いちゃ☆パラ5
□夏合宿・テニスコートと罠編□





「なんで私があんたに手取り足取り教えられにゃいかんのですかい?」

ピタリと私の後ろについて離れないこの男。
やっぱり昨日の内から親戚の家にでも泊まっとけば良かったと思うけど、今となっては叶わぬ望みだこんちくしょう。
「ん?腰取りも加えたほうがいい?」
「!!」
そこはかとなくさらりと言った不二の爆弾発言に、思いっきり肘を後ろに振り回すけど、空を切るだけで手ごたえはない。
私の顔が赤いのは、照れとか恥ずかしさとか、そんな可愛らしいモンではなく、
完全なる怒り。

チッ………。
思いっきり顔をしかめて舌打ちする。
そりゃああの不二に一発入れられるとはこれっぽっちも思ってはない。

「危ないなぁ……」
そんなことを言いつつもにこにこ笑ってるあんたが、私は心底ムカツク!
「青学テニス部No.2に教えてもらえるんだから、少しは嬉しそうにしてよ」
はははっ!No.2!!
そうね、青学テニス部No.2の実力を持つ不二に教えて貰ってるんだから、私は幸せものかもねっ!
ええ、そりゃあテニスの腕だけなら同じくテニスをプレイする者として憧れ…いや、尊敬してますわよ!
でもね、問題はこいつの中身。
なにが隠されてるかよくわからん笑顔。
策士で狡猾、非の打ち所のない用意周到さ。
そしてキングオブ腹黒。
すべてすべてこいつを中心に宇宙は回ってるんじゃないかと思うようなことばかり!
プラマイゼロで……いや、むしろマイナスだ!!
プラスなんてもうどこか山の彼方だ、宇宙のチリだ!あはははは!(笑い事じゃない)

「ああ…もうヤダ」
私はのそのそベンチへ向かう…嫌がおうにも金魚の糞がついて回ってるけど。
「もう休憩?」
「スミレちゃん、不二が邪魔で練習できないから駆除して」
べったり腰につきまとう不二を指して、もういっそスミレちゃん頼み。
「おや、駆除とは随分な物言いだねぇ」
含み笑いというか、苦笑いというか……スミレちゃん、笑い事じゃないって!
「邪魔でしかないんだから駆除でじゅーぶん……」
「それは誤解だよ、
ははぁ、なにを言いますかね、この人は。
誤解ですと?
馬鹿を言うな!馬鹿を言うな!!馬鹿を言うな!!!

「そうだな、フォームが綺麗になっているようだからのう」
えええぇっ!?
に抱きついてると見せかけて、僕は正しいフォームを身につけさせていたんだよ?」

嘘だ!!
違うに決まってる!!
瞬時に私はツッこんだ!(……なんかこのごろツッコミが早くなってる気がする…)
たとえ仮にその正しいフォームとやらを身に付けさせてくれたんだとしてもっ!
抱きついてると見せかけてじゃなく、フォームを身に付けさせていると見せかけて抱きついているんだっ!!

っていうか、さっきから不二くっつきっぱなしだし!
汗だく、汗だく、汗だくー!!
キ モ チ ワ ル イ !!
タオルだタオル!ともかくタオル!
べったり張り付く不二をひっぺがし、(嗚呼、身体が軽い)
私はタオルを求めて女テニマネの元へと行く。
「万理、タオルちょーだいっ!」
「ハイ〜……って、アレ?センパイのタオルありませんよ?」
「え〜?」
私ちゃんと持ってきた……と思うんだけどなぁ…。
部屋に忘れてきちゃったっけ?
「私ちょっと部屋にタオル取りに行ってくるね」
タオルを求めて私は駆け出した。
だって早く汗拭きたい…ってか!顔洗いたい!!



思うままに駆け出してったせいかな?
私は、私の行動なんて全部お見通しの奴がいるってことを、スッカリキッカリ忘れてた☆
ガラリとカギを開けて、勢いよく開いた、私とに割り当てられた部屋。

「忘れ物?
「ぎぃぇええっ!?」
、もう少し色気のある叫び方しなよ」
余計なお世話だ。
「いやっ!っていうか、なんで不二がここにいるのよっ!ここ女子の部屋だし!カギかかってたし!不法侵入!!」
「女将さんが快くカギ開けてくれたよ?だから不法侵入じゃないと思うなぁ……」
女将さんっ!!なんで!?
泣きたいっ!
私は今日もまた心から泣きたいよ!!
タオル忘れてたでしょ?僕はそれを取りに来てあげただけなんだから」
ハイ、と私にタオルを渡す。
「(……なんかさっきの言い方妙に恩着せがましかったような…)…アリガト」
なんだ、いいとこあるじゃん。
それでもこんな侵入はもう2度とやってほしくないけど。
っていうか、するな。

