常に私には手が差し伸べられていた。
同情でも助力でもない、愛という心情を向けられたただひとつのものが。


私はそれを厳かに誇らしく受け取った。


赤いベルベットの絨毯の階段を、ゆっくり優雅に下り立った。
ナイトはふたり、おひめさまは私。








 踊りましょう、赤い靴で。








同じ顔ふたつ、笑い顔みっつ。
赤のベルベットの上跳ねて、裾を揺らしましょう。


だれも知らない、3人だけの秘密のダンスパーティー。
私たちは人目をはばかる秘密の恋人たち。

「赤のドレスが素敵だね、
にっこりと笑いながら恭しく手の甲にくちづけ、腰を抱いて彼は静かなワルツのエスコートをした。
裾が揺れる、そして一緒に踊るのだわ。

「その赤い靴も、とてもよく似合ってる」
奪い去るように強引に手を取り、軽やかなクイックステップを。
元気さに、とても似合う色よ、素敵に躍らせて。

「ありがとう。貴方たちも、素敵よ」
密やかにくちづけを交互に交わす。
私たちは秘密の恋人だ。
だれも知らない、知られてはならない、3人きりの、背徳者たち。
白い腕はフレッドに絡み、スレンダーな足はジョージに絡んだ。
最高に愛しいふたりの腕はの腰と背中にまわって離さない。

「アンジェリーナとは、楽しく踊れたのかしら?」
小さな棘を含めて、は笑った。
ちくりと刺すように思い出したのは先日の合同ダンスパーティ。
フレッドは苦笑して深くその腕にを抱きこんだ。
「ひどいなぁ……賭けに負けた僕は君と踊る権利も持ち合わせていなかったのに」
優しい腕は言い分けるようにを宥めようと必死だ。
だけどジョージはなにも言わずにの髪を梳いてそれを見つめていた。
最高なライフワークをふたりして協力して送るわりには、こういうことにはシビアらしい。
いや、もしかしたらの気持ちを尊重していたのかもしれない。

「ええ、そうだったわね」
あの日爽やかにアンジェリーナを誘ったフレッドを、は少なからずの嫉妬を持って見つめていた。
ソシアルダンスの決まりは男女一組のペアだ、3人なんておかしいのだと、は充分に承知していた。
「ジョージとふたりで踊ったわ」とフレッドに絡ませた腕を取り上げ、そのままジョージひとりにすべてその身を預けた。
フレッドは困ったように苦笑して、その腕でを追いかける。
前にジョージ、後ろにフレッドと抱きすくめられ、は満足そうに目を瞑った。
薄い赤いドレスがふたりの男心を弄ぶように煽ってく。

「ジョージとふたりで楽しかったけど、私、3人で踊りたかったわ」

流れ出る音の波にあわせて激しく静かに踊りたかった。
彼らふたりの手に取られて初めて自分は幸せになれるのだとは拗ねたように言った。

「ごめんよ、
浅はかだったねと彼は言い、厳かにその白い首に赤の華を咲かせた。
最高のアクセサリーじゃないか、とジョージは笑い、倣ってもうひとつ華を咲かせた。今度は鎖骨付近に。

だけは知っている。
他の誰とでも陽気にはしゃいでしまえる彼らだけれど、こんなにも物言わぬ色気を持って最大限誘惑してくるのは自分だけなのだと。
彼らひとりずつ手に取られた手先、その指にも厳かに柔らかく神聖に舌が這わされた。
まるで女神に愛を乞うるように神聖で清らかだ。
性欲と人は言うかもしれない、でもそれは情欲で愛欲だ。
根本にあるものは相手をすべて自分のものにしたいという欲とひとつになりたいという愛。
そう、好きならば愛に従って踊るのもいいじゃないか。

「私も貴方たちにつけてあげるべきかしら?」
はにっこりと笑った、嬉しそうに。
フレッドはもう何回目ともつかない苦笑をに向けた。
きっと彼女はとっくに許していたのだろう、そして楽しんでいたんだろう。

「つけて欲しいな」
「是非」

ゆっくりと柔らかに彼らは笑い、そしての顔を覗き込むように屈んだ。
彼らのタイはもう既に外されていたし、の肩にゆったりとかかる袖はもうすでに半分の意味をなくしていた。
零れ落ちそうな胸元にふたりはどちらからともなく手と唇を伸ばしていった。

「君の口紅でも、爪あとでも、どちらでもいいさ」
「できればたくさんつけて欲しいし、つけてあげるよ」





ベルベットの絨毯は、私たちのために敷かれていた、きっと。
夜の帳はとっくに落ち、そして甘い時を待っていたに違いない。
3人が熱い吐息をもたらすのを、待っていたに違いない。



重なる影、
3人分、
真夜中の、
秘密のダンスパーティ。


たくさんの華を散らされ、咲かされ、昇華する。
私は踊る、腕の中。
赤い靴を履いて、踊り続ける…貴方たちと一緒に。






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び、微エロー!なのかしら?(自分で考えてしまった。)
双子はとても子供なイメージととても大人なイメージがあります。
今回は大人な感じで。
4巻ダンパネタ混ぜ込んでみたり(いやいやあれは双子好きには衝撃でしたってば!)


C VanillaRadio
あらなみかいり
2004/6/19