出会いはこうして






一目見た瞬間恋に落ちたなんて、そんなことは言わない。
声をかけてきた見慣れぬ顔の一行に、なんだこいつらとひとまとめでくくって、あしらうように吐いた言葉がゲームのカモを憤慨させ、まったく暴れてくれんじゃねえよ、グルなわけねぇだろ、どさくさまぎれに関わってくれやがって、巻き込まれたからってお人よしがすぎるぜ、しょーがねーなぁなんて手を貸して。
勝ち気な女は結構好きだとか、おいおいお人好しにもほどがあるぜとか、ぽやーっとした女だなぁとか、でもまあお前らのおかげでとんずらできそうだ、恩にきるぜ、お嬢さん方はオレにまかせな。そんな軽い気持ちで二人を外に連れ出したんだぜ、なぁ。

「ありがとう」

なーんだ男だったのかよ、なんだ、可愛い顔してて、手首も細いくせして、なんだ、なんだ、なんだ。



青の既製の標準服であるそれとは異なった艶やかな紅の衣を纏った騎士団員の噂を、街に入ってちらほらと耳にした。
領主がどうとか、酒場でどうとか、決していいと言えるような評判でもなく、かといえば浮き世に名をするなんたら、みたいなのもあったし、そんな聖職者ってありなの?って思ってて、酒場に入ってすぐあれだな、なんてさ。しかも賭博してて、どういうやつだよ、なんて声かけて。ふりかえりもしないくせ、ああ透き通った声だ、嫌いじゃないとか、それから起きたドタバタついでにチラリと見えたその顔はひどくキレイで鋭くて、ふいに射られたように硬直してしまったオレの腕をつかんで外へ連れ出してくれたのは君だった。
なぁ、信じられないよ。

「ありがとう」

お前が本当に村の人たちが言うような奴なのか、わかんない。キレイな顔して、鋭い眼。なんだろう、なんだろう、なんだろう。





また、会えたらいいのに。





口実を指輪に乗っけて、それから願った。
会いに来いよと挑発して、待っていた。
一目見た瞬間恋に落ちたなんて、そんなことは言わない。
ただもう一度、会ってみたかった。それからなにか、始まっていく。これは予感だ。
手探りに彷徨った時間の終着が、その先に見えるような気がした。
そう、これは手段であって目的でない。そうだった、そうだったはずなのに。



同行は、いつのまにかそれでなくなり、確固たる絆を確立し、そしてかけがえのないものとなっていったっけ。











「なーに考えてるんだ?」
空と太陽の光を大きく遮ってククールに影をもたらしたのはエイト。
吹きぬける風は草といわず木々といわずなにもかも空気でさえも掠めてゆらめいて二人の間を駆け抜けていった。
気持ちのいい風だった。
ククールの髪はもてあそばれ、かたく結ばれたエイトのバンダナの端すら風にたゆたっている。
「さあな」
ほのかに含み笑いし、思い馳せるように目を閉じた。まぶたを閉じれば蘇る、あの時、あの頃、あのふたり。

「どうせまた、オレのこと考えてたんだろ」

まったく自信を持って言うようになったもんだと、そう思う。
目を開けなくともわかる、エイトの表情。こんな声をしている時、きっとひどく自信に溢れた勇ましい顔をしているのだ。

「わかるんだ、オレ」
ずしり、と腹にかかる重みにまぶたを開けれど、ククールの上に馬乗りになって押し倒したように見下げるエイトがそこにいて。
「なんで?」
重力のままに下に流れる髪、頬をなで、それから梳くように下から上へ手を這わせば、目を細めたエイトは微笑んで殺し文句を呟くのだ。
「お前のことばっか考えてるからかな」
噛み付くようにキスされて、噛み付くようにそれを返した。まるで獣がするくちづけのように激しい。

風が運ぶ花の香り、潮風、草木の露。
なによりも愛しいものの香りがすべてに勝って鼻腔をくすぐる。
耳に聞こえるのは息遣い、衣擦れ、それから水音。
大切なものを抱く腕が自分にはあるのだから、惜しまない。
慈しみ、愛し、抱きしめ、微笑んで、くちづけて、交わして、繋いで、そして深めていく心をいつまでも手離さないように。


ゆるやかに流れ出した想いの泉はやがて溢れるほどに満ち足りていった。溢れた瞬間、愛してると、そう思った。
この世の神に祈る資格なんて、はずれ外れた聖者のオレにあるかどうかはわからない。
それでも祈りたいと思うのは、出会えたことに心からの感謝を覚えている。
ただ、それだけなんだ。








だんだんエイトという人物を掴んできました!!カリスマは掴めないくせに…!!

2004/12/24  ナミコ