彼らはいつも突然現われる。

………きょうは彼、ひとりだけだったけど。





   ラブ ロワイヤル





お風呂上りにまったりと、は自室で本を読んでいた。
ファンタジーでハッピーなラブストーリーだ、かなり昔の。
いつもより少し早めに入り、少し早めにあがったせいか自室はただひとり、静かで有意義な読書の時間を満喫できている。

だけどそれももうおしまいだな、とは思った。
近づいてくるものが、それを壊してしまうだろうと思ったからだ。
だけど決してそれが嫌ではなく、また嬉しいものだと思えてしまうから、少し複雑でもある。
きっともう、すぐそこにいる。
もう気配で悟れてしまうほど、は彼らと共にいたし、彼らもの傍にいた。
そういうことなのだ。

「やぁ、ごきげんよう マイプリンセス」
ふわり、とそれはを抱きすくめ、後ろから耳元に小さくキスを送った。
相変わらずきざったらしく、そして決して嫌味ではない。
「ごきげんよう、今日は少し早いのね―――」
振り返ったは、自分を抱きしめるそれがいつもやってくるものたちの片割れで、そしてただひとりであることに気がついた。
自分を抱きしめる腕が4本ではなく、2本。
少なからずの違和感を覚えつつも、は彼に尋ねてみた。
「フレッドはどうしたの?」
「ノンノン、なにを仰られますか。僕がフレッドであらせられますぞ!!」
自らをフレッドと名乗るそれはますますを抱きすくめ、そして今度は首筋にキスを落とした。
今度はキスマークをつけるという応酬つきだ、ぬかりがない。

「ジョージは嘘つきね。似てるって言ったって違うところはあるし、なにより貴方、使い慣れてないわよ、その言葉遣い」
の言葉に、自称フレッドの談ジョージは、面食らったように一度大きく瞬きし、それから白い歯を見せていたずらに笑った。
「ばれたか」それでは彼はとても嬉しそうに笑うから、もにっこりと大きな笑みを返した。

「で、フレッドはどうしたの?」
「んー、まぁなんてーの?出し抜き抜け駆け卑怯姑息………ま、たまにはいいだろ!!」
君をひとり占めしたかったんだ、とジョージは笑った。
「ひとりじめもなにも、私は貴方たちのものになった覚えはないんだけど」
頭を傾げてみれば、きっと彼はひどいなぁだとか言って笑うだろう。
まったくその通り、だけど彼の笑いは苦笑でも乾笑でもなく、このやり取りを楽しむくすくすという楽しそうなもの。
「だけどオレは君をオレだけのものにするって自信はあるさ、少なくともフレッドよりはな」
を抱きしめる腕と手は意識を持って肌に密着し、風呂上りの温かな肌に直接触れてきた。
たった一枚のキャミソールと短パンなんて、どう考えても誘っているとしか思えない、と予告もせず勝手にやってきた侵入者は思った。

「やぁだ、やめてよ」
温かな体温には少し冷たいジョージのてのひらが、薄いキャミソールの胸元から入り込もうと思索する。
は制するような言葉を発し、身をよじったけれど嫌がる様子は微塵もない。
これは恋のかけひきだ、互いを見やり、次の手を見るシーソーゲーム。
「いやよいやよも好きのうちだって。ところで下着をつけてないのはやっぱオレに頂いてくださいって意味?」
質問の答えなんか待たず、ジョージはくるりとの前へすべりこみ、その胸元にキスを落とす。
女の子の証であるやわらかいふくらみは、魅惑的で扇情的に揺れた。
布越しにその下に何もつけていないのだとわかるその生々しさが、ジョージに火をつけるのは言うまでもない。
「意味も何も、お風呂あがりなだけなんだけど」
「うん、準備万端ありがとう」
きゃあ、と小さな悲鳴が上がった。
まくしたてられたキャミソール、あらわになった胸、それに手を添えジョージはにくちづけた。
舌と舌をあわせる濃厚なキス…君が欲しいという意味だけを込めた神聖な。

唇と舌、それからいたずらな指先に翻弄されながら、はふいに思った。
そういえば、ジョージはなにごとも曲解にとらえて都合のいいよう解釈するんだっけかと。
彼はとても積極的だ。
あの片割れとふたり一緒だと、同一化して破天荒、元気、積極的で好奇心旺盛に見られがちだけれど、本質は違う。
フレッドはあれで結構慎重派で、積極的なのはジョージだし、相手を省みずどんどん好き勝手やってしまうのはジョージだ。
そしてフレッドは物腰が柔らかいくせにけっこう意地悪だ。
好奇心と探究心は、ふたりとも同じくらいなんだけどね。

