「ギルデロイ、好きよ」
私を見上げるが、目を細めて切なそうに微笑んだ。
私はを抱き上げてベッドへと連れて行った。
「私も君が好きだ、とても」







   誰が為に鐘は鳴る 2







女性とはなんて神秘的な存在なんだとつねづね思ってきたけれど、今これほど神秘的で美しいと思ったことはないし、素晴らしいと思ったことはない。
頬をピンクに染めたまま、は微かに震えながら目を瞑っていた。
私は少しずつ彼女の滑らかな肌を露にし、彼女に赤い花を与えていった。
そのたびに身体を身じろがせるがとても愛しかった。
私はことのほかゆっくりと前戯を楽しんだ、キスを落としながら全身に舌を這わせ、時に甘噛んで反応を見た。
乳房に手を這わせ、下と指でもって乳首を転がしてはの甘く漏れる声を聞いて熱くなった。
彼女の中は私にとって聖地だ。ゆっくり時間をかけて愛撫し、私を迎え入れる準備をしようと思う。
高まるたびには強く私にしがみついた。
部屋中に響いたのはいやらしい水音と、の声。
愛の営みに言葉は必ずしも必要であるとは限らないよ、きっとね。

、愛してるよ」
それでも言ってしまうのは、愛が溢れてるからなんだろう。
だって言葉は意識しなくても自然に音を組み合わせて発せられているんだから。
私はの手と手を重ね合わせて、あてがって腰を進めた。
の目から零れる涙をキスで舐めあげながら少しずつゆっくりと、彼女の中に入っていった。
とても熱くて、狭くて、本当にすごく―――気持ちがよかった。
まるで新しい世界を見たような気持ちになったよ。
なんたって私たちはひとつになったわけだしね!!
だから私たちはもうあとはひたすらお互いの名前と愛の言葉を囁き続けながら快楽を貪った。
それはもう何度も何度も、気持ちいいことを憶えてしまった猿のように何度もね。
私はでなくてはここまで夢中になることはないし、もそうであってほしいけど…きっと彼女も私と同じなはずだよ。
きっと、きっとね!!


蝋燭がちろちろと揺らめいて、夜の深さを示そうとしている。
私たちは随分長い間愛を確かめ合い、そして未だペッティングし合いながら余韻を楽しんでいる。
交わす言葉はたわいのない話で、ときおり好きだとか愛してるなどと織り交ぜてはキスを楽しんでいる。

「あたし、貴方に逢えてよかった」
私の腕枕で、は神妙な顔で微かに笑ってそう言った。
「私も君と出逢えてよかったと思っている」
「嬉しいわ、ギルデロイ」
そっと笑い、私の胸に寄り添うはいつものではない、しっとりとした女性だった。
?」
私はの肩に手を回し、彼女の顔を見ようとしたけれど、彼女は頑なに私に寄り添ったまま離れなかった。
はあきらかにおかしかった。
いつものではない、

「あたし、神様に魔法をかけて貰ったの」
「うん」
は小さな声でゆっくりと、そして穏やかに私に語り始めた。
「生き返りたいって……、ギルデロイと抱き合いたいって……」
「うん、君と私は今抱き合ってる」
の華奢な身体に手を回し、私は彼女を抱きしめた。
決して離れないよう、繋ぎとめるように抱きしめた。
「魔法は12時なったら、とけてしまうわ」
小さな息遣いがとても近くに感じられた。
心臓の鼓動がすぐそばにあった。
が、生きているという証拠だ。
この腕に抱きしめる彼女には今、熱い血潮が通っている。


「あたしは、消える」

「ゴーストにも戻れない。魂ごとなくなってしまう」


目の前が真っ暗になった。
そんなの、神様の魔法なんかじゃない。
まるで、悪魔の契約のようじゃないか。

「あたしはギルデロイと一緒に生きたいと思ったけれど、逝き残りたいわけではないの。貴方はあたしの勇者だわ、素晴らしい、とても狡猾な、愛しい人」

私をこんなにも深く貶めて、それでもは穏やかに言葉を続ける。
を抱きしめる私の姿も、私に擦り寄っているの姿も、穏やかで愛しい恋人たちの図になんら変わりないのに。

「私を置いていかないでくれ」

ずっと一緒にいたいと、思えるただ一人の人。
私の胸を締め付ける、愛しい人。
君の顔は、その言葉のように穏やかなのかい?
私はそれこそ何年、何十年ぶりともわからない一粒の涙をぽろりと零した。
、私は君といると本当に涙もろくなってしまうよ。

「ギルデロイ…」

顔を上げたが、少しだけまゆをひそめてそれから私に羽根のような触れるだけのキスをした。
12時の鐘がついになり始めてしまった。

「君が好きだ。私は君といたいのに、君はそれを望まない」

1・・・

「君は私と共に生きたいと願うから」

2・・・

のキスはまるで子供を慰めるように目元と頬を行き来した。

3・・・

「私は君を忘れられない」

4・・・

「この目に焼きついた、君の笑顔」

5・・・

「抱きしめた君のやわらかさ、香り」

6・・・

「くちびるのやわらかさ」

7・・・

そしては私にコットンキャンディのようなキスをくちびるにもたらした。

8・・・

「君の世界」

9・・・

「ギルデロイ」

10・・・

はにっこりと、あの始めて出逢ったあのときの笑顔を私に向けた。

11・・・嗚呼

「ギルデロイ、愛してるわ」

12・・・



12の鐘と共にの身体は色を失い、世界に溶け込んでいった。
微笑を永遠に私に焼き付けたまま、私の前から去って。
ぬくもりと残り香だけが、さみしく部屋に残っていた。








私は永遠にを忘れられない。
だけれどもしも私が記憶の彼女すら失ってしまわないよう、私は憂の篩に記憶の涙を零しておこう。
愛しすぎる彼女の喪失に泣き暮れぬよう、私はこの自伝に記憶を封じておこう。

私はそうしてを忘れてしまうけど、この本を読んでくれた君が知ってくれたらいいよ。







忘れ得ぬ君を忘れ、私は独り。
共に生きたあのひと時を永遠に封じ、私はひとり生きてゆく。

愛しのマイディア、君へ捧ぐ。













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ロックハート著、自伝ぽく。
もう少しがんばればよかったと思った(私が)。
普段の私にはあるまじき長さで驚いております。

2004/9/12 アラナミ