感情的夢遊病 天蓋は見慣れたものだ、そもそも誰のベッドで寝ていようと。 (なんたって、ここにいる生徒全員分同じなんだから当たり前だ) 朝のけだるさとまどろみにうとうとして、私は柔らかな羽毛布団を顔まで持ってきてうずくまった。あたたかい。 そして完全に夢の中へ落ちきろうとしたの鼻腔を掠めた慣れた柔らかな香りに、ほっと安心しつつも目を開けざるを得なくなってしまった。 あ、あれ?この香りって…… まとわる香りは独特のものでもなく、自然な。 だけど長年共にあり続け、なくてはならないとも言い切れないが、でもここまでこんなにも共にあるわけではないそれ。 就寝を、共にするほどまでには。 もぐりこんだ布団の向こう、30センチほどの隙間を開けて(もしかしたらそんなにもないかもしれない)、人の形に盛り上がってて。 ひっそりと覗いたそこには、キレイな細い、金色の髪があった。 見覚えのある、あるどころじゃない、見覚えきってしまった、髪。 知っている、その髪を誰が持っているかなんて、知らないはずがないのだ。 な、 「なんであんたがあたしのベッドの中にいるの!?」 突然あがった大声に隣で端正な顔をして眠っていたドラコマルフォイは眉間に皺を寄せ、低く唸った。(そういえば彼は低血圧だったっけ) 「ねぇ起きて、ドラコ、なんであんたあたしのベッドに―――」 「…ここは僕の部屋だ」 低い声にの声が遮られる。いや、ドラコの言葉にが黙ったのかもしれない。 だってそれはとにかく、にとって衝撃的な言葉だったからだ。 「えー、な、なに?ドラコの部屋?」 慌ててまわりを見渡せば、たしかにここは自分の部屋ではない。 お気に入りのスリッパがないし、いつもローブをかけているハンガーが見当たらない。 可愛がってるペットもいないし、ルームメイトだっていない、そしてなによりベッドがここひとつしかない。 広々とした部屋だが、どう見てもここにはひとり分の生活雑貨しか置かれていない。 机もベッドも、教科書もローブも。 はパンジーと同室で親友だ。彼女はよく外泊してくるけど(その大半は友達との酒盛りだ)ベッドごとすべて持っていくなんてありえないし、いつも明け方にはちゃんと戻ってきてる。 てゆうことは、ゆうことは。 ああ、やっぱり、ドラコの言ってることは正しいんだ。あたしがドラコのベッドにもぐりこんだんだ。…理由はわからないけど。 怒涛のようにめぐった考えに、は眉を顰めさせた。 「なにかショックなことでも?」 眠いのか不機嫌なのか、ドラコはしかめっ面で開ききらない目をに向けて見た。 だって!とは言うけれど、ドラコはそれを無視して言葉を続ける。 「僕と君は幼なじみで許婚だ。今まで家族のように育ったし、いつかは家族になる。つまり、未来の夫婦である」 ドラコはけだるげにへ手をのばし、ゆっりと目を瞑った。 「それはそうだけど…」 「別にいいじゃないか、僕は君が好きだし君も僕が好きだろう?」 ドラコの手はの手に重なり、まるで甘えるように頬にすり寄せて静かな吐息をもたらした。 なんて自信をもった男だろうか。少しの揺らぎもない、確固たる確信を持っている。 は胸が熱くなるのを感じた、頬もだ。 ドラコをたまらなく愛しく感じ、そして彼に愛されていることを誇らしく思う。 「幸せだろう」 そして彼は寝息を立て始めた、幸せそうに。 幸せだ、大好きだ。 こんなにも嬉しいことはない。 一番はじめにあった驚きはもうすでにどこかへいってしまった。いつか同じことが起きても、はすぐに照れたように笑ってまた寝息を立て始めるだろう、ドラコのように。 「そうだね、ドラコ」 は微笑んでドラコの隣に納まった。 手を繋ぎ、頬を寄せ、ふたたびあたたかさにまどろんだ。 大好きな香りにくすぐられて。 「ねー、見なかったー?」 スリザリンの談話室でパンジーはそこにいる人たちに聞いて回っていた。 もちろん、ドラコの忠実なる金魚のなんとやらでもあるグラップとゴイルも。 ドラコに熱をあげている彼女も、本人がいなければ暴君と化す。 だってパンジーが好きなのはドラコなのだ、ドラコに付属しているものたちなどどうでもいい。 むしろ使える者は使え、スリザリンであるならば。 「おっかしいわねー、昨日(酒盛りに)出かける前はいたのに……」 「なぁパーキンソン、おれたちもう帰」 「ビスケットあげるからきびきび探しなさいよ」 「…はーい」 消えたを探しゆく人3人。 ひきずりひきずられ、あきらめ向かったその先で、3人が目にするものは、幸せの終結点。 パンジーの甲高い悲鳴に、多分ふたりは起こされる。 ------------------------------------------- 無性にドラコが好きでたまらない。 愛だ、愛―――! とてもカコイイーと思うときあればヘタレーと叫んでる時もある。 でも好き、映画3作目は前髪下ろしてて非常にモウェです。 C VanillaRadio あらなみかいり 2004/6/19 |