それはりの言葉ている






鈴の音、雪原、炎と煌き。
今夜ばっかりは仕事の手を休め、今夜ばっかりは大切な誰かと一緒に、笑って過ごして聖夜を祝う。


たとえ修道院にいたってさ、ミサの後は恋人たちのクリスマスってもんを過ごしてきたんだぜ、なあ。
でもまあ今年はそんな色めきたつもんは期待してなかったけどよ、場合が場合で、そんなことして浮かれていられるわけがないからさ。
でもオレはお前が好きだからさ、ほんのちょっとだけやっぱり期待しててさ。
いつも通り旅の足をおそめるわけでもなく変わらず進んでいったって別に構わななかったけど、夜になったら酒場にでもいってちょっと強い酒ひっかけて、なんでもいいから些細なこと話してよ、そんでもって一緒に宿に帰ってキスでも出来たら満足できる。
そう思っちまうくらい安くたって、それでもいいって思ってたんだぜ、なあ。

クリスマスという恋人たちの一大イベントである聖夜は、刻々とすぎて消えていこうとする。
日付変更を目前に雪見酒を決め込んで窓辺でククールはひとり酒を飲んでいた。
なんだかんだで街に着いたのは夜も遅く、ついさきほど。疲れたと言っていたお目当てのその人物はシャワーを浴びたらすぐに眠るといっていた。
急ぐ旅だ、早く身体を休め、明日のために備えておきたいのだろう。
ククールといえば誘いたかった、でも誘えない。これからでも遅くないか、でも相手の意思を尊重すべきか、などとと悩むばかりだ。
悩みながら飲み続ける酒はいつもより少しピッチが早いのかもしれない。時間をたつのを惜しんでいる。だってもうすぐ今日という日はおわってしまうのだから。

ひとりで煽る酒は、少し苦く感じられた。
窓から見える外の雪も、部屋から漏れる光に照らされる世界も、キレイだと思った。けれどあまりに静かすぎて怖いくらいだった。
なにに不安を感じているのだろうか。くらくら酔いの回る頭に反して、意識は恐ろしいほどに研ぎ澄まされていくように感じられた。
ゴトン、と軽く置いたように思えたグラスが思ったより強く乱暴に音を立て、自分自身驚く。
結構酔ってる?なんて思うと、まぶたはもう眠気を抑えきれずに落ちきってしまうそうな感覚を覚える。
大きく長い欠伸をひとつ、それから目をこすって限界だと感じた。ギリギリまで酷使して戦い抜いた身体は休息を求めていたのだから。



「ククール?」

部屋のドアを閉めながらエイトは声をかける。開けたときに見えた赤いのは片手にグラスを持ったままテーブルに突っ伏しているように見えた。部屋から出る時から飲んでいたのにまだ飲んでいるのか。
しかしククールは返事を返さなかった。ピクリとも動かないその動作に眠ってしまったのかと思い、エイトはククールの肩を揺さぶる。

「ククール」
帰ってこない返事にエイトは苦笑しながら声をかける。「こんなところで寝たら、風邪ひく」聞こえているのかいないのか、ククールは身じろいでううーんとかんーだとか呻き、手探りにテーブルの上に手を彷徨わせた。

「どうしたの?らしくないよ」
テーブルの上を彷徨っていた手を取れば、安心したようにその手はエイトの手を握り返して離さない。
ゆっくりと起き上がったククールはねぼけてとろんんとした眼のままエイトを引き寄せ戯れるようなキスをした。

「メリークリスマス」
エイトは面食らって瞬きをいくつも繰り返す。時計の針の位置をわかっているのだろうか、いいや、わかってなんかいないんだろう。
また苦笑してエイトはしょうがないなと、日付変更をとっくにまわってしまったその針の位置を忘れてしまうことにした。
言い出すに言い出せなかった延長戦の時間を、くれてやってもいいと、そう思ったから。

「メリークリスマス、王子様」
夢だなんて思わないでくれよと、ベッドに誘う。
抱き合うのもいい、ただ眠るだけでもいい。とにかくぬくもりに肌を寄せてまどろめば、朝目覚めた時寂しくないはずだと思った。
「夢みたいだ」
酔っているにしてはひどく優しい腕が満足そうにエイトを包み、撫ぜた。
「夢じゃない」

エイトは心地よさに身を任せながらククールの頭を引き寄せて抱きしめる。
抱えたククールの頭は抜け目なく伏せた鎖骨の辺りに舌を這わせ、ちゅっと音を立てていくつも吸い上げていった。ちりちりと感じる痛みにも似ているひきつりに、きっといくつも赤い痕が残されているのだろう。
繰り返される無邪気なキスはつらつらと舌で辿って耳元へ移動していく。くすぐったいと身をよじれば離れて目と目が合い、それから引き寄せられるように深いキスをした。
重なる吐息が熱くなる傍、祈るように重ねられたふたつの掌。
もしもこの手に祈りを掲げているのならば、この曖昧な聖夜にも、神の法を犯した自分たちにもぴったりなのではないのかと、そう思った。
皆が祈る神と同じものに祈りを抱けるとは到底有り得ないから。

主よ、神の子。永遠の命の糧。
貴方をおいて誰のところへ行きましょう。


自分だけの神に祈りをこめて、そして切に求め合う。それがいい。
夜明けと共に閉じられた夜は雪に隠されみえなくなるかもしれない。けれど余韻は残していくから、その足取りを感じ取ることはできるだろう。
目覚めた時、隣にあるぬくもりがきっとそれを導いてくれるから、寂しくない。

「エイト?」

触れ合う唇が優しく名前を呼ぶから寂しくない、愛してる。
うん、君を愛してる。











2004/12/26 ナミコ