不二周助という人について
3年6組





人が人について得体の知れないものだと思うのは、ふとした瞬間からだと思う。
例えば私がとある人物に対して、その人が得体の知れないものだ、わからない、と思った瞬間。





クラスメイトの不二周助を認識するとき。

朝、教室のドアをくぐると、もちろん自分の席に着くのだけど、私の席斜めふたつ前を自席とする不二周助はそこにはいなくて、学校指定カバンが机の上に置かれているだけ。
ちょこんと置かれたカバンはそのままに、彼は部活に勤しんでいる。



クラスメイトの不二周助をテニス部だと認識して見たとき。

朝、先生が入ってくる前ギリギリに教室に戻ってくる不二周助は、白と青の学校指定ではないジャージを来て、大きいカバンを持って、汗で額に髪をつかせて、同じテニス部でクラスメイトの菊丸英二と話しながら席に着く。
菊丸英二との話の内容から察するに不二周助はテニス部レギュラーらしい。



クラスメイトの不二周助をテニス部レギュラーだと認識して見たとき。

ホームルームの後授業の準備をしている不二周助の所に、クラスメイト女子の何人かが不二の元に行って話しかける。
隣の席の男子の独り言から、それは不二周助がテニス部のレギュラーなのだということから来るらしい。
私から付け加えて言うなら、いわゆる甘いマスクというものを持っている不二周助の外見も相当していると思う。
不二周助は女の子たちと普通に会話をしている。



クラスメイトの不二周助をテニス部レギュラーでモテると認識して見たとき。

よくよく見てみれば休み時間ごと、必ずと言っていいほど、2人以上の女子が不二周助の席に向かっていった。
不二周助はそれを当たり前のようにしてみせ、たまに面倒くさそうにしてみせて、ときおり断ってみたりして、最後には菊丸英二とずっと喋っていた。
そしてふらりと不二周助は昼休み消えて見せる。
と思わせて、その実立ち入り禁止の屋上へ菊丸英二と赴いて2人で昼食を摂っている。
その会話の中に好きだって言われるのは嬉しいけど好きになれないという言葉を聞いて不二周助にホモ疑惑を持った。



クラスメイトの不二周助をテニス部レギュラーでモテるけどホモかもしんないと認識して見たとき。

次の日4時間目をサボッて、あらかじめ屋上にて隠れつつ2人を観察してみたらば、えもいわれぬ2人の間に流れる空気に本気でそうなのかもしれないと思ったけど、予告もなしに聞いてしまった2人の猥談に、それは絶対ないと確信する。
中性的な顔の癖にそういうこと言うのがどうにもエセくさかったが、嘘はないだろうと思える表情だった。
昼休み終了のチャイムに、屋上から出て行く不二周助と菊丸英二。
それをこっそり見送って、それからダッシュで2分前滑り込んだ教室で、クラスメイトの男子と喋る不二周助と菊丸英二を見た。



クラスメイトの不二周助をテニス部レギュラーでモテるけど普通っぽいと認識して見たとき。

5時間目の授業中こそこそと手紙を回している不二周助。
丸めた背中はノートをとっているわけでなく、手紙を書いているらしいことは明らかだった。
5分10分と、時間が経つにつれて手紙を回す→手紙を投げる→手紙を当てる→手紙がケシゴムに変わる→ケシゴムを投げる。と、今日の男子中学生らしさをひどくよく認識させられる。
そのうちクラス全体の男子が加わる次第に先生が気付かないわけなく怒られた不二周助…と菊丸英二。
が、うまく言い逃れた様子。



クラスメイトの不二周助をテニス部レギュラーでモテるけど普通で口達者と認識して見たとき。

放課後になってまた学校指定ではないジャージに着替えた不二周助は、菊丸英二と2人部活に向かっていった。
テニスコートにテニス部が、そのフェンスの周りに女子生徒や見学者が、それを見下ろすように屋上に私が。
黄色い声援にまみえても真剣に部活動に取り組む不二周助たちに、テニスが好きなんだろうことを窺い知る。
練習試合とトレーニングについてまわる緑の飲み物に怖気だっているテニス部の人たちに、あれが相当危ないものだと思ったが、それをさもおいしいものかのように爽やかな顔してイッキ飲みする不二周助。
それを飲んだ不二周助以外の人間たちの顔の青さと同じくらい私の顔も青くなったに違いない。



