いちゃいちゃ☆パラダイス9
□黒くて速くて嫌な奴□







「ぎぃゃやあぁああああーーーーーー!!」


情けない叫び声を心の中で留めるにはあたわず、そこから360度も180度だって回ることも動くことも出来ずに足は硬直した。
とにかくここから逃げたい!
逃げたいのに足が動かないんじゃボケェ!!
まさにっ…!まさに人生最大の危機!!
は今人生最大の危機に瀕していますよ、おかーさぁーーーーーん!!

えぇっ!?なんでそんなに逃げたいんだって?
気配がっ…!さっきから微妙にそれっぽい気配を感じてはいたんだけどっ……!
まだ冬も間もないっていうか、夏も終わったっていうか、常日頃から不安には思っていたけど、あいにく目を逸らしていたもんですから!!
現実逃避してなにが悪い!まさか…まさかとは思っていたんだけど…まぢで本当にソレとはっ……!!
寒さに身を潜めてずっと出て来なけりゃいいじゃないか、お前ら!
むしろもっと熱くて居心地のいいだろう南国の地へでも移住してくれ!!
つーか出てくんな、出てくんな、出てくんな!!

ガサガサッ

「ぎゃあああああ!!」
動いた!
音がした!!
近くにっ…近くにいっ………(←言いたくもない)!!

なんで、なんで?
なにが悪いの!?
私が悪いの!?
私は今日もいい子にしていましたよーーーー!
かーーーみーーーさーーーまーーー!!?(泣)















さぁて、ここからは現実逃避っぽく走馬灯のように今日の出来事を思い出して行きましょうか!
今日はお母さんが仕事でちょっと遅くなるって言うから、夕食の買い物に行ったんだわ。
てゆうか、夕食は出来合い弁当でも買おうかなーと。
そしたら頃合いを計ったかのようにお母さんからケータイに電話があって、
「今日は中華がいいな〜Vv豪華によろしく!」
なんて言うもんだから、なんだ、それでも家でご飯食べるんだとか思って、買い物カゴに入れたお弁当返して食料品を物色。
酢豚、八宝菜、海老チリ、麻婆豆腐、シュウマイにフカヒレスープ。
冷凍豚まん買ったり他にもいろいろ。
自分が食べたいものを主に(だって作るの私じゃん!)、材料を買い物カゴに。
夕暮れ時買い物ピーク時のレジに並んで(そういえば、あのおばさん横入りしやがった、畜生)、会計済ませて重たい買い物袋引きずって家に帰って調理して……。

で、テーブルセッティングしたところでまたお母さんから電話があって、
「豚まん3個でよろしく!」
なんていうもんだから、なんだ、お母さん2個食べるのかな〜?
って思って、豚まんを蒸篭に入れて蒸し始めたところで鳴ったチャイム。
足を運べば。


そうだ、ヤツがいたんだ。


「ただいま、
「ただいま!」
生物学上ヒト科、私の中では大魔王科・不二周助が。
ただいま、只今、TADAIMA?オーイエス、タダマイ?タダ米?
一瞬どころじゃなくものごっつ混乱しておかしなこと口走っちゃったじゃないのよ、ブァカァ!

駅前で偶然会ってとかなんとかで、夕飯一緒にどうかと母上が誘ったらしく………
まぁそれはいい。
100万とんで5247歩譲ってそれはいい!
大体偶然とか言ってるあたり嘘くさいがそれはいい!!

「ホラ、ボケっと突っ立ってないで、さっさと上がってもらいなさいよ!」
「フフ…きっと新婚みたいで照れてるんですよ、お義母さん」
「ちゃうわい、ボケェ!!」
間髪いれずに瞬時にツッコミ。
本当に、私はこいつと出会ってからツッコミだけはピカイチになってきたなぁ……そんなこと自慢にもなんにもなんないけど。

「……可愛くない照れ方でごめんなさいね、周助君」
「いえいえ、可愛いですよ、すごく」
「(苛ッ)…………トリアエズ、上がってくれタマヘ!」
有無を言わさずとっとと上がれと、目で促して招き入れる。
どうせここで不二を帰すなんてことなんて不可能だし、私だってもうお腹減ってるんだ。
せっかく作った料理を冷ますのも嫌だし……。