「こういうとき、他のこと考えてるはマナー違反だろ」
少しむくれたジョージの顔、ごめん、と言うまもなく…いや、言わせる前にジョージはに小さく高い、艶やかな声をあげさせた。
顔を埋められた胸、舌先でいやらしく翻弄される。
「、あっ…、」
引き離すためにジョージの頭に手を伸ばした、だけどきっと無駄だ。
は知っている。
もうほんのあと少ししたら、これは抱き寄せるためのものにすりかわってしまうから。

「やらしー……」
「もっ…どっちが……!!!」
ジョージは笑った、とても満足そうに。
そして短パンに手をかけ、撫で回し、ゆっくりとそれをなくしていった。
の身体はビクリと震え、不安そうにジョージを見つめた。
軽いペッティングならば今まで何度もあった。それも1対1ではない、フレッドとジョージを見舞えた、相手は自分ひとりだけという構図の。
だけどそれから先に進んだことはない。
当たり前だ、とは思った。
彼女たちは3人でひとつになる方法なんて知らなかったのだから。
……いや、たとえ知っていても、それを選ぶことはしなかっただろうけど。

ふたりの共通点に、執着心と独占欲は人一倍強いことを付け加えておこうか。

つまり、あれだ。正直な話。
先に挿れるのはどちらかということでいつまでも決まらないということだ。(下品!!)

「オレがやらしーのは知ってるだろ」
熱く息のあがった声で、耳元に吹きかけられるように囁かれた。
ビクリ、と背中が一瞬のけぞりそうになるのを必死に抑えたけど、たぶんジョージはそんなこと見越している。
とても嬉しそうに笑う顔がをとらえ、そして深くくちびるをあわせた。
ふたり交互に唾液のやりとりをする、いやらくも扇情的にふたりの視界を煽らせ、銀の金糸をひいてゆく。
「ここを……触って、舐めて、挿れて、かき回したい」
子宮の位置に手を添えて、まるで子供が強請るような目でジョージは「いい?」と聞いた。
本質は子供なんて可愛らしいものではない、本能にいきり立つ雄だ。

の手は微かに震えた。
たぶん、自分はここでうんと頷くべきなんだろうと思うけれど、なかなか首は動かない。
ああ、手のひらにいやな汗をかいてきたぞと、は焦りはじめた。

「ダメって言われても、するけど」
それじゃあ詐欺だ、心の準備くらいさせて!!そう言おうとした言葉はのおなかに飲み込まれた。
「あ、やっ…、あっ……!!!」
そして代わりに出されたのはくぐもるような色香を称えた艶やかな声。
ジョージの指先はいまだ誰もが不可侵な彼女の領域をゆったりと撫で回し、そして舌先でもそれを試みようとしていた。
「あっ、やっ、めっ……」
あまり気持ちよくもなく多少なりの不快感が下半身から駆け巡る。
妙な気分だ。はとにかく身をよじり、それから逃れようとした……逃げられるはずがなかったのだけれど。

「っ、、、あんっ!!!!」
苦しむような嫌がるようなそんな声を覆して、それはそれはもうジョージの中心部分を熱く燃え上がらせてヒートさせてしまうようなくぐもった高い声をあげた。
は慌てて手を口にあてて抑える、ジョージもはじかれたように驚いてを見る。
ふたつの視線がぶつかった。はみるみる赤面し、ジョージはますますにやりと笑った。
「よくなった?」
そんな質問、答えられるはずがない。
だけどだけどなのに、与えられる刺激に対し、ひっきりなしに甘ったるい声をあげ、抑えきれず段々と大きくなるものだからそれはもう答えてしまっているのと同じだ。

恥ずかしい……。

舐めまわされ、指を入れられ、増やされ、掻き回され、いつの間にか身体は重なっていた。
そして貪るようなキスをしていた。
腰は勝手に揺れているくせに、手は震えていた。そして心臓は壊れそうなくらい脈打っていた。
重なる肌越しごとそれはダイレクトにリアルに伝わった。


