あのね、、聞いて?
オレ、が好き
オレ、が好き。おんなのことして、いちばん好き
のことぎゅって抱きしめたいし、ちゅってしたいんだ。そういうふうにが好きだよ
は?

「・・・わからないよ」

なんで?
「だって・・・」
だって?
「だって・・・あたしたち、きょうだいみたいじゃない・・・」
でも、オレたちきょうだいじゃないよ?
「でも・・・わかんないよ」
どうして?
「だって・・・ジローちゃんって、弟みたいに思ってたもん・・・」
オレ、のことずっと前から好きだって思ってたよ
「だって・・・・・・」
・・・・・・・・・

こまらせてごめんね




・・・こたえられなくてごめんね。


だってあたしたちはきょうだいみたいなものだ。

・・・だからわからないよ。





きょうだいのようできょうだいでないものたち・2





ー!
大きな声であたしを呼んで、駆け寄ってくるジローちゃん。
転ばないようにね。
うん!って返事だけはいっちょ前。
可愛かった。
可愛かったよ、ジローちゃん。

、オレたちまた一緒の学校だよ!
えへへと笑うジローちゃんはとても無邪気なんだ。
あたしもつられてえへへと笑う。
一緒に手を繋いで学校へ向かって。
ついこないだまでそんな関係だったのにね。


後ろから呼ばれた。
振り返ってそこにいたジローちゃんは大きくなったジローちゃん。
テニスして、レギュラーで強くて、すごく女の子にもモテるんだ。
可愛いジローちゃんは昔のひと。
でもジローちゃんはジローちゃんに変わりないから、好きだよ。
大好きなあたしのきょうだい。

 な の に

あのね、、聞いて?
オレ、が好き
オレ、が好き。おんなのことして、いちばん好き
のことぎゅって抱きしめたいし、ちゅってしたいんだ。そういうふうにが好きだよ
は?

おとこのこのジローちゃん。
あたしの知らないジローちゃん。
真剣な目をあたしを見つめる。
「すき」って、言う。

だって、だって……
あたし、
あたしたち、
     ……。





ふ、と目を覚ます。
薄暗い部屋の中、泳がせた視線の先の目覚し時計は、起きるにはまだ早い時間を指していた。
めっずらし〜い……
うすらボケた目でなにを見るでもなく部屋をぐるりと見回して、それからもう一眠りしようと、またベッドに潜り込んだ。
目を瞑って眠気の再来を待ち望む。
けど、やってきたのはさっきの夢の続きを考えるあたしの思考。
ム……ン?
打ち払って追いやって、ぎゅむっと目を瞑って身体を丸めた。
眠い、あたしは眠い!
だからあっち行って!
だけどどんなに振り払おうとしても、そうすればするほど、思えば思うほど頭は冴えていってしまう。

「んっ、もう!ジローちゃんのバカッ!!」
起き上がって思わず叫んだ。
自分の声に完全に目が醒めてしまったあたしの頭はねすーっと急速に冷えていく。
寝起きの身体にうすら寒い朝の冷気がまとわりついた。
「ジローちゃんの…ばか…」

くすん、と鼻をすする。
ベッドに転がってた抱き枕に手を伸ばす。
ましゅまろぴろーのうさぎちゃんとあたしの手、ぽつっとふたつの染みを作った。





!前に出てこの問題を解いてみろ」
「ふぇっ!?」
数学の先生の不機嫌そうな声。
霞みのかかってたあたしの意識が今日に呼び戻される。
げぇ、あたしもしかして寝ちゃってた?
前の黒板を見れば、よくわからない問題。
数字がたくさん並んでる…って、数学だから当たり前なんだけど。

因数分解の応用問題…かなぁ。
ちょっとちょっと、跡部!助けなさいよ!!
後ろの席の跡部に、左手だけを後ろに回してひらひらアピール。
斜め後ろに座ってるジローちゃんは大抵寝てるからアテにしない。
そうでなくても今日はなんかヤだったのだけど。