「じゃ、お礼にキスしてよ」
はぁ?
……さっきの妙な強調はコレか……
「不二サン、お礼は自分から求めるモノではないのデスヨー?」
そうね、不二がなんの考えもなしに行動を起こすはずがないもんね。
ハン!だったら冷めた口調でさらりとかわしてやろうじゃないか!!
私はしらっと言って、タオルを手にそのままきびすを返した……
けど、伸びてきた不二の、日に焼けてる割には白い手(ちくしょう、うらやましい…)が私の腕をつかまえた。

「……離せ」
「お礼Vv」
こういう笑いを天使のような悪魔の笑顔って言うんだろうな。
腑に落ちないけど納得。

「いーやーだー!離せ!!」
「お れ いVv」
「いや!!」
どうしようもない押し問答が続く。
不二は引かない、私も引かない…なんて不毛な押し問答だ…って、押し問答ってそんなみんだけど。
そんなやりとりの末、「そんなに嫌?」と聞く不二に、「嫌!!」と答えるのは当たり前なことで。
「しょうがないなぁ…」と本当にしょうがなさそうに言う不二にどうしようもなく苛立って、
それでもここで諦めてくれたら、私にとって都合がいいことこの上ない!と希望を胸に馳せた。
さぁ、諦めろ!今すぐあきらめるんだ!!
ぐーっと引っ張られる方向とは逆に私は体重をかける。
…………と、

「っわわっ!?」
ドタンッ!!
「いったーいっ!!」
くっそう、いきなり離すもんだから、勢い余って思い切りよく後ろにこけちゃったじゃないかぁ!!
痛いって言っても尻もちだったから、そんなに被害はないんだけど。
っていうか、ないけど。
「大丈夫?気をつけなきゃだめだよ」
って、それはお前のせいだろうッ?
思わず私は目を据わらせて不二を見た。

「テレ屋なのために、僕からくちづけてあげるね」
「うわ!」
じりじり迫る不二から逃げるべく、私は後ずさりするが……ッッ!!
ああっ!背中に壁の感触がッ!!
嘘やだマジかよ、ピーンチ!!
っていうか、イマサラかもしんないんだけど、もしかしてこいつ私のタオルわざと忘れさせた!?
…いや!むしろマネからタオル気付かれないよーに持ってって、ここで待ち伏せてた!?
そうだ!きっとそうだ!!
絶対そうに決まってる!!
だって不二が考えもなしに私のためになることなんて、するわけないじゃん!
むしろすべて自分の思うように事を運ばせてるっていうか!!

「うん、そうだよ♪」

やっぱりな、不二め…………………………――――――って!
いつもいつも思ってたけど、不二って私の心読んでるわけ!?
なんでわかるのよ!!

「まさか。ホラ、って考えてること顔にでるじゃない」
うーわー!!
やっぱり読まれてるんだっ!(泣)
いーやーすーぎーるー!
不二エスパー!
サイコマスター!
黒魔術ー!

「アハハ、そんなことできないよ。……でもは、考えることが面白いから可愛いよね」
ちゅ♪
「!!」
うあ。
またやられたぁ!

「じゃ、オヤスミ、
「は?なに言って………って!なに私の胸に顔うずめてんのよ!!退けーーーッッ!!」
「………」
ぽふん、と私の胸に顔をうずめたまま、静かに不二は寝息をたてはじめた。
「うあ、寝るの早いし……ってか、まつげ長ー…寝顔キレー…」
なんかうらやましいなぁ……
そういや不二ってばすんごく朝早くからうちに来てたよね。
えーと、5時30分にはもういたし、不二と私の家って近いわけでもないから……少なくとも4時くらいに起きたんだろうよねー。
そんなに私を連れて行きたかったんだろーか?
……………なにはともあれ、眠いわけだよね。

「しょーがないなぁ……」
少しずつずり落ちてくる不二の身体を支えてやろうと、よいしょっと抱きかかえる。
いつまでも胸に顔うずめられてても困るしね。
不二の顔を私リ肩口に乗せるようにして、支える。
抱き上げついでに触れた不二の髪……うっわぁ……やわらかーい!
実は前っからずっと触ってみたいって思ってたんだよねー……普段じゃなに言われる…ってかなにされるかわかんないし。

なでなでなで
これみよがしに触ってやろう。
ああーやーらかいVv
ほっぺた当たってなんか気持ちいいよ……私まで眠くなりそー…。

なでなでなで
「…………」
いっそ指を絡めてしまおうか……誰も見てないし。
不二も寝てるし……。
そろり…と指をからめれば………。
ああ…柔らかい(至福)……
サラサラだー♪
キーモーチーイー♪


ガラリ


「センパーイ、いつまでタオル取りに行っ……………」


あ。


ピシャリ!!