手を繋いだ、緊張した、息がとても近かった、熱い。


熱と熱のぶつかりあいだ、そして愛がこもっている。
身体を翻弄するように動き回る熱と汗は、痛みに一気に冷まされた。
それでも止まらない。
痛みに身体は引くくせに、心は強く深くと求めてた。

この愛の営みは、素晴らしく純粋でいいじゃあないか。
よく処女でなくなったことをキズモノとかいうけれど、の身体と心に残ったのは、そんな痛みではない。
包み込まれる優しいものだ、愛しい、証。
そして心にとけてずっと覚えているだろう。













「きもちよかった?」
「………あんまり…てゆーかそういうこと聞かないでくれる!?」
ぼすん、と枕がジョージにあたる。
しまりのないにやけ顔をたしなむように投げつけられたそれ…きっと彼は照れ隠しだと思ってやまない。
「そっか、初めてだもんな、ごめん。今度はちゃんと気持ちよくさせるから」
胸元を辿る唇、誓うように心臓に一番近い左胸にくちづけた…そして赤い花を残す。

「君はオレのもの、だから誰にも触らせない」
それは近いにも似た宣誓で宣告だ。
フレッドにも、もう触らせちゃあダメだ、と彼は真剣に言った。
はこくりと頷き、彼の頬にキスをした。
それは彼女なりの宣誓。

「いいわ、私はジョージだけのものよ。そして貴方も私だけのものなんだから」

どちらからともなく交わす口付けが、約束の楔となる。
コットンキャンディのようにふわりとやわらかく、気恥ずかしいほど優しいキスだった。















翌日、仲睦まじく手を繋ぎ、教室から教室へと移動するふたりをみかける。
それを見て黙っちゃあいないその片割れは、当然のように走り、近寄り、笑いかける。「やぁ!」
あいたの片手を掴もうとフレッドは手を伸ばすけれど、それはさらりとかわされて、両手すべてジョージの手におさまった。
にやり、とジョージは笑い、フレッドはムッとした顔でジョージを見た。
「抜け駆けは―――」しないって約束だろ。そう続くはずだった。きっとジョージも承知している。
「二股も」含み笑いは見透かすように、そして意地悪く、だ。
フレッドが微かに揺らいだのをジョージは見なくてもわかっているし、なにより確固たる確信があったので言葉をそのまま続けた。
「しちゃあダメなはずだ」が好きなら。
ジョージは畳み掛けるようにの手の甲を引き寄せ、くちづけた。
は嬉しそうに照れくさそうに笑い、それを受け入れ見ていた。
「おまっ…おまえいつの間に……」
フレッドは激しく動揺した、いったいいつ、いつから、昨日一昨日一昨昨日いや今日か?
「昨日お前が談話室でアンジェリーナと話してる間さ」
「ああ、そういえばフレッドはアンジェをダンスに誘っていたものね」
にっこりと、これ以上ないくらいの笑顔をふたりしてフレッドに向けた。

ひとりは本意からの笑顔。
もうひとりは少なからずの優越感に似た笑顔を。

「まぁそういうことだからさ、よろしくな!」
「恋の相談だったらいくらでも待ってるから」

二兎追うものは一兎も得ず、ということだろうかと、ふとフレッドの頭の中に昔の人の言葉がよみがえった。
自分を置いて歩き出すふたりの背中は恋人同士のなにものでもなく、今まで3人で並べていた肩の中から自分だけがイレギュラーで放り出されてしまったのだ。
とてつもない寂しさがフレッドの心をよぎったけれど、彼は持ち前のポジティブさで持ち直す。
「僕は慎重派さ!!」そして少しだけ浮気性なんだ。
さぁアンジェリーナのところへ行こう、とフレッドはきびすを返す。
顔は明るく笑顔でこれからを思っている、実に好青年ではないか!!
そしてアンジェリーナと恋人同士になった暁には、ダブルデートにでもしけこもうかと思う。
右に、左にアンジェリーナ、そして真ん中に自分がいるなんて、最高じゃあないか。

ひそやかなる策謀の真意は、この胸にだけ秘めておこう。
きっとジョージに怒られるから。

フレッドはがジョージのものになってしまったショックなど忘れてにやりと笑い、談話室へと足軽く歩いていった。






-------------------------

ジョージに脚光を浴びせようと思ったらフレッドがおかしくなった。
てゆうか最低です、自分。

C VanillaRadio
あらなみかいり

2004/6/19