百万本の薔薇の花束を君に 「僕と付き合え」 しれっといけ高々と、挙句馬鹿にするように見下して。 その口から出たのは命令口調。 あー・・・・・・なんでしょうね、この人は・・・。 怒るというよりは、むしろ呆れるといったような気持ちで、私の目の前に立つこの男を見つめる。 (私よりもチビのクセに・・・) 「おい、聞いているのか?」 「はいはい、どこに付き合えばいいのかな?(反応返さないと怒るって、お子ちゃまよね)」 「馬鹿か、お前。付き合うって言ったらどこにとかじゃないだろう」 「あー、はいはい(こいつの言うことなんていちいち考えてらんない)」 「(ムッ)付き合うのか、付き合わないのか?」 「(んな怒ったように聞かなくても・・・) イ ヤ」 「何故だ!」 「・・・・・・(まるで自分が振られるなんて有り得ないとでも言いたいような態度ね)」 「何故だと聞いている!」 「イヤだよ、あんたなんて」 鼻で笑った。 プライドを傷つけられた彼の顔は真っ赤に染まる。 いい気味だ。 私はドラコ・マルフォイが嫌いだ。 「おはよう、」 「おはよー……」 のっそりと身体を起こすと、ルームメイトのヘレンが声をかける。 ヘレンは誰よりも早く起き、朝の支度をしている。 私は彼女の動き回る微かな物音で、いつも目が覚める。 伸ばした髪の下の方でくるりと丸まった癖っ毛が、どうにも彼女の気に入らない要素のひとつらしく、いつも念入りにブローしている。 可愛いのに……私がそう言っても気に入らないものは気に入らないらしい。 2つ違いのグリフィンドールの双子にからかわれたのが原因らしい。 イタズラ好きの、赤毛のウィーズリー。 そんなの気にすることないと思うんだけどな、どうせ彼らにとってそういうことは日常のようなもんだ。 たけど彼女がこうもムキになるのは、ひとえにあの双子のうちのどちらかが好きなんじゃないかと思う。 …前に聞いたら上手くかわされたけど。 「そうそう、まぁた薔薇が1本届いてるわよ」 ホラ、と促されれば、1本の赤い薔薇を加えたワシミミズク。 眉間に皺を寄せて受け取る。 刺はご丁寧にもキレイに、すべて取り除かれている。 極上の紅を持った薔薇。 それはとても美しいと思うのだけれど。 「また?いい加減にして欲しいんだけど」 ベッドから降りて最短距離の窓を開ける。 朝の冷たい空気が痛いくらい私を浴びせる。 それと一緒にワシミミズクが羽ばたいて。 私はそこから薔薇を投げ捨てる。 窓の下には、ここ毎日私が投げ捨てた薔薇が重なって山となっている。 うざったらしいったらありゃしない。 これがあのハリーポッターとかから贈られたってんなら、喜んで生けるかドライフラワーにして永遠にでもとっとくわよ。 あの、ハリーポッターならね。 彼は私好みの男だもの。 スリザリン寮に入ってれば大歓迎だったのに。 「がそこから花投げ捨てるのも、日課みたいになっちゃったねー」 「ハッ、冗談じゃないわよ」 まったく、本当に冗談じゃない。 「でもいいじゃない、贈り主はあの人なんでしょ?」 「ドラコ・マルフォイ!」 いつの間にか起きたらしいパンジーが、羨ましいものでも見るかのように笑って言った。 「嫌いな人から貰ってもねー…いらないだけだし」 「って変よ、だってあのマルフォイ家のひとり息子!みんな羨ましがってるよ?」 「そうそう、私だったら即オーケイなんだけど!」 朝だけど、知らず知らずのうちに盛り上がってしまう話。 こんな会話が、女の子は大好きだからだ。 「やぁだ、パンジーってあーゆーのがいいわけ?私絶対イヤよ」 男は適度に優しくて、強くなきゃダメだってば。 付け加えて言えば、反論するようにパンジーが言う。 「絶大な権力と財力はあるじゃない!」 はぁ…この子は。 「だからイヤなのよ」 言い切った私に、ヘレンは笑って、パンジーは頬を膨らませた。 