嗚呼、オスカル。






「どうしたんだい?」

ヤンガスとゼシカを置いて戻った宿屋の2階、扉を開いたククールを迎えたのはエイトの笑顔だった。
どきり、と跳ね上がるような気持ちを押さえつけてククールは引きつりそうな頬を無理やり上げて笑って見せた。
「お前こそ」
テーブルの上に持ち物を広げているエイトに近づいて、整理するそれを手伝う。
「こんなのみんなでやればいいだろ、…お前も来ればよかったのに」
「これが終わったら行こうかなとは思っていたけどね」
「ふぅん」
ククールの相槌を最後にあとはふたりとも黙ってしまい、会話は消えてしまった。
薬草と、上薬草と、いやし草と、つまはじいて並べて整頓して、そうしてやることがあるうちは静かな部屋になんの言葉がもたらされなくても平気だったのに、終わってしまって手持ち無沙汰になると途端、その静けさに気まずさを感じるものだ。
もっとも、そう感じているのは自分だけかもしれないのだけれど。

「…………のに」
「ん、ごめん。なんて言った?」

わざわざ手を止めてこっちを見るエイトの誠実さに胸が締め付けられる。
オレぁ、馬鹿なことを考えていた。お前はお前さ、どんな姿かたちをしていたってお前であることにはかわりやしねぇ。
女だったらよかったのに、なんて考えるべきじゃねえよな。

「なあエイト、オレのこと、好きか?」
「ん?ああ、好きだよ」

にこりとこちらに向ける笑顔は爽やかで、まったくもってオレと異なる好きっつう意味だってのはわかっている。
それでも破顔して笑ってしまうのは、なんでだろうか。

「オレも、好きだよ」
面食らって少し驚いているエイトはちょっとだけ照れて笑った。
この胸に抱く10分の1でもそうして伝わればいいと、思いながらその手を取る。
「じゃあ飲みに行くか!!」
「え、ちょ、まだこれが…!!!」
「そんなもの放っておけ!!いいか、酒と女は待っちゃくれねーんだよ!!」
「むちゃくちゃな…」
そう、むちゃくちゃだ。でもいいじゃないか、お前を連れ出す口実なんてなんでもいいんだから。
エイトを連れてトンボ帰りのオレを、あいつらはなんて迎えるだろうか。


すまん、生き証人になってくれ。
オレはエイトという人間を好きになった男だ。


大真面目にエイトの手を取り大衆の前で思いを晒す。
いいぞ、にいちゃん!あーん、ククール!!若者はこうでなくちゃ!!
騒ぎ立てろ大衆。誰も無様だなんて言わせねえ。
両サイドに座った仲間二人がオレとエイトと視線を行き来させ、オレはまっすぐエイトを見て、お前は…お前は―――――、











***










ガタン、とイスが後ろに倒れるのも気にかけず、ただもうエイトはきびすを返してかけあがった。
一階酒場、二階宿屋。階段を駆け上がってすぐの部屋で本当によかった、逃げる場所はすぐそこだ。
階下でククールが叫んでいる。「愛してる、愛してる、愛してる!!!」そして階段を駆け上がる足音。

馬鹿だ、とエイトは思いながらカギのかけた扉にもたれかかってずるずる座り込んでいった。
馬鹿だ、あいつも、自分も。なんで腰、抜けてんだよ。

「エイト?なあ嫌だった?嫌だったか?でもオレは好きだよ、お前が好きだよ、なあ」

板一枚隔てて向こう、ほんのすぐそこでククールはきっとうなだれているんだろう。
板一枚隔ててこちら、エイトはククールの思いがけない告白を締め付けられる思いで聞いていた。

「嘘、だ」
「嘘なんかじゃ、ねぇ」

ククールが嘘をついているかついていないかなんて、エイトにはちゃんとわかっていた。
まだ日は浅いといっても、もう四六時中とっついて旅をしてまわってきたんだ、そんなことぐらいわかってしまう。
けどそれでも疑ってしまいたくなるこの心はなんだろう。
信じられない、信じられない、信じられないほど……、

「だ、だってお前、ゼシカが…、ゼシカみたいな女の子が、好き…なんだろう?」

唇が震えて、歯も震えてきて、手も指も言葉も、とにかく自分というなにもかもが震えてなにかを訴えていた。
信じない、信じられないと思う心の一番奥で、信じたいと願うような、そんな気持ちを抱いていて。

「…そうだ、オレは女の子が好きだ。ふわふわしてて、あったかくって、…なぁ、でも」


愛してるのはエイトだけだ、と。消え入るような声でククールは告げた。


扉のカギが開くのも、あと少しだろう。
ククールの絶不調が治るのも、あと少し。
そして階下では酒気に酔った客たちが主賓のいない酒を煽り、にぎやかな夜を過ごす。




















にぎやかな階下の騒ぎを聞きながら愛を確かめ合う二人の部屋にて

「えっ、なにお前マジで女だったのか!?」
とかなんとか。





ChanChan☆
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エイトが女の子だったらこう…クク→主、クク←主ですれ違いかなとか思ったり。
こう、好きあってるのに伝えないからすれ違うし、ククは他の女の子とかにも余念がないから本気じゃないってエイトは思ってるんですよ。
でもってククは本気なんだけどそんなこと見せないし、エイトもエイトで自分の気持ちとか隠してるからやっぱりすれ違うんですよ。
んでククの子供身篭ったエイトは冒険終わったあと一人で生んで育てるんですよ。ククはいなくなったエイトを探すものの見つからなくて絶望、何年もエイトのこと考えて過ごすんです。
でもそれだとあんまり可哀想すぎるので何年後かに再開してほしい。
そして今度こそハッピーエンドで…!!

ってもう本当になにあとがきでドリームみてんだって感じですm(_ _)m

2004/12/21  ナミコ