03 家族






神の家に住まうものは皆兄弟。そして家族。
等しく平等に生きなさいと笑いかける高僧を、その家の子供たちは皆尊敬と畏怖を抱いてゆるやかに誠実に育ってきた。
多少のずる賢さを持っていたとしても、思えばこの家は他のどの神の家よりも等しく平等であった。
子供たちを守り育てた偉大なるオディロ僧がなにより平等を尊ぶ方だったから。

家族失ったものたちは彼を父と心に決めただろう。
父のため、主のため、ささげうるすべての祈りを偉大なる父に―――――……。
かけがえのない大切なものを再び手にした少年たちの心にあるものを、子供とてちゃんとわかっていた。
大切なものが大切だということを知ったから。

けれど子供はどうしても理解できなかったことがひとつあった。
家族を厭う、その思い。
子供はまだ純粋で、そして純朴であった。



「家族って、なに?」



それは夜、子供たちが眠る部屋で発せられたほのかな質問であった。
あまりに一見簡単な、そんな質問だったから、きょとと一瞬まばたきをした子供たちは次の瞬間一斉に笑い出し、そんなことも知らないのか、なに言ってんだよ、ああでもそうか、記憶がないってお前のことだったのか、と子供たちはぐるりと質問をした子供を取り囲んだのだ。
その子供たちの反応に少なからず子供が赤面しながら、だって、と答える。
「家族ってのはぁ、僕たちみたいに同じひとつの家で暮らしてる人たちのことを言うんだ」
「バッカ、そういうのもあるけどさ、でもこれは特殊なんだ。なんたって僕たちは神の家の子供であるわけだし」
「――――じゃあ、僕たち家族じゃないの?」
「ジュリオの泣き虫、僕たちは家族だ、けど普通の――――村とか町とかで暮らしてる家族とちょっと違うだけだ」
まるで泣き出すような声をあげた子供に、それよりちょっと年上の子供が歪められた眉間の皺を崩すようにそこをつついてからかった。
ドキリ、となぜか心は緊張し、知りたいような知りたくないような気持ちに駆られても、子供の好奇心は止められるほど大人しくもなかった。
「神の前に愛を誓った男女は、夫婦になるんだ」
それくらい知っているだろう?と、子供はまわり全員の子供の顔を見回した。
ここマイエラにもときどき、近隣の村や街から赴いた男女がそっと愛を誓って帰っていくのを知っている。
神父はふたりの前に誓いの言葉を示し、穏やかな笑顔で来る人たちを見送っていくのだ。
「夫婦は人がはじめて自ら作るひとつの家族なんだ。愛を誓うことで新しく家族を生み出すことをゆるされる。そしてその愛の誓いに忠実であると、夫婦は神から命を授かることができるんだ」
「命って?」
「子供のことさ!そうして夫婦は子供を交えて親子になるのさ」
得意そうに子供は笑った。
その後ろには、はじめから聞いていたくせにまるでなにも知らないように窓の外を見つめる銀の髪の子供がいた。

親子の家族は血を分けた家族だ。

誰かが言ったその言葉を、銀の髪の子供がどんな気持ちで聞いていたか、子供はわからなかった。







やがて成長し、大人へなっていく過程で、子供は切なさに似た羨望を抱いていく。
決して手に入ることのないものへの羨み。ただひとつお互いの心を占める者。
怨み憎みながら決して忘れることのない絆にも似た繋がりを持ち続ける彼らに、唇を噛み締めたくなるような羨望と握り拳に爪が食い込み血が滲むほどの苛立ちを覚えながら、それでも大切だと、すべてをゆるし抱きしめることができる思いを抱く。
大切なものを大切にしたいと思いながら、深く傷つけたいと思うような、そんな矛盾した気持ちを。

そっと寄りかかる気持ちを抱きしめた、それだけだった。

僕たちは神の前に愛を誓い家族になることは出来ないけれど、本当の、家族になることはできないけれど、でも。
大切な誰かになることはできるんだよ。
心を占める貴方たちの、たったひとりの血を分けた、それより。



ちをわけたものにこころとらわれ、さげすまれながら、それでもおもいをかえないきみが、ほんのちょっとだけうらやましかったんだよ。
ちをわけたものがいるくせに、それをにくみ、ないものとしたあなたが、ほんのちょっとだけにくかったんだよ。













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2万ヒットありがとう記念リク第8弾、そのに。
書ける限り続けて更新しようとかいうやつです。
まだかけそうです。書きます。

2005/2/24 ナミコ