「うぇっ……く、」
「ごめんな〜
泣きすぎてガンガン鳴るあたしの頭に、ジローちゃんの声は心地よく響いた。





かわりゆく かわらないもの





好きだ。
あたしはジローちゃんが好きだ。
きょうだいみたく好きだ。
多分そうなんだ。
でも漠然的なんだ。
あたしはジローちゃんが好きだよ。
それはほんとうだよ。
でも漠然的すぎてわからない。
あたしの好きとジローちゃんの好きが一緒かなんてわからない。
わからないよ。

たどたどしく嗚咽を繰り返しながら、あたしはゆっくりとジローちゃんに伝えた。
その始終、ジローちゃんはあたしの背中を撫で、うん、うんと頷いてくれた。
泣きすぎてひりひりと目元は痛んだ。
でも、胸の痛みよりはひどくなかったんだ。

すれちがうあたしたちの心は、どこに辿り着くのだろうか。
どこにも辿り着けないまま、儚い泡となって消えてしまうのだろうか。
ああ、本当に。
本当に、あの何も知らない小さな子供のままでいれたらよかったのに。

「あのね、
ゆっくりとあたしの背を撫でるジローちゃんは、こつ、とおでこをあたしのおでこにくっつけてきた。
それはちゃんと真剣に考えて話そうとするジローちゃんの意思だ。
うやむやになんてしないという心の現われ。
ずっと昔からそうだったから、わかる。
「なぁに?」
ゆっくりと、掠れた声で辿る。
一緒に鼻もすすった。
深くゆっくりとジローちゃんは瞬きをして、まっすぐあたしを見つめた。
「好きだよ」
男の子のクセしてバサバサに長いまつげと、キレイな金色の髪がふわりと揺れた。
あたしはゆっくりと反芻するみたくその言葉を頭の中反響させていた。
抵抗するでも受け入れるでもなく、それはあたしの身体中に響く。
「好き」
繰り返すようにあたしはそれを言葉にする。
ねぇ、ジローちゃんの中、あたしの言葉は響いているの?
手持ち無沙汰な手たちがそっと膝の上で重なった。
「きょうだいみたく?」
「とくべつなように?」
お互いに首を傾げて、それでも重なる視線が可笑しくて、嬉しくて、あたしたちは見つめあった。
どちらともなく微笑みあう。

答えなんか、どこにもないのだと、思った。















眩い朝の光に照らされた気持ちのよい朝。
あたしはタタタ、と軽快な足音で持って2階へあがる。

「ジローちゃん!」

「ジローちゃんってば!」

「ん〜・・・」


「ジローちゃん、起 き て !今日は朝練なんでしょ?」


「ん〜・・・ん」


「おはよ〜、


「おはよ、ジローちゃん、はやくボタンしめてパンかじってらっしゃい」


「今日って朝練あった〜?」


「あったよ、バッチリ!ジローちゃん絶対につれて来いって跡部が言ったもん」

「ふ〜ん」

「もう、バス乗り遅れちゃうよ!」

「行ってきま〜す!」




あたしたちはかわらないまま、少しずつかわってゆく。
日常はなにひとつかわらず。
だけど、たしかにかわりゆくものが。

だからもしかしてなんねんかたったある日、あたしはジローちゃんに恋してるかもしれません。
ジローちゃんのオヨメさんかもしれません。
もしかしたらすごいケンカをして最悪な仲かもしれません。
離れ離れかもしれません。

それでも、ただ、今は。
一緒に手をつなぎたいと、そう、思うのです。


「わっあっ!」
「なによ、ジローちゃん」
「だってが…!手…!」
「いやだっていうの?」
「えー、まっさかぁ!オレすっごくうれC!」






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4ヶ月ぶりに。
これで完全完結ということで。
ああスッキリ(自己満

2003/9/22