04






「憐れ、乱馬は火中天津甘栗拳を会得したにもかかわらず、一枚も二枚も上手のコロンに上手を取られ、不死鳥丸を奪うことは出来ませんでした………」

「な・に・やってんだよ、お前は!」
「いや、ちょっとモノローグっぽく始めようかなーって」
「はー?」
「まあまあ、縁日のときはおしかったねー」
「おうよっ!あのババア、中身すり変えられていなかったら今頃俺は……」

 ふるふると怒りに震える乱馬が、それでもどこか説得性に欠けるのはきゃぴきゃぴのおとめちっくな水着を身に着けているせいだと思う。…まあ、乱馬が甘栗拳を会得したとほとんど同時期に姿をくらましたコロンの居場所がこのビーチだったっていうわけでもあるんだけども。

「まあでもいい加減みんな、その姿の乱馬に違和感なくなってきてるよね!」
「っだー!なくなってたまるか!」
「元に戻らないとあかねと結婚できないもんねー」
「なんでだよ!」
「アハハー」

 そう、猫飯店は夏休み中海の家での営業をするらしく、東海の沿岸へ向かっていった。勿論不死鳥丸を手にすべく乱馬をそれを追っていく覚悟だったし、そんな覚悟を胸にした乱馬の為に天道家早乙女家は一丸となって「海にいこー!」をスローガンに旅支度をした。
 乱馬意外は夏旅行に浮き足立っていたのは言うまでもなく、とあかねもまあ乱馬に協力する素振りはありながらも内心旅行を楽しみにしていたわけでもある。てへぺろ!

「で、見つかったの?」
「さー」
「乱馬は?」
「あれ?さっきまでそこにいたのに」

 一瞬目を離した隙に乱馬はいなくなっていた。コロンを見つけたのだろうかは定かではないが、浮き輪を片手に浜辺を満喫しているあかねと共に、は歩き出した。

「かき氷食べてたら飛んでくるんじゃない?」
「…時々思うけど、ってわりと乱馬を馬鹿にしてるわよね?」
「えー、そんなことないよ?でも乱馬が食い意地張ってるのは本当のことだしー」
「………」
「あ、スイカ割り大会だって!あそこに乱馬いるかもよー、あかね!」
「ハイハイ…そんな乱馬の妹でもあるも大概食べ物大好きよね?」
「なんか言ったー?」
「べーつーにー」

 少し小走り気味にスイカ割り大会の会場へ向かうと、の察しどおりそこには乱馬がいた。ほらね!とアイコンタクトをあかねに送ってみれば、彼女は呆れたように肩をすくめた。近付いていくと、観衆の声も大きくざわめいている。

「すっげー美女が賞品なんだとよー」

 思いがけず耳に入った情報に、は頭を傾げる。美女が賞品…スイカではなく?

「乱馬、私の為に戦うのだな!大歓喜!」

 ついでに聞きなれた声も聞こえて、それが誰だか思い浮かべるよりも早くあかねが浮き輪を破裂させていた。指に込めすぎた力加減がなんともいえず、怖い。


「な、なーに?」
「私たちも出るわよっ!」
「えっ!?」

 強引にの手を掴んだあかねは受付に強襲し、スイカ2個と木刀2本を受け取っていた。そのうちひとつずつを手渡してくれたあかねの瞳には炎が灯っていた。…後戻りはできなさそうだ、とは息を呑む。
 開催者のスタート合図を鳴り響くと、一斉に歓声が上がった。

「えーっと、ねえねえルールは?」
「さあ?たくさんスイカ割ればいいんじゃない?」
「ちょ、あかねいい加減ー…」

 少しばかりその勢いについていけず慌てていると、その隙を狙ったかのように一般の参加者がの手に持つスイカ目がけて木刀を振り下ろしてきた。不覚を取られながらも寸でのところで避けたは、その条件反射で一般参加者のスイカを叩き割った。