クラスメイトの不二周助をテニス部でレギュラーでモテるけど普通で口達者で恐ろしい味覚の人と認識して見たとき。

さらにトレーニングと称してテニスコートを何週も走り続ける不二周助たちに課せられた罰ゲーム。
一生懸命走っている、おそらく自分の後輩であろう子達に負けじと走る不二周助。
その後輩の叫びを聞いた不二周助はにぃーっこりとこれまでになく嬉しそうに笑った。



クラスメイトの不二周助をテニス部でレギュラーでモテるけど普通で口達者で味覚も人格も恐ろしい人だと認識して見たとき。

いつの間にかテニスコートから姿を消した不二周助。
どこを探してもおらず、おかしいなと頭を傾げた私はまぁ部室にでもいるのだろうと思って、今日はもういいかと教室にカバンを取りに帰ろうとする。
振り向いたその正面にいたもの。
不二周助。



………クラスメイトの不二周助をテニス部でレギュラーでモテるけど普通で口達者で味覚も人格も恐ろしい人で自分は今その人の真正面にいるのだと認識して見たとき。

ものすごい冷や汗が私の頬といわず額といわず身体中駆け巡ったような気がした。





「なにしてるのかな、さん」
にっこりと笑う顔は、言うまでもなく先ほど不二周助という人間が彼の後輩に向けて笑った笑顔と同じもののような気がした。
後ずさっても後ろにはフェンスしかないのだという事実は、いっそう私を追い詰めるような気がする。


「昨日からずっと僕のこと見てたよね?」

ワー、カンもいいという認識も含めておこう。
むしろ観察眼という認識のほうがいいのかなぁ。
それとも自意識過剰な人って認識かなぁ。


「こそこそ僕のあとつけたり、今日は昼休みはずっとここにいたよね」

ワー、忍者の素質ありとでも認識しましょうか?
それとも超能力があるとでも認識しましょうか?
というか知っていながらあんな猥談を……!!


「どうしてそんなことしてるの?」

ヤー、実は私の趣味は人間観察だったりするのデスヨ!
で、そのターゲットが今、不二周助!
………
なんて言えるかってんだ!


「……人間観察だったらゆっくりさせてあげるよ?」

ワ、しまった!
声に出して言ってたヨー
って、なに?
それは一体どういうことだというのでしょうか?





クラスメイトの不二周助をテニス部でレギュラーでモテるけど普通で口達者で味覚も人格も恐ろしい人が自分の彼氏だと認識して見たとき。

朝、自分の席から見る不二周助の机の上はカバンだけ置いてある。
今日は急いでいたのか乱雑に置かれた上に、カバンからはノートやら教科書やらが飛び出していた。
教室の窓から見たテニスコートでは、相変わらず真剣にテニスに打ち込んでいる。
反面、授業中はほぼ7割の確立で、こっそり寝ていたり、喋っていたり、遊んでいたりする。
休み時間、モテる自分が好きだけど多すぎるのは面倒だといい加減、というか自信過剰。
お昼休み、不二周助は菊丸英二と2人、屋上で男の友情さながらランチタイム。
たまにいなくなる5時間目は、サボッているのだと今日誘われて、初めて判明。
放課後テニス部で部活をしながらも部員とコミュニケーション、それを楽しんでいるらしいことはわかる。
帰り道、にっこりと笑う顔が優しかったり、意地悪だったりする不二周助。


「人間観察どう?」

っていうかこれって不二周助観察じゃん。
……あんたってフツーの男の子。


ふぅ、とため息ひとつ。
人が人について得体の知れないものだと思うのは、ふとした瞬間からだと思う。
人を知れば知るほどにそれが深まることもあるのだとも。
もうちょっと、不二周助について観察する必要があるみたいです。


不二周助、現在調査中、銘打って、カレカノ中。





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久しぶりに書いたと思ったら不可思議なモンを生み出してしまった・・・。

・・・いやいや、リクエストとかちゃんとやってますヨ?
ただ…思うとおりにリクエスト通りに書けなくて四苦八苦書き直してたり…
フフフ☆

2003/8/20