恋に落ちたカリスマ






こんなぽやぽやした女なんて、すぐに落ちると思ってたのに。

華奢な身体の真ん中にどっしり構える信念の剣は誰より硬く、強靭だった。
侮って戯れるように近づいていった初めの頃は、こいつらと仲間だなんて思ってなかったからさ。
いつもどおり、あそこにいた頃と変わりなく。どうせすぐサヨナラしちゃう奴らだ。好き勝手したって後腐れなくっていーんじゃねーか、なんて思ってたのにさ。
なかなか落ちないあいつに焦れて、追って、追って、追いかけるうちに本気になって、あいつらまとめてかけがえのない仲間になっちまって、……なっさけねーの!!



「エイトエイト、大好きだぜー!!」

初めの頃から変わらないノリで愛の告白を繰り返す。
まーなんつーの?なけなしに躍起になってた初めの頃はそりゃもう真剣に口説いてた頃もあったかもしれない。
でも本気なった。
だからこそ今は本気でエイトを口説けないとも思う。

ホラ、ドルマゲスや王や姫、それ以上にエイトに煩わせるのは嫌だから――――というのは建前で、本当はマジでフラれたらもー立ち直れないような気がするからなんだな。…オレって最低。

「はいはい…ククール、ちゃんと前見て歩きなよ」
「大丈夫、大丈夫。オレ様転びそうになったらお前に抱きつくから」
これくらいの冗談はいつものご愛嬌だ。
それはそれはもう毎日何度も何回も同じようなことを言っているものだから、エイトにはそれに対しての耐性やら慣れが生じている。
順応性が高くて結構…とも思うけど、受け流し、あしらってるだけだからそんなことはないのかもしれない。
でも、いつまで経ってもメラやらムチやら飛ばしてくるゼシカよりはいいと思う(だって物理的に痛くはない)。

「その前に私があんたを地面に抱きつかせるわよ」
いつまで経っても油断も隙も見せない絶壁の壁を持つ彼女は腕を組んでククールを睨みつけた。
ゼシカにとって最悪の第一印象をひけらかせたツケは、いまだ払いきれていないらしい。
女の天敵とインプットされたククールはゼシカの敵、すなわちエイトの敵、とにかく敵!!なのである。

「ひどいなあ…ゼシカの愛は痛いんだな」
大丈夫、ちゃんと君のことも好きだよ、なんて言ってみる。
普段と変わらない自分を演じることは、本気の自分を隠すことになるのです。これ基本。

「なーにを馬鹿なことを言ってるのかしら」
イーッとことのほか睨みつけてゼシカはヤンガスの後ろにまわった。
ククールの後ろにいるのは危険と思ったのか…まあそれでいいと、オレは思ってるんだけどな。
ヤンガスは溜息と共に呆れたような視線を送って「やれやれっすよ」と呟いた。

「冗談ばっか言ってないでちゃんと歩いてよ」
後ろを振り返って歩みもそぞろなククールの手を、エイトは掴んで歩き出す。
「お、っい!!?」
不意打ちに掴まれた腕、それは反則だ。
つーかそれだけで心臓弾ませるって、ガキじゃあるまいし、なんだってんだ!!

「転ばれたら困るし?」
考えた末にエイトは苦笑するようにククールを見上げた。
なんだってんだ!!って、エイトにとっちゃなんでもないんだろうけどなあ。
思わずキスしたい衝動を押さえつけて(だってオレは臆病者)、口元を歪ませてはにかんだ(だってオレは男だから)。

「ヘンな顔」
くしゃり、とエイトは破顔して笑った。
あ、可愛い。
なんて思ったら引っ張られる腕ともつれる足がタイミングよく重なって、本当に転んだ。…エイトを巻き込んで。


「あっ!!!」
「なにやってんのよーーーー!!!!!!」


後ろに控えていたふたりは素早くとんで来て、エイトとククールを引き剥がす。
甲斐甲斐しくエイトにホイミをかけるヤンガス。
轟々とメラミをククールに放つゼシカ。

慌てて避けつつ、そのついでで隊列は大きく変更。
はじめに仲間に加わった時のまま、ヤンガスとゼシカを間に挟んで一番遠い。

「もー、しんじらんねー」
「それはこっちのセリフよ!」

ゼシカの鋭い一瞥を頂きながら、転んだついでに抱きしめた華奢なエイトを思い出す。
そういう意味じゃないって、こっちの話だ。
あー、ヤバ…にやけが止まらない。
とりあえず、暫くはこれだけで幸せになれるってもんである。

恋する男は盲目で楽天的、そして臆病者なのだから。







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2万ヒットありがとう記念リク第一弾。
主人公女体化で、ククの片思いだとなお萌え だそうで、萌えましたか?
萌えたらいいなあとという気持ちで…!!
てか、みんな優しいなあ…と涙がちょちょぎれる。本当に。リクがあって私はとても嬉しいですよ。

2005/1/17 ナミコ