あああ!!


「どしたの、桜乃?」
ああ、この声はだ。
あは、あははははははっ(泣)
、いるんでしょ?先生が早く戻ってこいって言ってるんだよー?」
「だっ…ダメですっ!開けちゃ!!」
「なんでよーぅ」


ガラリ


「あ」


ピシャッ!!


うあ。


「あ、〜!ねぇねぇ不二知らない〜?」
うっわぁ…この声は菊丸…!
「あのねー、と不二がいちゃいちゃしてたの〜」
ちょ、ちょ、ちょちょちょちょちょ、ちょっと待て!!
「ええ!?が!?」
オイ!なんで不二じゃなく私の名前を言うんだ、菊丸!!
まるで私がいちゃいちゃしてるみたいじゃないか!!

「おーいしーーーっっ!!」
ちょっ…、コラ待てっ!!
言いふらすつもりか!?
なんで菊丸の…いや、もだけど、あいつらの口は軽いんだ!?
大体誤解だって!!
私はいちゃついてなんかなーいっ!!

不二の髪の感触楽しんでる場合じゃないよ!!
そう思って私は立ち上がろうとした……………けど!!
不二がガッチリホールド!?
あんた寝てるんじゃないの!?

「はーなーせー!!」
、もっと髪触ってよ」
「!!あんた、眠ってたんじゃ………」
「眠りかけてたんたけどね、が髪触るから、なんか気持ちよくって……ゾクゾクしてきたから眠気なんか飛んじゃったよ」
「うーわー!最悪!!っていうか、あいつら止めなくちゃ!!離せ、不二!!」
「いいんじゃない、本当のことなんだから」
僕とはラブラブーってね♪、って……なんだよ、今どきそんな死語使うなよ!!
っていうか、不二謀ったな!!
謀ったんだろう!きい!!!

「さあ続き、続き」
「いーやーー!!」
思いっきり叫んだって、この声にかけつける人なんて、絶対いない!





かくして、今日私が得たものと言えば……フォームがキレイになったこと。
不二を振り払うために使った体力と抵抗からくる疲労。
多大なる誤解にも似た(むしろ誤解)噂…
に、尾ヒレがつきまくった根も葉もない話。

不二を振り払ってくたくたになってコートに戻った後、それは否応なしに私の耳に入ってきてくれた。
"が不二といちゃいちゃしてた"→"が不二に迫ってた"
元の話も随分と違いがあると思うのだが……人間って!人間って!!
そろそろ人間不信。
私は迫ってない!
無実だ!!

「不二先輩、先輩に迫られてたらしーじゃないッスか〜」
「うん、なかなか大胆で嬉しかったよ」
「!!??」
根も葉もない話に乗じて既成事実でも作ろうっていうのか、不二め。
私は思わず全ての憤りを握りつぶすような勢いでテニスボールを握り締めた。
「よかったですね〜先輩に迫ら…………」

ボコッ!!

「ッッたぁ!!あ、危ないじゃないッスか!先輩!!」
「チッ……(やっぱり不二には当たんなかったか……)ええい、そんなありもしない話をさもあったかのように言うのはヤメロ!!」
「フフフ、ってば好きなだけ触ってたじゃない、僕すごく気持ちよかったんだけどな」

(何を触ったんだ!?)

「だー!!その後迫ったのはアンタでしょーにっ!!」

(聞いてられない…)

「うん、そうだね。が触ってくれて、僕嬉しかったんだよ?」
「あんたねぇっ!!!」

この言い争いも、すべて不二の手の内のことで、不二にとっては全部計算済み。
私が真っ赤なのは、完全なる怒りの筈なのに………
まわりからは恥ずかしがってるゆえの赤面にしか、見えなかったようで、
この言い争いだって、ラブラブバカップルの痴話ケンカにしか見えなかったらしい。

くそう、ハメられた。

そう気付いたのは、合宿が終わって新学期が始まっても、まことしやかに流れ続けた噂を耳にしたときだった。





□夏合宿・テニスコートの罠編□・終


まだまだ続く。
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早朝編がアップされてから役1ヶ月……もうとっくに夏休みなんて終わっちゃってますね。
すみませんですUu
このお話の次の話は、これが行き詰まったころにバーンと出来上がったのですが……ね。
んでもその話を書き込んだノートは、夏休み終わるちょっと前にトラに渡したっきりまだ返ってこないので、いつアップできるかはわかりません。
早く読みたいって人は、BBSにでも、トラ宛てに早くノートをあらなみに回せとでも……
っていうか、いい加減私もノート回して欲しいです、トラ。
チャットの時間をノートに回して下さい(切実)

2002/9/16

加筆修正・2003/7/19