「ダイニング来る前に、手洗いなさいよ。ついでにうがいも」
洗面台はそこ、と指をさす。
お母さんも押し込んで、どっと疲れた私はそれでも蒸篭から取り出したほくほくの豚まんと烏龍茶をテーブルに運んだ。
………なにがあろうと1人静かに夕飯を嗜めばいいのよ!そうよ!!
ひとり心の中で言い聞かせる。
言いようのない不安感だけが、私の胸の内を掠めて行ったけども。










そうね、ひとり静かになんて、できるわけがないんだわよ。
この、不二周助を目の前にして。

「でね、そのときが………」
「へぇ…そうなんですか」
「ギャーーーー!!ちょっとお母さんやめてよ!!!!」

と、ひっきりなしに弾む会話。
むしろあたいの母上と不二の間で。
私はそれをやめさせようと必死になってる。
夕飯なんて味わって食べてる暇など、ほとんどないし!私は!
そうね、不二を目の前に安穏とした時間なんて過ごせるはずがあるわけないっつの!。

「でね、の初恋はね、名前も知らない男の子でね〜」
「やっ、やっ、やっ、やめてよっ、恥ずかしい!!」
「ひとめぼれとかそういうやつだったんですか?」
「ううん、ってばすっごい照れ屋だからね、話もできず、名前も聞けず、そのまま会わなくなって終わりだったのよ〜」
「ギャーーー!!」
「あははは、ちょっとすごい顔!」
「あははは」
あはははって……(苛ッ)子供の純情笑うでないよ!おまえらっ!
こんちくしょうめ!!

もうその後も夕飯が終わるまで、ずっと。
ずっとずっとずっと……私の昔話ばっかり。
今日だけで1年分……以上の気力を使い果たしたような気さえする。



それでもね、時間は過ぎてゆくんだ。
良かった……!
(精神が)ぼろぼろになるまで続いた団らんはしゅーりょー!
とほぼ同時に母上に入った連絡……は、仕事の不備だそうで。
しっかりもいちどお勤め先に出向いてくださいな!
そして私はとっとと皿洗いに励むのです。
ダイニングのテーブルに、ひとり不二か座ってるなんて、私はあえて知らない(ふり)。
そして大量の汚れたお皿をきれいにしていったのです……!







ここで回想終了っ!
ほらね、私はいいこでしょっ?
なにもしてないでしょっ?
なのになのになのに な の に っ !
なんで!?
なんで私はこんな目に遭ってるの!?



大嫌いなんです。
黒くて嫌な光り方してすばやく移動しては、たまに低空飛行で向かってくる嫌な奴。
だから私は夏が恐ろしくて恐ろしくてたまらないのです。
寒くて奴らが行動できなくなる冬が大好きなのです。

………その冬にどうしてこうしてヤツがっ………!!!


ガサガサガサッ

「ぴぇぃぎぃやーーーーー!!!」
見えた!今見たくもないヤツの姿がみえちゃったよっ!
お、お、お、お、おぞましいっ!
だれか、だれか、だれかっ!
「おかーさんっ!おかーさんっ!」
涙ににじむ目。
必死に動かぬ足をひきずって、助けを求める、が、返事はない。
だってさっきおかーさんは仕事に行っちゃったもん。
いるはずがないんだもん。
あははは☆
………って、笑ってる場合じゃないがな!

ガサガサッ

「ひっ!」
なんやらだんだんと近づいてる気がします、少佐っ!
あたいはどうすればいいですかっ?
腰はもう完全に抜けてしまった模様で、痛々しくも逃げの体勢も取れぬようでございましゅる!
いやー、いやー、いやー!
この家私だけだっけ?誰かいたよね?いたはずよね?いるよねぇっ!?
パニクる頭を抑えてちょんまげ、よーく、よく!考えて!
ふだんの私が忘れようとしていること。
知らないふりをしていること。


直視しようZe☆


「ふっ………」

背に腹は変えられない。という言葉が、私の頭によぎった。
そしてなぜだか因果応報という言葉も。

「ふじーーーーーーーーっ!」
ふじーっ!と叫ぶ、"ふ"の時点でちらりと見えた彼の影。
しまった、と思ったのも、ウソじゃない。

「どうしたの、?」
私こそがお前に、どうしてそんなに嬉しそうなんだと問いかけてやりたいよ。
それでもそれでもそれでも、後ろにヤツがいると……!
さして差し迫って近づいてきているのだと思うと……!
「ヤツがいるーーっ!!」
どうして駆け寄る不二を振り払うことができませうかっ!
どうして私を抱きしめる不二を睨みつけることができるでせうかっ!
むしろもうそれはおばけに怯える子供が親にしっかりとしがみつくように……私も………!!

