パンジーパーキンソンはあたしと同室で友達だ。けっこう仲もいい。
同室で友達といえばたいていは夜遅くまでおしゃべりに時間を費やすもので、それが年頃の女の子ならば当然のように好きな人の話題へと行く。

パンジーはドラコマルフォイが好きなんだという。

あんたはと聞かれ、特にいもしないのになんとなく言わなくてはならない気がして「セドリックディゴリー」と答えたのを覚えてる。
驚く同室の友達たちになんでかと聞かれ、顔がいいからと答えたのも覚えてる。
まぁね、たしかに顔はいいわよね、と同意を示してくれたのでよしとしようじゃないか。

だけどこの同室の(というかスリザリンの)女の子どもは7対3ぐらいの割合で好きな人は「ドラコマルフォイ」と答える。
次いで多いのはセドリック(顔!!)だった。
そして意外にも多いのはグリフィンドールのウィーズリーの双子(母性本能が働くらしい)(あたしはそれは信じられない)。まかりまちがってもハリーポッターなどと言った日には血祭りにあげられることはなくても、それ相応のリスクを負うことは間違いない。(でもあたしはどっちかっていうとマルフォイよりポッターがいい。)

とにかくとにかくとにかく、だからあたしはマルフォイのことなんてこれっぽちも好きではないし、普通だ。
むしろどっちかっていえばどうでもいい部類に入る、きっと。


なのにあたしはどうしてか放課後の人気のない棟の空き教室でドラコマルフォイとふたり、キスをして、それをパンジーに目撃されているんだろう。









   これは恋なんかじゃない








はじめそれはとても柔らかく優しく触れたのだ、まるで羽根みたいにね。
目の前にいる少年は、金髪のアイスブルーの瞳を持ったスリザリン女子に一番人気のシーカーだ。
彼を形容するならば、彼の中身をまったく知らない誰かは間違いなく天使のようだ、などとのたまうだろう。
あたしにとっちゃ悪魔だ、こいつは、本当に。

パンジーを目の前にして、彼はそのくちびるをはなすどころかますます深く角度を変え、いやらしく舌で口内を弄んだ。

「やっ…」
やめて、と言おうとした言葉は、そのくちびるから吸い取られ、ぴちゃりと音を立てて衣擦れのだけする教室にやけに大きく響いたと思う。

マルフォイの手は優しくの頬を撫で、それからゆっくり下へ移動する。
首筋を撫で、喉を辿り、鎖骨に指を這わせ、ゆっくりその指と手は服の中へと侵入していった。













ぼふんっと一番初めに聞こえた音はなにかって、それは飛んできた枕がに命中した音である。
ぼふん、ぼふん、ぼふん・・・
次々と枕は投げつけられる、同室の、女の子の、自分を除く全員分の枕が次々と狙って命中される。
そしてすべて投げつけ終えて投げる枕がなくなったころ、全員一斉に声をそろえて「ズルイ」とのたうった。

「ずるい、ずるいわ。あんた一体どうやってマルフォイのハートを手に入れたの?ずるいずるい!!
ああ…その唇にマルフォイの唇が触れたのね、うらやましい。さぞ柔らかかったことでしょうね。
ああ…あたしも触れたい、触れたい…あんたの唇にキスしたら間接キスになるのかしら…」
もはやパンジーの目はのくちびるから離れようとせず、恐ろしい。
は身の危険を感じつつ警戒しつつ後ずさった。

「やー…別にマルフォイはあたしが好きなわけじゃないと思うよ、うん」

逃れるために適当なことをいったけれど、だけどそれは逆効果みたいだった。
なんで、どうしてと彼女たちは詰め寄り、は埋もれてしまっている。
「アイタ!!」
誰かがの足を踏んだ。
恨みか妬みか…まぁどうでもいい。わかっちゃいたさ、とにかく今はそんなことよりも彼女たちを落ち着けなければ。

「ス、トォーップ!止まれ、止まりなさい、それ以上近づくんじゃないわよあんたたち!」

襟首掴もうったってそうはいかないよ、お嬢さん方。
てゆうかとにかくあたしの話を聞け!

「あたしは彼のハートを手に入れたわけではなく、たまたま忘れ物を取りに行った教室で鉢合わせた彼の衝動にされてしまっただけなのです!!」
おわかり!?と言ったら、わかんないわよ!とパンジーにさらに枕を投げつけられた、しかもかなり強めに。

「ぃったぁ〜!もう物投げないでよね!!つまりアレよ、年頃のマルフォイは欲望の捌け口にあたしをム…」
ムリヤリ、と続けようとしたら同室の彼女たちがギロリとこちらを睨んだので、あたしはひとつ咳払いをして言い方をソフトに変えてみることにした。
「えーっと…キスしたいときにあたしが現れたんじゃないッスかね」
だからあたしじゃなくてもよかったんじゃない?と言ったらさっきまでの剣幕はどこ吹く風か、彼女たちは嬉しそうに頬を染めてキャアキャア騒ぎ出し、挙句マルフォイ君なら遊ばれたっていい(ハァト)などとまでのたうち始めた。
恐ろしい子達…っていうかいたいけな女の子たちにそんな言葉を言わせるマルフォイもどうなのよ。
それもマルフォイブランド(金持ち!!)の成せる業なのかしら……れでもあたしにとっては嫌なことに変わりはないけど!!

「まぁ、そういうわけだからみんなも頑張りなよ」
ひらひら手を振ってあたしはそのままベッドに潜り込んだ。
唇の感触はいまだ生々しい。

きっとマルフォイにとっては一時の性衝動のようなものでただの暴走なんだ。
あたしのことなんてなんて思ってない。
あたしだってマルフォイなんてなんとも思ってないわ、やっぱりセドリックかポッターのような男がいいわよ、絶対。
…絶対。


なのにどうして動悸はせわしなく動き、胸は締め付けられるほどに切ないんだろう。























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これはあまりにもルシウス殿下っぽいので変えようと思ったらセドリックやポッターはおろか双子まで表記してしまったので、面倒だからマルフォイジュニアのままでお届けですよ(殴
あ…ポッターはともかくセドリックをシリウスに、双子をロクハートとかに変えればよかったのかナ?パンジーじゃなくてナルシッサとかにすればよかったのかな・・・?
でもそうしたらあまりに可哀想だからおまけを書いてみました。





おまけ



「ウソついてんじゃないわよ、 !!!!!」

和気あいあいと賑わう談話室で、けたたましい叫び声と共にパンジーは現われた。
鬼の形相、とはまさにこのようもののことを言うのだろう。
ああ、パンジーの後ろからはドラコマルフォイが顔を出して。

「僕は君に好きだと言わなかったか?」

言いませんでしたよ、これっぽっちも!!!!!!
首を傾げて言ったってツッコミは思わず全力で入れちゃいますよ。
ああ、もうあたしはこの何か順番を飛び越えて間違いを犯したうっかりもののお坊ちゃんに向かって心の中で何度も呟いた。

これは恋なんかじゃない!!!






2004/10/9     アラナミ