恋人以上友達未満






「すっげ」

喉がなったその音に少なからずの驚きを覚えつつ、ククールは着衣をゆっくりと脱いでいった。
早急に肌を求め合おうと思っていたけれど、少しばかり焦らしてやろう、もう少しエイトのひとりエッチを見ていたいという気持ちがククールの行動を制限する。
そんなククールに早くも焦れ、エイトはしきりに彼を呼び始める。
「ねぇ…ククール、…ククール…ってば…!!」

横たわってペニスに手を這わせながら、切なそうに目じりに涙をためてエイトはククールを呼んだ。
いまだ上着を脱ぎかけている状態のククールは「待ってろ待ってろ」となだめながら視界で楽しみ続けていて。

「はやく、……しろよっ」
焦れたエイトは堪えきれず声を荒げる。掠れた声に迫力なんてなくて、震えるばかりのそれはククールの嗜虐心をそそらせるだけだというのに。
「もうすぐだから待てって」
そう言うくせに、ククールの行動なんてちっとも早くならないし、止まるばかりの手からその意図をエイトは感じ取ってしまっていて、唇を噛み締めながら熱っぽいため息をゆっくりと吐き出した。

「もう、いい」
フッとエイトはそっぽを向き、ペニスをしごいていた手をゆっくりと離し、精液でべたついた指を自らの蕾に押し当ててそれをこすりつけた。
なんのぬめりのないそこを滑らかになるよう手助けさせて、ゆっくり押し開いていれてゆく。
「自分でする……」
ぎこちない手つきながらも確実にエイトは指を抜き差しし、背中を駆け上がる快楽に身を委ねて腰をゆらした。
ククールなんか知らないとでも言うばかりにひとりでしていくエイトに、焦ったのはククールだった。

「おいっ、そりゃあないぜ!!」
止まっていた手も素早く、今までにないくらい早急に服を脱いでいく。
脱ぎ散らした服なんてほうっておいて慌てて飛んでいってその手を掴んで止めさせて、開いたエイトの目がまっすぐククールの目と重なって、ああなんて可愛いんだなんて思っていたら「意地悪、鬼畜、バカ」なんて呟いたエイトの腕が首に絡んで、なんだ、ちくしょう可愛すぎるなんてキスをして、キスをして、深い…キスをして、こんなに余裕がない自分なんて、初めてのとき以来だ、ごめん、もう。

「きっつ……」
きつい、と思った以上にエイトはもっと苦しいはずだ。
眉を顰めて震えたまつげ、強張った顔と身体がそれを象徴している。
首に回された腕はしがみつくように力が込められ、腰を進めるか後退させるかそれぐらいしかできなくなってるのに、この腕を外してくれなんて言うことはなんだか突き放してしまうような気がして言うことは出来なかった。
下腹部にあたるエイトのそれが少しずつ萎えていくのを感じる。エイトが感じてる痛みの十分の一でも感じられたらいいのに、と思いながらククールはそっとエイトの頬をなで、こめかみにキスをした。

「ふ、ぅ…ん、」

手を伸ばしゆるゆるとエイトのペニスを丹念に撫で回した。痛みに負けてる快楽が、こうすることで勝ってくれたらと思ったからだ。
軽いキスを顔中に降らして「ごめん」と「好きだ」を繰り返していく。
だんだんと苦痛に歪んでいた顔が緩やかになっていくのを見ると、やっとククールは安心してエイトに深いキスをもたらす。
舌と舌を合わせて絡ませながら少しずつ腰を動かす。
初めこそ動くたびにうっ、とかくっ、とか苦痛の声をあげていたエイトだけれど、次第に語尾にハートマークがつきそうな鼻にかかった甘い嬌声をあげはじめる。
それに気をよくしたククールはもっとエイトに声をあげてもらいたくて抽挿を繰り返したりいろいろ角度を変える。

「ぁんっ!!!」

ひときわ甲高い声をあげ、びくりとエイトの身体は反応した。
なるほどここかとエイトの一番いいところを探りあてたククールはにやりと笑い、執拗にそこを集中してすりあげることに専念する。
するとエイトは絶え間なく声を漏らし、ぼろぼろと目尻から涙を溢れ始めさせた。

「あっ、あっ、やっ、そんっ、なっ、」

突き上げるたびにエイトは背中をしならせ、とけてしまいそうに頬を赤く染め、くぐもった声を漏らした。
その声を吸い取るようにくちづけ、それでもなおククールはエイトに突き立てる。
どくん、とひときわ大きくエイトの身体は強張り、次に弛緩した。
エイトが放ったものはふたりの重なった下腹部にぶちまけられ、こすれあうたびピチャピチャと淫猥な音を立てた。
その唇で塞いでいたエイトの唇をちろちろ舐めて離していくと、エイトは酸素を求めて荒い息を繰り返した。
上下する胸、重なった肌から感じる鼓動。

「気持ちよかった?」
「ん、」

まるで子供のような舌ったらずの言い方でエイトは頷いてみせた。
快楽の余韻に痺れるような高揚を感じているはずだ、現に少しでも動くとエイトは先ほど以上に感じている。

「なあ、オレまだイッてねぇんだけどさ」
「ん…」

教えるように動かせば、とろんと目を潤ませたエイトは首を縦に振ってククールにしがみついた。
ククールはそんなエイトを抱きかかえてベッドに腰掛け、自分の上にエイトが乗るような体勢を取る。
いわゆる騎上位という体勢で、エイトは自ら腰を浮かし、沈ませ、浮かし…という動作を繰り返してやってみせた。
少し長めのエイトの髪が揺れて、ククールの顔をくすぐった。
快楽に身を寄せてこらえながらククールのために自ら抽挿を繰り返すエイトの一生懸命さに微笑ましくなりつつも、限界がもうすぐそこに来ていると感じていた。エイトも、ククールも。
お互いあがっていく息に、言葉も少なくただ快感に漏らす息遣いだけが部屋中に響いていった。
エイトは次第にククールの肩に俯きもたれていき、ククールは自らも腰を揺らしてエイトと快楽を分け合っていった。

