闇の翼ですべてをつつむ夜のためのアリア







白い肌は蒼褪め、やがて唇が震え始める。
怒りか、恐れか、それとも。
蒼白な顔に黒目は嫌悪の形をとるのだから、は覚悟してそれを待った。

「よくもまあぬけぬけと言ったものではないか」
嘲笑を添えられ、侮蔑の眼を向けられて、それでも吐き出された言葉にじっと耐えた。
この目の前にいるこの人は、至極厄介な振る舞いをする人間だから耐えなくてはいけない、そして見極めなくてはいけない。

「我輩を好きだと、その口がよくも言ったものだ。え?」
怒りは憎しみへと変化し、憎しみは深くこの人を繋ぎとめる鎖となる、きっと。
ではこの人に思いを寄せたらどうなるというのだろう。

「信じられぬ、まったく信じ難いことを言ってくれる」
嘲りへ変わるのだろうか、それともこの人の希薄さをさらに増させる原因となるのだろうか。
はきっと――――この人の中の日常と常識を凌駕する言葉を伝えてしまったのだから。
深く人の中に根付く確執とも取れる常識に人はいつだって従うもので、なかなか変えられないものだ。確固としてたたずむ信念、生きていくうちで培われる人生観、生き抜き守り抜いた意思を間違いだなんて言わないけれど、それを翻すことなんてできないし、貫いてきたからこそ簡単に翻せるものでもない。
告げた思いはきっと、この人のそれを打ち崩してしまうほどのものなのだ。

「それでも、好きです。想い返して欲しいなんて思いません。好き、好きです先生」
愕然とを見るのは驚愕のためか、呆れているのか、それとも恐れているのか、わからなかった。
蒼褪めたこの人は狼狽し、床を見、頭を振る。まるで、そんなことはあるはずがないとでも言うように。

「我輩は―――貴様など、」
「ええ。蔑んで憎んでくださって構いません。私は―――愚かな子供ですから」
次第に枯れ果てる雫を感じ取るたびには冷静になり、毅然としていった。
腹をくくったとでも言うのだろうか、ただもう引き返すことはできないとは思っただろう。
「忘却術をかけますか?勿忘草の雫を飲ませますか?私を殺したって、構わないんです」
はこの人を想い、幸せになれないと思った。どんなに好きでも、たとえ思いを受け入れてもらっても、幸せにはなれないと思った。
ただ無邪気で愚かな子供であった頃の彼女は、引き合った愛の想いの果てに幸せが存在すると疑いなく信じていたのに。
想われなくもて、愛されなくても、幸せにはなれる。ただほんの少しだけ寂しいだけだ。


「セブルス、抱いて」


伸ばした手を受け止めて抱きとめて愛して欲しかった。

愛し合った最後の夜明け、
夢の終わり、
光を浴びて見果てぬ哀しみは消える。

















アリアはどこまでも穏やかに旋律を奏でるのに哀しみを隠さない。
忘却の果てになおも同じ想いを同じ人に抱くのならば、心からの愛を君へ。





END










 

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なんだかいろいろと大変だった。思いつきで始めるのはあまりよろしくないかと。
これで一番初めのタイトルにかかってくれればそれでいい。
私は読者に想像させる書き方が好きなので、シメはどうなんだー!!と思わせる感じが多いですね。
想像してください。そして私に伝えてください。私はニヤリと読みますから(笑

ところでいろんな音楽をBGMにして書いてたらそれがイメージソングになってしまった。
マイナーってかマニアなのであえて言わない。ニシシ

2004/10/27   アラナミ