東京ラブシネマ
〜テニスプレイヤー・イン・ザ・ダーク〜






「ちょっと…不二!不二!!!」
ああ、やばいとは思ったけどこの野郎がここまで欲情してくるとは思いませんでしたよ。畜生、このやろう。

「やめてってば……」
暗闇の中で私は涙ながらに小声で、彼の耳もとでささやく。
こんなに激しく切羽詰った状況であるにもかかわらず私が大声を上げないのはここが映画館の真中(指定席制度プレミアシート。「フフフ、リクライミングだってできちゃうよ」と彼は上演前に言った)だからである。
「だって、この話あんまりおもしろくないしね…」
いや、この映画選んだのアンタだし!!!
涙目の私の懇願はあっさり受け流され、不二の手はさらに侵略を深めた。
「それにね、この映画爆音がウリの映画だから、声なんて聞こえないよ?」
たしかに、スクリーンの中ではさっきから地面が爆発ばかりしている。
ねらいはそれか!!!
「あとね、三分の一くらいのところで激しいセックスシーンがあるんだ」
にこにこと言ってのけた不二の顔は最高に凶悪に見えました。
今では不二の手と私の肌をさえぎるものは綿のキャミソールのみである。
ブレードのシャツは捲り上げられ、たよりのつなである硬いハリガネの入った鎧のようなブラはいまにも背中のホックがはずされそうな状態だ。
「…ねえ、この映画選んだの不二だったよね!?」私は少しでも不二から離れようとして身体をずらした。
「ほらほら、そんなに端によると隣の人に不審がられちゃうよ?」とても楽しそうに不二は言う。畜生、絶対楽しんでやがる。

「んっ、」
抵抗むなしく唇は唇に重なった。柔らかく触れたそれははじめのうちだけで、すぐに唇をこじ開けようとする舌によって歯列を嘗め回される。
ここで許してしまったら今日はもう不二の言いなりだ、好きにされてしまう。抵抗のひとつひとつが最後の砦!!という気持ちで反抗しなくては!!!
ゆったりといやらしく歯列をなぞる不二の舌は不二そのもの……って言っていいんだろうか。
どうやらしばらくはキスを楽しみたい気分らしい。あせらずゆっくり…私をその気にさせようっていうのだろうか。
まさか。私は内心で笑う。こんなところでそんな気を起こすことなんか有り得ないんだから!!!
とりあえずここに宣言しておくことにする。

随分長くキスをしている。いや…これはむしろ唇を塞がれているといったほうが正しいかもしれない。あくまで塞がれてるのであってキスではない、断じて違う、てゆうか感覚が少し麻痺してきたせいなのか。
さわ、と背中に回された手がじれったそうに動き始めた。ヤバイ!!!(ような気がする)
腰の辺りをゆっくりと撫で、指先で背筋を何度もなぞっていく……(お、悪寒が!!!)、もう反対の手は頬に添えられ私が逃げられないようつかまえている。ああ、でも動いてる……のは気のせいじゃあないのか、いや、まさか、そんな。
「あっ!!!」
指先で喉元を撫でられた瞬間、うわずった声があがってぱっかりと口をあけてしまった。
その一瞬を逃すはずもなくすかさず舌を侵入させた不二はますます深く口を塞ぎ、私の舌を絡めとるように差し込んできた。
「ん、んー!!!」
相変わらずスクリーンでは絶え間なく爆発を起こしている。わずかばかりの呻きなど掻き消えてまったくないものとしか思えないほどだ。くそう。
注ぎ込まれる唾液を受け止めきれずに零してしまう。
それを不二がねっとりと舐めとる。
唇にすれすれのキスをした。
少しずつ動いては翻弄させられる……頬、まぶた、首筋、耳たぶ、胸元……唇をぴたりとつけるだけの可愛らしいものから、チリッとした痛みを残して赤い痕を残すことまでやらかして!!!

「そろそろかな」
不二が小さく呟いた。そろそろ?
チラリ、と盗み見たスクリーンでは世にも美しい外人女優さんがシャツをたくし上げ、ハラリとブラだけを自分から取り払った。
豊満な体をなすりつけ、愛を求めてる。………………愛を。
って、そろそろってまさか!!!
があれくらい積極的でも、僕は別にかまわないよ」
あんたは構わなくてもこっちはごめんだーーーーー!!!

「わ、」
反論も抵抗もする隙を与えず不二は背中の手のひらを迷わずブラのホックに手をかけた。「やだ!!!」身をよじって逃げようと思うけれど、これ以上端に寄ったら気付かれてしまう。
「ふ、不二!!!」
だから私は精一杯の力を振り絞って不二を押し返し、世にも素敵な呪文を唱えてみた。
「こんなところでしたらもう一生口聞かない!!嫌いになるから!!!」
ぴたり、と不二の手の動きが静止する。き、き、き……きいたのだろうか…まったくわからないのだけど。
恐る恐る目を開ける。半分のしかかっている不二の顔は逆光で見えない。しかもそれが逆に怖い。ああ……
「それは困るなあ…」
館内に響きまくる大音量の衣擦れと嬌声の中、不二はやんわりと胸を撫で、柔らかなキスをした。
「……別の場所ならしてもいいのかな?」耳元で呟かれたわけでもないのにやけに耳に残った。
「そんなわけ…」ないわよ!!と続くはずの声は不二の唇に吸収された。
どうやらあの呪文は有効だったらしい。







隣に警戒を抱きっぱなしのまま映画に集中もできずに一時間半が終わる(あえて言うなら不二が席を立ったほんの10分くらいは集中できたかもしんない)。
即効でラブホないし、どちらかの家!!などと言い出した不二を尻目にスポーツショップめぐりと決め込んで一日を潰す。
私はもう二度と不二とは映画を見に行くもんかと拳を握った。
ああ、後ろで微笑みを絶やさずついてくる不二の視線が痛い。

こんなところでしたら嫌いになる

は失言だったのかもしんない。
少なくとも、嫌ってはいないということを教えてしまったのだから。







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甘いなあ……キリリク用としてトラから頂いたのを元につけたしました。
あんまり短いからまあほらアレですよ、しないよってことです。
しかしいちゃパラに今までの勢いがなくなってしまっただなんて、私が一番よくわかっていますよ。
つらつらと逆ハーになっていくのが目に見えています…あへぇ

2004/10/7     アラナミ(と、トラ)