高まっていきながらククールの頭はふいにひとつのことがチラチラとよぎりはじめた。
ああ、こんなにもキスをして、甘い言葉を吐いて、愛を貪りあって、抱き合っているのに、世の中にいる恋人たちより熱く何度も愛を囁いているのに、なんでだろうか、これが終わったらまたいつもの仲間同士に戻って、友達だなんて感覚にもならなくて。
そういえば、何度好きだって言っても、苦笑するばかりでなにも答えてくれないしなあ。

身体と反比例してどんどん冷えていく頭を紛らわせたくて、ククールはエイトの舌に吸い付いた。
これ以上ないってくらい身体はくっついてるのに、壁に映る影はひとつになってるっていうのに、心だけは覗くことが出来ないその世知辛さに眉を寄せる。
身体を慰めあっているんじゃない、愛を重ねているつもりなんだ、少なくとも自分は…とククールはエイトの胸に頬を寄せる。
波打つ鼓動はなんのせいか、緊張か、それとも激しく動いたがゆえか、はたまた自分と同じ理由なのか。

「エイト、いる?」
コンコンとドアをノックする音にびくりと身体を強張らせ、エイトは夢から覚めたようにドアのほうに目をやった。
ゼシカの声だった。
姫と一緒にいたんじゃないのか、という目がククールとドアの間を行き来する。なぜ、と。
そんなのお前を早急に抱きたいと思ったオレがついた嘘だ、なんてことは言えなかった。言ったらきっと……いいや、言うもんか。
ククールとドアを行き来する目がだんだんドアのほうへ絞られてもっていかれる。
まさか、ゼシカに答えるつもりじゃあないよな。こんな状態だってのに。

ククールは逡巡して考えるエイトの顎をこっちへ向かせ、キスすることで沈黙させようと思った。塞ぎあった唇から声が漏れないようにして。
嫌がるように身をよじるエイトに少し苛立って舌を絡めた。やんわり歯を立て牽制しても、それ以上はできないだろう、なあ。

「寝てるのかしら…」

部屋のドアの前を行ったり来たりしているだろう気配を感じながら、ククールはそのままエイトを突き上げ始めた。
エイトは目を見開いてククールを睨みつけ、銀の長い髪を引っ張ってやめろ、と示唆した。
けれどククールといえばやめるどころかますます激しく突き上げて、しまいにはエイトの一番感じたところだけを集中してやってきた。

ドクン、とエイトが2度目の絶頂を迎え、それから一瞬遅れてククールがエイトの中ではじけた。
聞こえたか聞こえないかの狭間で果てたエイトは生理的だけでなく怒ったように涙を零した。
真っ白に弾けとんだ一瞬はなにも頭に入らなかったし、ゼシカの気配はすでにドアの前から消えていたのだから。

「ひ、どい」
しゃくりあげてエイトはククールを睨んだ。
いつものように余韻を楽しむために手を伸ばして頬や髪を撫でようとしても、ピシャリと払われてエイトはそれを受け付けてくれなかった。
「気付かれたら、どうするんだ」

「別に、オレは―――――」
言い訳にもエイトは首をそむけ、もうはやく自分の中から出て行けとそれだけをしらしめて身体を離していく。
ずるりと引き抜き、中で出してしまった液がエイトの内股を伝っていった。事後の処理をしようと手を伸ばしても、エイトは受け付けなかった。

「お前なんか、本気じゃないくせに」
遊ぶんだったら誰にも気付かれないようにしろよ、女のとこに行っちまえよ、そう、エイトは小さく呻いた。

胸を締め付けられる想いに駆られていたのは自分だけじゃなかったのかと、ククールの胸は満たされた。
だから後ろから抱きしめて、ククールの心臓を揺るがすものを感じて、そしてこの鼓動の激しさを知って欲しかった。
案の定暴れるエイトを、それでも必死に繋ぎとめて好きだと、愛してるのだと、それだけを囁いた。

「なあ聞いてくれ、感じとってくれ。オレはお前が好きだ、愛してる、嘘じゃない。だからオレとお前がこんなことしてるって、誰にバレたってかまいやしないんだ。オレだけを見てくれ。誰も見るな。なあ、好きだって言ってくれよ」

懇願するようにしがみついてすがって、お前は一体どんな顔しているんだろうかと、ククールは思った。
抱きしめる腕に手が添えられ、もう暴れる気配など微塵もない。
ぴったりくっついた肌越しに感じる鼓動と、自分の鼓動が重なって早鐘の二重奏をもたらした。

もう少し、このままで。
心臓がおとなしくなったらキスをしよう。
そしてまた、今度こそ本当に、本当の―――――愛を確かめあおうと、そう思っている。








昨日更新しようと思ったら帰ったの遅くてそのまんま眠っちった…
一日もエイトを焦らしてしまった(人としてそんなことを言ってはいけない…!!!)


2004/12/19  ナミコ