と踊ってて、あたしは外でひとり。 「あたし、マルフォイ君と踊りたかったな」 「はぁ?お前、名前は?」 「」 ぽつり、と自分のフルネームを心の中で反芻した。 家は本家から分裂した小さな分家だ。 スリザリンの気質を持つ本家から家に嫁に来たのがあたしのひいお婆ちゃんだった。 あたしの家系はマルフォイ君が誇りと思う純血のそれに属していた。 それはいつもあたしにひとつの安心感を与えていたし、数少ないあたしと彼を繋ぐものだった。ハーマイオニーにし悪いと思っていたけれどね。 「、お前はどうして僕と踊りたかったんだ?」 「あたし、マルフォイ君のことが好きなのよ」 すんなりと口をついて出た言葉にあたしはまたため息をついた。 この言葉をハーマイオニーや友人たち、そしておこがましくもマルフォイ君本人に言うことができたらいいのになぁ。 夢と現実の違いってやつなのかしらね。 幻覚のマルフォイ君は未だそこに立ち尽くしたままでいる。 そろそろパーティも終わる頃だろうか、特に誰とも約束をしたわけではないので今日はこのまま帰ろうかとそこを立ち上がった。 黒のビロードのドレスローブと、このシンプルな白のドレスローブはきっと美しく映えるんじゃないかと思って、それは叶わない妄想だと思わず苦笑した。 さようなら、マルフォイ。 開きかけた口からは言葉は音となって出ることはなかった。 マルフォイ君の伸ばされた手があたしの手を掴んだからだ。 ウソ!!どうして!? 「じゃあ踊ろうか」 しっかりと通る声は耳を伝わり、まるで電撃のように駆け抜けた。 幻じゃない!! 突如理解した事実に今までの自分が言った言葉がまるで波のように押し寄せてくる。 ヤバイ、あたし、なんてことを言ってしまったんだろう!! 頭のてっぺんから足のつま先まであたしきっと今真っ赤になってる!!って思うほどに体温が上昇しているのがわかった。 かろうじて見上げたマルフォイ君の微笑みは、少し意地悪そうに見えた。 チキショー、ダンブルドア校長大先生様どうもありがとう!!!!! マルフォイ君のダンス権はおろか、くちびるまで頂戴してしまいました。えへへ!! ---------------------------------------------- とりあえず、完。 星空にタンバリン投げつけたくなるほど嬉しい気持ち! 2004/9/17 アラナミ |