※これはエイトさんがにゃんこでパラレルなお話です。※
擬猫化メロウ
case by K
終わりの見えない道を生きて、これからもずっとそうなのかと思った。それがどんなにか心をすり減らしていくだろうとわかっていても、まあいいかと思っていたオレはもう色々とあきらめてしまってたのかもしれない。変わらない毎日をため息つきながらおもしろおかしく過ごしてきて、なんの意味があるだろうか。もう、なにも変わらないのだろうか。 夕焼けに照らされながらド二から帰っていったのは、久しぶりだった。まだ子供だった頃、おつかいをしに行ったとき、初めてひとりで歩く道のりに足がうまく動かせなくて戸惑った。あの頃みたく、聖水がなければ歩くことが出来ないなんてことはなくなったけれど、それでもまだときどきうまく歩けていないような気がして。 (今日はなんとなく、歩きたい気分だ) こういうのをなんていうんだったっけか。ノスダルジー?焦燥感に少し似た、懐かしいような切ないような、この。 随分ゆっくりと歩く。夕焼けは沈み、宵の空は暗く星を輝かせる。そろそろ帰らなくては、と何度も思いながら重い足取りはなかなかあそこに向かってはくれなかった。どんなに回避しようとしても、結局帰るところはそこしかないというのに。 いい加減どうにかならないかと思うのに、どうにもできないもどかしさ。どうにもできないと思ってあきらめている、自分の、 そんな風に思ってさ、感じて、寂しかったのかもしれないな。やっとついた帰路の果て、修道院の目の前にぼろぼろに汚れたネコがうずくまっていた。いつもだったら気がつかなかったかもしれないのに。 「死んで…ないか。なんだ、お前。人間のみなしごならともかく、ネコなんて―――」 抱き上げたネコの目は涙でにじみ、泥に汚れてぐちょぐちょだった。瞬いた目がオレを見て大きく笑いかけるのを見て、オレは大きく目を見開いたんだっけか。 すっげー汚いネコのくせに、すっげーかわいいなんて思ってしまってさ、みんなの目を盗んで修道院の中に連れ込んじまった。それがすべての始まりさ。 給仕室からくすねたミルクをあたえ、この部屋で寝かせるならと、洗面台で洗ってやった。恐ろしいくらいの黒い水が出てさ、全然泡立ちゃしねえの。苦笑しながら泡に包まれるまで洗ってやった。そしてぴっかぴかに磨きあげたネコはまるで一皮むけたように頭角現しやがってさ、小さな黒に近い焦げ茶のしなやかなネコに思わず見惚れたくらいだ。 一宿だけだなんて思ってたのによ、そんなことしちまったらもうさよならなんてできなくて、記憶もないって言ってたネコにエイトって名前をつけてやってさ、もうオレはふわふわ毛玉のようなエイトを抱きしめながら眠ることに慣れちまっていて。 隠れ隠れふたりの愛の巣みたいに暮らして数年が経った頃、団長に見つかって捨てられてしまうエイトを黙って見放すなんか出来なくて、一緒に修道院を出ていった。オレたちは今旅の途中、野営を張って抱き合っている。 「思えば初めてお前が来た時もこんな感じだった」 「…ククールってお稚児趣味だったの?」 「ばっか、ちっげーよ、こんな風に文字通り抱きしめて眠ってただげで、本当に寝てたわけじゃねーっつの!」 「そのわりには随分と小さい内からいろいろやられてた気がする」 来て翌日にキスされて、身体を触られるのはだんだんと過剰になるし、精通もこない内からイかすは、お前の触らせるは銜えさせられるは、変な薬のませるは後ろだけでイかせるように仕込むは―――、 「変態」 エイトは細めた目と低く唸った声でククールを責めた。 「ひでえなエイト」 それでもククールが穏やかな口調と態度を崩さずに寄りかかるエイトを優しくなでているのは、それが憎まれ口だと知っているからだ。されるがままに背を撫でられているエイトは幸せそうに目をつむっているから。 「でもお前だってこんな変態に弄られてアンアン言っちまう淫乱ちゃんだろ」 「な…ッ!?」 尖った牙を見せて、今にも噛み付きそうにこちらを威嚇するエイトの犬歯に舌を寄せる。 「噛むなよ、痛いんだから」 「んーーッ」 尖った牙がちりちり舌をかすめていく。ざらざらしたネコの舌が零れそうな唾液を必死に受け止めていく。気丈にククールを見る目はひどく気高いくせに、耳も尻尾も服従しているというみたく弛緩してだんだんにくにゃりと垂れていって。 「オレがいなくなったらどーすんの?ひとりで生きていけるのかよ、お前」 「オレは……っ、元々は野生のネコだから、帰化できる。お前なんかいなくたって…オ レは……」 尻切れに言葉は揺らんで震えた。同じように同じ想いを抱いてくれているのだと確認できて、心は強く打ちひしがれるよ。 「バッカ、泣くなよ、ああほら、冗談だって、なあ」 「お前がいなくなったら、野生に帰化してお前なんかよりかっこいいネコ捕まえて…」 「うん、ごめんな、ほら。泣くなって」 大きな黒い目から涙粒をぽろぽろ零してしがみついたエイトを、誰が離すもんかと思う。涙を吸い取りあやすように背を撫でて、抱きしめる。 「…お前より男前なやつなんか、みつかんない、きっと」 「うん、だよなあ。オレがこーんなにも美しーのはお前のためなんだからさ」 「嘘でもいなくなったらなんて言うな」 「もう言わないって」 言わないよ。でも、 (どこかに行ってしまうのはお前じゃないかと思う) それは漠然とした不安のようなもので、幸せであればある程につのって大きくなるものだった。これが杞憂であればいいと、何度も何度も思っている。 「さーあオレの可愛いネコちゃん、おいで」 「ん…」 広げた腕の中、もうずっとここにいるのに、繋がっているのに、まだ足りないと思うオレの心は貪欲だろうか。 やわらかくなったエイトの後咥は、するするとククールを飲み込みぴたりと繋がった。 熱い、この熱が、ひどく心地いい。 「オレ、お前じゃないとだめなんだ」 最高の殺し文句を最高なときに言ってくれるオレの大事なネコは恐ろしいほど凶悪なんだと、ククールは心中嬉しそうに思い、激しいくちづけを見舞った。 ククールが拾ったエイトにゃんこ。 エイトが拾ったククールにゃんこの話と対になるのか。 気がついたらどっちのエイトもククールにメロリンラブでした。メロリン! 2005/8/9 今日は主ククの日なんでしょうか。 ナミコ |