君が好きだと叫びたい





188センチのおっきな背丈なのにその背丈とおんなじくらいおっきな態度、超尊大。しかし尊大という言葉の意味がわかるほど頭がよろしいとは思えない(ふったらからころ鳴るかしらね、なさすぎて)。そして真っ赤な髪と目つきの悪さに一般の彼の一部も何も知らないこれっぽっちも関わりもないない人たちからはすっごく怖がられてるのよね。短気でケンカが強くて上級生も負かしちゃう腕っぷしの癖に女の子だけにはこれでもかって言うくらい弱くて、しかも可愛さに比例してその下手ぶりはすごい。あたしだって始めのうちはもじもじしてて晴子なんかより丁寧に扱って貰えてたのに、腹をカパーンと割って友達づきあいとやらをし始めたら尊大さをあますことなく発揮しやがって!!なによ、あたしの前にたったってもう緊張しないって言うのね、晴子に見せるみたく照れたり顔を赤らませたりしないのね、ひどい!!

あたしはあんたのことこんなにも好きなのに!!!!!

ときおりそのアホ面に無性にそう叫んでやりたくなるときがある。しかしそのとき決まって洋平は私の肩を叩いて、ちょっと手伝ってよなんて言って言葉を飲み込まざるを得なくさせるのだ。洋平は人の気持ちにとても賢い人だった。そして誰より彼を大切にしている。きっとあたしの言葉に動揺して、彼がひどく傷つくんだろうって知っているのね。彼が、花道が、あたしのことなんとも思ってないって知ってるのね。友達以上に見れないって知っているのね。

ほんのちょっと歪な気持ちになりかけたとき、あたしは屋上へ訪れるんだ。南校舎の屋上は職員室が近いせいか優秀な一般生徒がよく出入りしているけれど、少し離れた中校舎は不良たちの溜まり場。何度鍵をかけても壊されしまいには放置という形をとらされた無法地帯。いくらなんでも私はそこにひとりでいく勇気はなく、かといって一般生徒がふつうに利用しているような人の流れがそれなりにあるよあなところへなんて行きたくない。となると残る屋上は旧校舎の屋上のみとなる。旧校舎の屋上は、さすがに旧校舎となっているだけに古く危険だ。錆びついて完全に茶色くなったフェンス、歪んで急な坂となって傾いている足場、扉の鍵は堅く閉じられているというのにその横には窓があってしかも内鍵だからすぐに出られるなんて馬鹿みたいだった。そこは誰も来ない、誰も知らない。そこから体育館の中がほんの少し、見えることもね。













旧校舎へ入っていくの後ろ姿を見つけたからなんとなく黙ってついてった。本当になんとなく。放課後っていうやつは今まで縁遠いもんだったって思う。なぜなら放課後がくるまでに学校にいるってこと自体数えるくらいしかなかったからだ。本当にまあよく卒業できたよなあ、義務教育万々歳だよなあなんて思考このさい放っておくにしても、なんとなくついてった(尾けてった)が階段を上っていったので思わずしゃがみこんで下から覗いたりしたのもご愛嬌だ(白のレースか。俺は好きだがそれは花道の好みじゃあないぜ)。旧校舎の屋上に続く階段を上っていく後ろ姿を見ながら、こんなところに何の用があるのだろうかと思っていたが、するする手際よく屋上へ出て行ったを見る所どうやら常習犯らしいっていうか、なんだよいい穴場知ってるんだったら教えてくれとか思ったり色々だ。だけどとことこ歩いて(しっかし危なっかしい傾斜だ)ある一点に膝を抱えて座り込んだの顔がまるで花道をこっそり見ているときの顔とまるきし同じだったもんだから、俺は眉を顰めながらもこそこそその視線の先を見るなんていうしち面倒くさいことをついやってしまった。ああ、体育館か。ふと、出会い始めの頃を思い出した。は晴子ちゃんにも負けないくらい可愛い子で、晴子ちゃんと隣り合ってバスケの応援に来ていたから、てっきりこの子も花道が敵視している流川のファンかと思って聞いたら、違うのこの子は桜木君のファンなのよ、って嬉しそうに晴子ちゃんが話してくれたんだっけ。あの、花道にファン!!しかもこんなに可愛いなんて、と半分やっかみ半分からかうような気持ちでを手招き話しかけた。はじめは緊張しているのかそれとも本気で怖がってたのか、びくびくしちゃってさ、でもすぐうちとけていったっけ。晴子ちゃんみたく天然とかそういうんじゃないんだ。緊張が解けた頃、まるで十年来の親友を前にしているみたく開けっぴろげに笑った。豪快、なんて思った気持ちより前にがっしり心を掴まれた、なんてらしくない。見込みのない恋なんて馬鹿らしい、自分から好きだなんて言わない、好きって言ってくれた中から選び出すほうが何倍も楽だった。なのに、さ。ぽつんと膝を抱えて体育館を見下ろすを思いっきり抱きしめたい。抱きしめてよ、花道のことなんか忘れちまってくれよ、諦めてくれよ、そう言いたい。はどんな傷ついた顔をするんだろうかな。見つめて見つめてそれでも報われない恋心を知っているなら、無闇に突き放せない。優しいから。も、花道も、不器用なくらい優しくて好きなんだ、とても。


「よーへー?」
振り返ったの顔はいつも俺に向けられる、花道にこっそり向けられている顔とは違うものだった。わかっているさ、そんなこと。後ろから抱きしめることも出来ない臆病者は、それでもそっと身を引いて名乗り出ないほどに無欲なわけじゃあないんだ。あんたも知ってたのね、いい穴場よねえ、なんてなんでもないふうに笑う。実際なんでもないんだろう、俺を目の前にした時なんて、さ。ああ、チクショウ。自分で思ってちょっと傷ついたちまったぜ。はっはっは。
まるでそうであることが自然のように俺はの隣に腰掛ける。ふっと自然に見下ろせる場所に体育館が存在した。嫌な場所だ、俺にとって、今は。そよそよ風が頬を打ちつける。正直冬には少しキツイ寒さだったし、そもそもタバコばっか吸って新陳代謝がそこらのなりたての大人より低下している俺には拷問のような仕打ちだ。無駄に短い短ランのせいでスースーするから余計に寒く感じる。だけど女の子はどんなときもスカートだもんな…特になんて見えるか見えないかギリギリまで短いの穿いてやがるからなぁ、とスカートから覗くわりと色の白い太ももに目をやった。うん、やっぱりそんくらいの質感が一番好きだ、とかなんとかなにかにつけてのどんなところでも俺は一番好きだとか思ったりするんだけどさ、だけどそれってのいろんなところが好きで総称してが好きとかそういうんじゃないんだよな。結局よ、が好きだからどこもかしこも好きなんだって言ってるんだよな、恋って盲目っていうけど本当だよなぁ。

地面に投げされた華奢な手、ピンクのマニキュアがつやつや輝く小さな爪、その手にそっと掌を重ねて、心のままに言ってしまいたいこと、を……。












昔書いてた古いのを引っ張りだして書いた。元の影もない。
これ本当は桜木ドリだった(しかもあまー)。

2004/3/8  アラナミ