笑って嘲笑って艶笑って








「ねぇ、セブルスはどうしたい?」
暗く静かなスリザリンの談話室の扉を抜け出ると、はまるで当たり前のように彼に話しかけてきた。
彼は彼とて彼女が一体なにに対してどうしたいと聞いてきたのかがわからないし、なにより唐突過ぎる。
第一今さっきまでスリザリンの最大最強の敵である忌々しいグリフィンドールのつんつん髪のメガネたちと一波乱起こしてきたばかりの彼はすこぶる機嫌が悪かった。
借りてきたばかりの本は水たまりにおとしてしまったし(嗚呼、マダムにお叱りを受けるだろう)、感情に任せて杖を振るったから髪はぼさぼさ(まるであの忌々しいポッターのような!!)、ローブは泥と枯葉がついて叩けばほこりすら出てくるだろう(ああ、なんて汚いんだ)。

「僕は忙しい。用件があるなら簡潔に言うんだ」
元々聞く気なんてこれっぽっちもないけれど、礼に払って彼は言葉を返した。
はくつくつと笑い、「死ぬまでにしたい10のことよ」と言う。
彼はまた心底呆れたような、はたまた嫌悪の混じるような、わけがわからないとでも言うような、そんな表情の入り混じったような顔をして彼女を見た。
「なにを言っているのか理解し難い」
「簡単に考えなさいよ。本当、あなたって頭が固いわ。だからあんな悪戯しか能がない奴らなんかに狙われるのよ」
「なんだと」
ギロリ、とできる限りの鋭さを持たせてセブルスは彼女を睨んだ。「おお怖い」まったく怯えたそぶりなど見せずに、それでも口先だけで彼女は言い、くるりと取り巻きの友人たちのもとへ帰っていった。
くすくす笑いが嫌に耳について、さらにセブルスの機嫌を急降下させたのは言うまでもない事実だ。

「ねーえ、セブルス。私たち、いつ死んだっておかしくないのよ?おわかり?」
くすくす笑いの彼女は長い黒髪をたゆたわせて笑った。高慢に、強欲に、我儘に。
「私たち、いつ例のあの人に殺されたっておかしくないの―――そうでしょう?」
それは世間一般で言うマグルから出身の魔法使いやマグルを伴侶にと決めた者たちが大半ではないか、とセブルスは思った。
なにより今彼の目の前にいる彼女は数少ない純血の、しかも高貴なる名家の令嬢であるはずだ。
記憶からすれば、闇の陣営と称されるあちらがわに属しているはずだが。

「お前が死ぬなんて信じられないな」
嫌味とも取れるかもしれないが、これは事実だ。
まぎれもないれっきとした、真実の中にある事実。
「―――さあね、どうかしら―――わかんないわよ」
くつり、とは笑った。嘲笑ともとれる笑みを。
「いいから聞かせて頂戴よ。はやく」
セブルスはに手招きされ、諦めてそれに従うことにした。

まったく我儘で高慢な女だと、なんど思ったことだろうか。



「とりあえず、僕はさっさとこの汚れをおとしたいね」
「あーら、簡単なことね」

歩み寄る彼に彼女は杖を一振りし、泥とほこりと枯葉を清めた。
「叶ってしまったわよ、他には?」

「穢れた血を一掃してしまいたい」
「まあ妥当ね」

「グリフィンドールの鼻っぷしを折る」
「それにはおおいに賛成するわ」




つらつらと出てきた彼の死ぬまでにしたいことはまるきりグリフィンドールへの嫌がらせと報復じみたものであった。
死ぬまででなくとも今すぐにだってできることじゃないか、ばかばかしいとは笑い、セブルスはそんなを見て睨みつけるばかりだった。

「もうひとつ、まだある」
少しばかり逡巡したセブルスはニヤリと笑い、彼女に目を走らせた。
「目の前にいる高慢ちきを黙らしてみたい」
高慢ちき、と称させた彼女はぴくりとその怒りを噛み締めて伏せた目で彼を睨みつけた。
「ああら、じゃあ……その唇で黙らしてみたら如何かしら」
「下品だな」

くつり、と今度笑うのはセブルスだった。
バカにしたような嫌な笑いを彼はする。その端で―――その右手をの頬に重ねるくせに。


「お前のしたいことはなんだ?」
「あなたの減らない口を黙らせる」
「………唇でか?」
「もちろん――――」





またこいつらは談話室でなにをやり始めるんだとスリザリンの生徒たちは思った。
思った、けれどそれを口に出すことは叶わない。
嫌われ者のペタペタ髪の白肌嫌味の頭でっかちセブルススネイプになら言うことも可能かもしれないけど、そのお相手はスリザリンの女王!勲章!!名誉の名家!!!
到底敵わぬ家柄だ。ヘタな口にはチャックをかけてしまえ、目には目隠し、足は自室!!

大丈夫――――、

ふたりが口をお互いの唇で塞いだとき、だあれも見てはいなかった。










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結局連載は書けないのね自分、という自己嫌悪をしただけの話。
学生時代の彼は自分のことを僕というのか、俺というのか、我輩というのか……考えるぞよ

2004/11/16       アラナミ