※これはククールさんがにゃんこでパラレルなお話です。※














擬猫化メロウ
case by E






 ネコを拾った。銀色の毛と水色の目をした可愛い子猫だった。
 オレは自分の面倒を見るだけで手一杯だったし、他に生き物を飼うつもりも余裕もなかったはずだった。なのについ抱き上げ連れ帰ってしまったのは、そのネコの目があんまり心細そうにこちらを見上げていたからだ。訴えかけるような目。置いていかないでと言われてるような気がした。そのネコを見たのはこれが初めてだったというのに。

「…………おいで」

 胸に抱いたネコの、もう離さないというように力を込める指と爪を見て、胸がちくりと痛んだ。

 一人で帰る帰り道、今日はもうひとつぶんのぬくもりが一緒になって道を辿っていく。それはとても奇妙な、けれどとてもあたたかな嬉しい気持ち。当たり前に生きて、当たり前に生活しているオレを、もうこれしかないのだと言うみたいに捕まえて。
 家に帰りあたためたミルクを用意している間でも、片時も離れないネコにオレはこう言った。
「ここはオレの家、おまえを捨てたりなんかしないよ」
 強張っていたネコの表情がたしかに緩んで、それからオレはネコにミルクを与えた。おなかが減っていたのだろうか、ネコはすぐにそれを飲み干すと口元をぺろりと舐めて、小さなげっぷをひとつ。それからオレのひざの上ですやすやと眠ってしまった。よっぽど疲れていたのか、はたまた安心したのかどちらか。オレはまだ夕飯も摂っていないのに。
 それでも穏やかな表情で眠るネコを起こすのはしのびなく、まあいいかと腹の減らぬうちに眠りについてしまえるよう努力した。それはいつもの就寝時間より、何時間も早く訪れた消灯だったけれども。

 そっとランプの火を消した。消える火のにおいと煙が漂い、鼻先を掠めた。熱いくらいの動物の体温を抱き、オレは眠る。





 あの可愛かったネコはそれからぐんぐんと大きくなり、ますますしなやかに美しいネコとなった。近所のメスネコ達はよく家の前にやってきてはかまって欲しそうに鳴き声をあげていくけれど。でも。
「ちゃんとオレの名前よんでよ、ゴシュジンサマ」
 悪戯に笑うその口は、どちらかと言えば愛やら情欲やらを口にしていることが多い。今日もまた、閉ざされたカーテンの向こうでは、何匹かのネコ達がこいつを誘いに来ているっていうのに、見向きもせずに、こいつは。
「……ッ……ゥ!」
 唇を噛み締め漏れ出す声を必死で抑えて、どうして名前を呼べるというのだろう。メスよりも同族よりも執拗にオレを求めるこいつに、オレは時たま"オレという選択肢しか知らなかった"のではないのかと思う。
 明日は一日くらい夜遊びしてこいとたたき出してやろうか。隣の村に住むゼシカにいいメスネコでも紹介してもらおうか。

 そんなことを考えて、でも、ああ、ダメだとオレは思ってしまう。もしも前者ならば、締め出した戸口の前でこいつは泣いてしまうんじゃないかっていう目でその扉が開けられるのを待っている。もしも後者なら、暴れて噛み付いて手に負えないほど鳴き喚めいて威嚇してメスネコを追い払ってしまう。
 知っている、知っていた、両方とも試したことがあるから。軽く拗ねていじけたこいつは、それでも完全に振り払えないオレに甘噛みして欲情しろと、語りかける。

 馬鹿なネコ、種族も違うのに、オレをあいしてるというんだ。
 馬鹿なネコ、オレの…オレの大切な。

「ク…クールッ」

 ここはオレの家、きみを迎え入れたオレときみの家。捨てたりなんかしないよ、そんなことをしたら、オレは寂しくて死んでしまうから。








私はメロウという言葉が好きなのか、…好きなのかもしれない。
書いててうっかりアップするの忘れてたにゃんこ。
エイトさんはククールに見せてないだけで、死ぬほどククールが好きだと最高に萌える。
でもなびいてくれないククールを必死に振り向かせようとしているエイトさんにも最高に萌える。


2005/7/28  ナミコ