「なんで私こんなことしてんの!?」

テニスコートに響いた私の声に、応える者は、誰もいない。







ブラックリスト新規加入







「詐欺だわ……」
そう、いったい何度呟いたことだろうか。
そのたびそのたび詐欺ではないと、手塚に反論されるけれども。

あの、呆然と呆けていた私の前に現われた手塚、そして私の後ろでそれを見ていたらしい不二。
出された紙に、名前を書けと言われ、言われるがままに自分の名前を書いた……のが浅はかだった。
というかそんなときを狙ってくる手塚も悪いんだ!!


あれが入部届けの紙だったとはな。


くっそう、気を取り直して新しくできた友達とどの部活に入るかきゃいきゃい話していた私が馬鹿みたいじゃないの!
悲しいじゃないの!乗り遅れたじゃあないのさ!!!!




「やぁ、さん、ご苦労様です」
「……………それはそれは当然の言葉をどうもありがとうございます」
にっこりとした笑顔で、悪びれる様子でもなく、声をかけ近づいてくる人物に、私はわざと目を細めて嫌味を返した。
たぶん、てゆうかきっと、すべての発端でもある大和部長に。

「僕はもしよろしければって言っていたんですけどね」
「それを手塚に持ちかけた挙句不二に助言を求めた時点で確信犯って言うんですよ」
そう、確信犯。
幾度となくこのような事態を潜り抜けてきた私としましては、わからないはずがなく。
ましてやそれが不二の手にかかったものならばなおさら。

私は恨めしい思いで、テニスコート内にいる不二に目をやった。
相変わらずそこでは至極真剣な顔をしている不二だけれども。


「卑怯者…………!!!!」
「まぁ、それは週5で甘味賄賂ということで手を打ったじゃあないですか」
「くっ……言いくるめられたも同然でしたがね!!!!」
そして手渡されたのは可愛らしいピンクの紙袋。
中にはさっきこの人の口から出た言葉通りの、甘味賄賂が入っていて。

「では、マネージャー。今日もよろしくお願いしますね」


人のいい笑顔で、そう言って彼はテニスコートへ戻ってった。
私的要注意人物に、いらっしゃいませ大和祐大。

高校は、中学以上に侮れない。





遠ざかる背中が、ふいに止まってこちらを見る。


「言ってませんでしたが、中間テストは赤点取っても強制参加ですよ、マネージャーは」





私が真っ青になったのは、言うまでもない。

もちろん、常に予習復習をバッチやってれば大丈夫!!のはずなのだけど、けれど。
「忘れてた!!!!」
中間テスト時期ももうあと少しだということを。
またかよ!!というツッコミはナシの方向で。
なぜなら予定外のハードスケジュールに目を回された毎日だったから。

相変わらずうちのおかーさんはあんなんだし、半主婦と化した私の日常は思いのほか大変で。
そのくせ部活帰りにも関わらず不二は毎日のように家に来るわ。
それはもう毎日のように部活もあるわけで。
そして学校だって友達だって何だって、きっと今は一番大変な時期だからね。


「うふ……ふふふ…うふふふふふふふ……」

手にしたタオルを思いのたけ握り締めて。


そして遠くから私を呼ぶ不二の声に、頭はくらりとめまいを覚えた。





呼んでいる、ああ呼んでいる。
テニス部員が無情にも私を呼んでいる。


暑くなりはじめた日差しに、目もくらくらとする。
そしてその手をおもむろにこめかみへ。

「待っていやがれこんちくしょー!!!」

そして顔を上げたとき、私の目は、涙すら滲んでいた……と思う。








「一緒に勉強しようか」
そしてそしてその日の帰り道、有無を言わせない笑顔で言われて、私は本当に目頭を押さえた。

てゆうか辞めさせてくれよ!!!!

そんなこと、できるわけがないのだけれど。







え?テスト?……もちろんクリアしましたよ、もちろんね………。