くっ、と手のひらに渡されるノート。
ラッキー☆
意気揚々と軽い足取りで黒板の前に立ってノートを広げる。
片手にはチョークを準備して。
"バーカ"
って………。

「ふざけんな、跡部ーーー!!」
べしっ、と床に叩きつけるノート。
よくよく見れば、それはあたしの数学用無印ノート。
まじ?
くっくっくっ、とおかしそうに笑う跡部にあたしの腹は煮えくりかえるどころかきっと沸騰して蒸発している。
朝っぱらからあたしと同じく居眠りこいてた奴らはなにごとかと顔をあげて。
(ってか、だったらなんでよりにもよってあたしをあてたんだ!先生!!)
でもいつも寝てるはずのジローちゃんは起きていてあたしを見つめていた。
じっと穴が空きそうなくらい見つめて。

あたしはこのときジローちゃんが男の子の目であたしを見ていることに初めて気がついたんだ。
ぼけっと戸惑いながらもなにもできずにあたしは目が離せなくなってしまった。
だけど、

……、ふざけるなはお前のほうだろうっ!!」
数学の先生の怒号と雷が真上からどかーんと直撃した。
あたしはハッと我に帰って言い返す。
「だって跡部があたしのノートに渡すから!」
「自分のノートを見るのは当たり前だろう!このくらいの問題自分の力で解かんか!!」
「だぁって!」
食いかかって口論になる。
だけども鳴り響いたチャイムに、「あ、お終いだ〜v」なんて思ってすぐさま自分の席にあたしは戻った。
数学のセンセの顔が真っ赤なゆでだこ状態。
あ、あ、爆発するかもしんない。
は明日までにこの問題解いてこいっ!!」
言い終わると同時におもいきりよく教室の扉が閉まった。
大きな音に舌をまいて、それから寄ってきた女友達と輪になって笑いあった。
ちくちく背中に痛い視線はずっと。
10分休みが終わっても、授業が始まっても、昼休みになったって、ずっと。
ずっとあたしの背中でちくちくしてた。

、おべんと」
はい、と机の上に置かれたおべんとう箱1人分。
えっ、って思って見上げたら、白い歯を見せて笑ったジローちゃんは「昼練あるから」って教室を出てった。
ぐっ、と込み上げてくるものたちを必死で押さえ込んであたしはジローちゃんの背中を見つめた。
嘘だ。
絶対、嘘。
嘘ついてるとか、本当の気持ちとか、ジローちゃん全然顔に出ないけど、あたしはわかるもん。
「ジローちゃんのバカ…」


あたしはどこかあたしの中で都合よくジローちゃんの気持ちを変換してた。
ジローちゃんはあたしを"好き"だといったけど。
あたしはジローちゃんが"好き"だといったけど。
ふたりの"好き"は全然違うものなのに。
なのにあたしはどこかジローちゃんの"好き"と一緒かもしれないと思ってて。
あたしのこときょうだいみたく"好き"なんだって思ってて。
でもね、違うんだ。
同じなわけがないんだ。

ふたりの"好き"が違うなら、一緒にいるとつらいから。
すれ違う心に、どうしようもなく悲しくなるから。
嘘をついたジローちゃん……ふたりのために。


どうしようもなく泣きたくなったあたしは、保健室に逃げ込んだ。
保健の先生に「生理痛」って言ったら、思いの外あっさりと信じてくれた。
このときのあたしの顔はひどく痛々しかったんだと思う。
だって本当に心が痛かったから。

ジローちゃんのお母さんの手作りのおべんとも食べないで、机の上に置きっぱなし。
4時間目の授業の教科書とノートもそのまんま。
なにも言わないで来ちゃったからきっとみんな心配してる。
だけど今のあたしにそんなこと考えられる余裕もなくて。
ただ、………泣きたくて。
カーテンで仕切られたベッドにうつ伏せに潜って泣いた。




もう、あのころのようには、
いつもみたいには、
わらいあうふたりみたいには、

むじゃきみたいには、
こどもみたいには、
もう、
もう、もう…

きょうだい
みたいには

戻れない
のかなぁ………。



























涙でしっとり湿ったシーツが気持ち悪くて目がさめた。
夕焼けの光がカーテンに透けていた。
ふらつく足をゆっくりと動かしながら窓の外を見た。
その先にはテニスコートがあるのです。
その中にはテニス部員が部活をしているのです。
さらにその中にはテニス部レギュラーがいるのです。
つまり、あそこにはジローちゃんがいるのです。

遠目に見つけたジローちゃん。
本当に楽しそうに笑うジローちゃん。
おとこのこの顔の。

あたしはそれを見て、なんでだか無性に切なくなった。





つづく
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まだまだ。
まだまだこれから!


2003/4/11