ぼくはただ君の心と身体がなによりも欲しくて







「なーエイトー、お前の服ってなに」

「なにって、なにが?」
突然の、しかも突拍子のないククールの質問にエイトは首を傾げる。
ククールといえば女ならおおよそ大抵のものが頬を染めるような笑顔をし、歩み寄ってエイトの胸元を小突いてきた。
「たとえばあのゼシカの服は踊り子の服だろ、ヤンガスは盗賊のこしみので、オレは騎士団の服」
くるくる空を動く指の先をちらつかせながら、「お前は」とククールが聞いた。

「こんな装備みたことないんだけど。布の服にしては丈夫だろ」

遠慮なしにぺたぺたと手を這わすククールにエイトは一瞬びくりと身体を強張らせ、慌てたようにそれから逃げ出す。
「馴れ馴れしいぞ」
「ああ、悪い。男だと思うとつい」
パッと手を離し、しかしながら悪びれずに笑うククールにエイトは眉間に皺を寄せる。喉から出る言葉を、止めることはできなかった。

「その割には、女扱い、するくせに」

「リーダーだから、とくべ「ちがう」
軽く普通の会話をするみたく喋っていたククールの言葉を遮ってエイトは言葉を発していた。
条件反射で口元に手をやっても、発せられた言葉はもう返ってこない。音となって飛んでいった。彼の耳へと。
エイトは俯いてバツが悪そうに目線を横にやった。
あれはちがう、と。そう思って。
だって少なくともリーダーが段差に立ったからって、手を差し伸べるものではないだろう。

わかってる、けれどククールに言わせたかった。でなければエイトはいつも不安を抱えることになる。
くすとククールは微笑み、「そうだなあ」とエイトの耳元に口を近付け「エイトはオレの恋人で、女だ」と誰にも聞こえないよう、しかしエイトにだけ届くように低く囁き、耳たぶを掠め食んで離れていった。

「アッ、」

あとに残るのは、自分のあげた声に驚き頬を染めたエイトか、はたまたククールの声と言葉に頬を染めたエイトか、願うなら後者ばかりなのだけど。
恨みがましくククールをみあげるエイトに、ククールは後者だろうと勝手に思うことにした。
「続きは後にしても、まずはその服について教えてくれない?」

手を取りイスを促し座らせた真正面にククールも向き合って座る。
もちろん、手は繋いだままで。
この手慣れた男にエイトはため息をつきながらもそれでもまぁいいかと笑ってしまうから困ったものだ。

「たびびとのふくだよ、これは」
「えー、うそだ。そんな、まさか」
「嘘じゃない、直したんだ、自分で」
「本当に?」
「ほらちゃんと見ろ、ここがこうでこうして…」
「ふーん、それ全部そうなの?」
「そうだ、ここだってこうするとホラ」
「へーえ」



標準のそれだと大きすぎるエイトは、自分で縫いなおしてこうしたのだと言う言葉を、ククールはなかなか信じなかった。
信じないがゆえにわざわざ脱いで説明するまでに至り、そのままことをいたしてしまったのだから、ククールはすべてこの話を持ちかけた最初のときからその事を計画していたのだろうとエイトはわかった。(もう本当に、最後のほうはトントン拍子でククールの思いのままだった。どうして気付けなかったんだろう。)
呆れたように笑い、それでも愛しそうに目を細め、エイトは眠りこけたククールを小さく小突いた。
少しずつ一歩一歩近付きながら、それでも強く急速に近付こうともするククールを、愛しく思う。
こめかみと銀の髪にキスをおくり、まぶたにもおくろうとしたところでククールは目を開けた。

「エイト?」

男にしてはちょっと白い、けれど滑らかでそこそこ逞しい腕がエイトへ伸びていく。
弾けるように驚き、慌てて離れていくことを、ククールは捕らえることで阻止した。

「キスは唇にして欲しいな」
「……悪趣味!!!!」

エイトはただもう顔を真っ赤にさせることしかできない。見られていた、起きていた、ずるい、卑怯だ、最悪だ!!!
ぐるぐるまわる頭を抱えそうなエイトをククールは包み込んで、おくられなかったエイトのキスの代わりに自分からキスをおくった。もちろん、唇に。
ついばむようなキスを何度も何度も繰り返し、頬をなで、抱きしめた。
好きだよ、と言ってみようかとエイトは考えた。どんな顔をするだろう。…自分だって、どんな顔になるんだろうか。

「好きだよ、エイト」

嗚呼、先を越された。
まるで不意打ちのように喰らった衝撃にエイトの心臓は爆発寸前にまで追い込まれる。
とても、心地よくて嬉しい気持ちを、この男も感じてくれるのだろうか。

「お前は?」

微笑む男に顔を火照らせる男。
好きだよ、の四文字を言うのにはもう少し心の準備が要るんだ。
重なり合った素肌から、激しい鼓動の音が聞こえるだろう、わかってるくせに意地悪だな。
あと五秒、もう少し、それだけ待ってくれ。そしたら深呼吸して、お前の目を見て、なぁ、ククール、

「オレは、」












好きだよ





たくさんのクク主を見てます。読んでます。素敵です(愛
全部リンクしてまわりたいです。そうしよう…!!
フリーとかあったら絶対持って帰るのにな…と思ってます。ないですけど。
だから自分でフリーにしてみようかと思います。
持って帰ったら「いただきマンモス!!」と言って拍手を下さい(嘘です)


2004/12/16  ナミコ