「おはよう、。今日もキレイだな」 「……………」 大広間のテーブルに席をついたら、どこからともなく彼はやってきた。 変声期も訪れていないような男が、どこからそんな言葉を出すかね。 声が低くてなんぼのもんでしょーに。 あ、パンジーの顔が微かに赤い。 好きなんでしょーかね、こんな俺様男。 「あ、ヘレン!バター取って」 「はい」 こんがりと焼き目のついたトーストに、薄くバターを塗る。 かじったトーストはオレンジジュースと一緒に胃に流し込むのだ。 「バターだけじゃ栄養が偏るぞ」 うっさい、黙れ。 朝はあんま食べたくないんだよ。 大体、朝はあまり食べない私より、あんたの方が色白い上に細いじゃないか。 イライラしていたら、目の前の席にマルフォイが座った。 うわ!やな感じ!! 「……ごちそうさま」 「えっ!?ちょっと、まだ半分も食べてないじゃない!」 席を立ち上がったら、ヘレンが私を呼び止めた。 ごめん、友よ。 目の前にあんなのがいたら食べる気なくなっちゃったの。 だから私、そこでは食べない。 そもそもの食欲不振の原因はあれなんだから。 のそりのそりとグリフィンドール寮のテーブルへ向かう。 見つけたハーマイオニーに助けを請いに。 「ハーマイオニー、ハーマイオニー!」 「あら、どうしたの」 ここに来るとグリフィンドールの視線が結構痛かったりするんだけどね。 でもね、 「私、入る寮間違えたかもしれない」 そう言って項垂れれば、痛い視線も柔らかくなった。 それから私、グリフィンドール生に混じって朝食を摂った。 ……後から来たスネイプ先生に連れもどされるまでは。 こんな日常が毎日だ、冗談じゃない。 あの日、あいつから挑戦とも言えるような告白を受けてから。 大体、一刀両断で拒絶したあれを聞けば普通の男はもう寄ってこないのに。 なんてしつこいというのか。 苛立ちは最高潮。 限界に近づいた私は、朝からベッドから出ることもなく、仮病を装って、部屋の中。 相変わらずワシミミズクは室内にいるけど、ずっと無視する。 その動く微かな羽音さえ苛々するくらいなのだから。 「……お行きよ、私はその花は受け取らない」 そんなことを言っても、言いつけられたペットにとっては困るだけなのでしょうけど。 「要らないのよ」 ひとつ杖をくるりと回して、窓を開けさせる。 冷気が部屋の中に入ってきては、私の身体を撫で付ける。 「お行き」 ややあって、静かに羽音が外へ向かって消えていく。 代わりに、ひとりの人が入ってきて。 「…スネイプ先生に見つかったら大目玉よ?」 クスリと笑って、それからゆっくりとベッドから身体を起こす。 仮病を使う必要はない。 だって彼はきっとわかっているはずだ。 「それでも女子寮に忍び込んだというの?」 顔をそちらにやれば窓を閉める彼の手。 ご丁寧に緑のカーテンまで閉めてくれた。 「ああ」 無表情で私を見るその目。 彼は静かに微笑していた。 両手に紅の薔薇を溢れんばかりに抱えて。 「どうして」 「お前が好きだ」 そうして彼は両手から溢れんばかりの薔薇の花束を、私に渡すのだ。 百万本の薔薇の花束を、私に。 極上の紅は、私の心を紅く染めてくれるとでも言うのでしょうか。 「私、貴方みたいな人嫌いよ」 まっすぐ見据えて告げるけど、彼は小さく苦笑した。 「好きになるさ」 まるで誰かのように自信たっぷりに言い放つ。 なんて、嫌味なんだろうか。 無意識に瞑ってしまった目。 柔らかく触れ合う唇。 今はただ、それだけ。 ------------------------------------ バレンタイン企画で書いていたものを発掘。 中途半端に書きかけていたので加筆。 私は一体どんな話を書こうとしていたか、皆目見当つかずで大変でした。 ヤバイ、半年前の自分は自分であって自分じゃない。 2003/8/31 アラナミ |