「……………僕と一緒にいればだいじょうぶだよ」
不二の声が恍惚としていたなんて、私の知るよしではなかったけど。


ガサガサッ


「ぴぎゃーっ!」
「わっ!」

再びみたび、聞こえたヤツらの足音に、思わず勢いあまってしてはいけないことをした、かもしんない。
不二を押し倒すなんて。
いやっ!いやいやいやいやいやいやいやー、いやだ、違うってば!
押し倒したんじゃなくって、これは不慮の事故であって、決してそういうんじゃなくって、勢いあまったっていうか、とか言うと故意みたいじゃないか!
違う、違うワー!これは不慮の事故なのヨー!ふぇええええん!!

「わぁ、ってば大胆だなぁ…」
「ちっがーう!!」

慌ててそこから身を起こそうとするけれど、どうしてどうしてどうして!
どうしてこいつはその腕をガッチリ離さないと言わんばかりに!!
「くそぅ、離せ離せはーなーせー!」
「離してもいいの?」
きょと、と不思議そうに聞く不二の目は、本当にいいの?と語ってる。

「いいにきまっ」
「そこにまだ君の嫌いなアレが見え」
「ギャーーーーーーー!」

溺れる者は、藁をもつかむ。そんな言葉が切々と駆け巡って、まさしく私は叫びながら目の前にある単体にしがみついてゆく。
それはとてつもなーく嫌いなものを目の前にした人間には、必然的道理だと思うのよ!本当!!
だからこれは条件反射で故意ではないの!
断じてないの!
だから私の真っ白な頭は、腰にまわされる腕に気付いてはじめて正気に戻るのよ!

「ハッ…は、離せ!!」
「本当は離れたくないのに?」
「なにを言っ」
「アレがき」
「イヤーーーーーーー!」


なんてなんて な ん て ★
エ ン ド レ ス !









もう、だめ…!

叫び疲れて。
暴れ疲れて。
逃げ(ようとして)疲れて…。

ぐったりと、私は肩をうなだれさせるのです。
大きくため息を吐き出すのです。
そして、不二、に、あろうことかもたれかかってしまったのです。
私が、不二を押し倒したような体勢の、まま。

嬉しそうな不二は微笑んでいるだけでなにも言わない。
幸せそうな不二は微笑んでるだけでなにも言わない。


だから私の視界感覚を黒い影が覆うまで、なあんにも気付けなかったんだ。




「やぁねぇ、親のいぬまに既成事実ってやつ?ダイニングは痛いからやめときなさいよ」




おかぁさん!?

「やだなぁ、それを言うなら鬼のいぬまに洗濯でしょう」
「あははは、そうだったかしら?」

てゆうか不二!!?

あははははって笑い声。
のんびりと、まるでさっき囲んだ食卓みたいな。
って、って、って、って、ってゆうか、そういう簡単なもんじゃあないのに!




「…ちっ、ちがーーーーーーーーうっ!」




家中にこだまする、いいや、団地だからここを中心に、きっと、広がった。
私の顔はまっかっか。
だけどこれは怒り、きっとそう、絶対そうなんだってば!

いつのまにかお母さんの姿は消えていた。
仕事がどうなったのかは後で問いただそう、今はこいつをどうにかしなくては!

ホントに今日はついてない。
黒くて速くて嫌な奴に巡りあい、腹黒くて手も行動も頭の回転も速い嫌味なやつにも巡りあってしまったのだから。

「…ッント、最悪…」
ぽそりと呟けば、やけに意味深な笑みを口元に貼り付けている不二の顔が見えた。
「そんな風に思ってたんだ?」
腹黒くて…手も行動も頭の回転も速くて…

うっわぁ、口に出しちゃってたみたい!!
たらりと冷や汗を流す私。
だけど不二はどうしてかものすごく楽しそうに、そして嬉しそうに笑って私を見る。




「でも、嫌じゃあないんでしょ」


夜もふけ始める頃、まだまだ夜はこれからだよと、不二の目は言ってるように見えた。
そして私はまたひとつ盛大に大きなため息をついた。






-------------------------------------------

1年以上もかかったなんて…いや、ただたんの私の怠慢ですがネ
アンケートなどでも随分と好評で嬉しいです…えへ


2004/1/7