「早速やるじゃない!」
「あ、あかねこそー」

 意気揚々と声を上げたあかねは、走り抜けると同時にそこにいた参加者のスイカを3つ連続で叩き落していた。ううーむ、気合が違う!
 も気を取り直してあかねに続くと、その先に乱馬の姿が見えた。ちょっとした人だかりができているそこはぽっかり円を描いていて、そこの中心には乱馬とコロンが対峙していた。お互い持っているスイカを防衛しながらの戦いは凄まじく、切れがある。
 けれどこれは一対一の決闘ではなく、何人も入り乱れる乱戦だ。後ろから隙を突いて木刀を振り下ろした玄馬と早雲が、乱馬のスイカを―――…

「いやー…あれ完全に頭狙ってたように見えたけどなー…」
 ぽつり、と呟くはの独り言である。


「乱馬君、きみと言う奴はっ!あかねというものがありながら、そんっっなに賞品のシャンプーが欲しいのかねっ!」
「あのなっ!」

 反論したげな乱馬だが、いまいち状況の流れもつかめていない上にはなんとなく勢いで参加してしまって、ちょっと混乱している。ただ、あかねの意志のようなものははっきりしていて―――多分嫉妬?とは思っているのだけども…。

「やめてよおとーさん。乱馬がシャンプー目当てでも、あたし全然構わないわよ」

 なんて冷静に言ってのけているが、力の入った木刀のさばき具合は誰が見ても明白だ。静かな怒りを感じる!あっという間に参加者のほとんどのスイカは割られてしまい、後に残るはおなじみのメンツといったところか。は溜息をつきながら最後の一般参加者のスイカを叩き割った。

「おーっとこれはー!」
 歓声に沸く実況に振り返ると、そこには対峙するあかねとシャンプー。どうやらシャンプーはこの勝負に乱入したらしい。睨みあうあかねとシャンプー。
「面白い!いくわよ!」
 いきりたってあかねは勢いよく飛び出し、シャンプーもまた振りかぶって一歩踏み出した。
 けれど。

「女がぶっそうなもん振り回すんじゃねえ!」

 ふたりの間合いに一気に入り込んだ乱馬が、あかねとシャンプーの持つスイカ両方を同時に割った。あっけにとられたふたりを過ぎ去り、向かってくるのは…
「こっち!?」

「おまえもおとなしくしてろ!」
 ドッと重い音がなり、掌のスイカが崩れていくのを感じる。
「ひっどーい!なによ、偉そうに!」
 憤慨するの言葉に乗っかって、早雲と玄馬が乱馬に詰め寄った。
「この際はっきりさせてもらおうかっ!あかねとシャンプー、好きなほうとくちづけを交わしたまえ」
 おっさんどもの関心はいつだってこれが最優先な気がする。詰め寄られた乱馬はたじろいでいるけれど…こちらもあかねもシャンプーも、みな乱馬の選択を息を潜めて見た。次の瞬間、乱馬が意を決したように見たのはあかねで、それからぐいぐい間合いを詰めていく―――。
「ちょ、ちょっと乱馬!そんな!」
 あかねを選んだ!
「なにすんのよバカ!人前で!それに女同士なんて、あたし、あたし―――っ!」
 と、ちょっぴり優柔不断な兄を見直しただったけれど、でもそれは次の瞬間あっけなく打ち砕かれた。

「悪趣味な提案すんなよな!おっさん!」
 つまりあかねの後ろにいた早雲のスイカを、狙っていっただけだった、なんて。早とちりしたあかねはわずかに頬を紅潮させていた。
 そりゃあまぁ、あの言い方じゃ人前じゃなくって女同士でなかったらいいよって言ってるようなもんだもんね。

「死ねい!」

 照れ隠しそのままに乱馬をつきとばすあかね。突き飛ばされた乱馬といえば、腑に落ちなさそうな顔つきで虚空を飛ばされていった。その先はラッキーなことにゴール目前で、これはもう乱馬の一人勝ちかと思った矢先にコロンが乱馬のスイカ目がけて来襲した。
「おっと!」
 すんでのところで乱馬は避けたが、ゴール目前にて通すまいと立ちはだかるコロン。単純にシャンプーが商品ならこうも邪魔をするはずがないと思うので、たぶん不死鳥丸が一枚噛んでいるんだろう。親父連中と一緒に踊らされたようなもんだな、とはためいきをついた。

「シャンプーを貰い受けると約束せぬうちは、ここを通すわけにはいかんな」
「ばばあ、決着をつけるときが来たようだな・・・」












2017/5/30 ナミコ