ヘドウィグと愛の起源







竜神族に性別などない。
我らは神の子、地上に降ろされた人の子とは違う道を歩む種族。
どちらでもあり、どちらでもない。
古の性質そのままにたもった身体は完全で、抜け目がない。
竜神族は他と交わらず、純粋にその血を永らえさせる。
その為だけに我らは完全から不完全へ身を落とし、似通い最もそれらしい性質に移ろい確立していく。

ウィスニアも、またしかり。
ここでは竜神王以外のすべての民がその流れを汲んでいかなければならない。
皆がみな、王のように完全であったら、竜神族は時に取り残された一族になってしまう。
神は、ひとりでいい。

当たり障りなく事実を述べるだけの彼はまさしく竜神族の頂点に立つものであった。
歴史を語る竜神王は堅苦しい言葉でその事実を完結させる。
はっきりと言えばいい。一族は血を保つために不完全な性を持ち、種族を繁栄させるのだと。

エイトは自らを振り返る。
子供の頃から自分は男であった。しかしその前は、と考えれば確証も何もない。
記憶が、ないのだから
だけれど王と姫に拾われてからも、変わらず男であり続けてたのは、一番近くにいたのがミーティアだったからではなかろうか。
幼心に優しく美しい姫を守りたいと、そう思っていたのは事実なのだから。
そしてそれは今も変わらない。
変わらずミーティアを守りたいと思うし、あの笑顔を曇らせたくないと、そう思う。
それが恋か忠誠かはわからない。



「それは交わる相手の性によって変わる、ということでしょうか」

竜神王は少しだけ目を大きく瞬かせて小さく笑った。
言葉は為さない。
それは自分で答えを見出すべきものなのだからと、そう思っているに違いない。
竜神王が示す答えが必ずしもエイトにとっての答えとは限らないのだから。

知っている、そうでないとわかっている。認めるのが怖いだけだ。

今、移ろいを見せて不安定な身体は一体なにを示しているのか。
それがただ、さっき言った言葉どおりだったら楽だったのに、と思い、エイトは小さくほのかに苦笑した。






「エイト…」

ゆったり優しい声がキスとともに降りてくる。
やわらかく触れたそれはどこまでも優しく、手も声も目も柔らかくエイトを包んだ。
ゆっくりまぶたを閉じれば、視覚以外の語感はだんだんに研ぎ澄まされていく。
息遣いと、名前を呼ぶ声。頬を撫でる指先と、唇の感触。少し癖のある甘い香水の香り。そっと唇を割って入る、舌の。
頬撫でていた指は首から鎖骨へ滑るように移り、胸元に侵入していく。
撫でられる胸は女のものだ。
やわらかいいそれについた脂肪は多くなく、人並み以下で。
今までの性が影響していたせいなのかどうかはわからないけれど、決して大きいとは言えないそれをそれでも弄ぶククールは楽しそうでもあった。
手際よくするすると前ははだけられ、ちょうど真ん中のあたりに軽くキスされる。
だからその首に腕を回して頭を抱きかかえるようにしてやるのだ。
そうすると、ククールは抱きつくエイトをそのまま押し倒し、そこかしこを愛撫し始める。
丹念に愛撫を施す中、エイトは焦れるような気持ちが胸の中に生まれていることを知っていた。
けれどそれを口にはしない。
気持ちが男であった時、ためらいは覚えたがそれでもエイトは欲しい、と思っていたのだ。直情的な快楽を。
与えられる刺激に素直にイきたいと思うのは気持ちが男であったからだ。
けれど今、それを言えないのにはわけがある。
こうして抱かれるたび、身体を重ねるごとにエイトの中に変化が現れた。身体の、ではない。内面的な部分でのことである。
欲しい、と感じたのはただの快楽ではなく、この性交の相手をしている人そのもので。

気持ちいいならいいかな、と思っていたはじめとは違うのだ。
お前だからいいんだよ、と思ってしまっているこの心。

快楽に弾ける悦びの向こうにある、受け入れる喜びを知った。
それは小さな迷い。
棘となって心に刺さっている。


すべるように太ももを這う手はひやりとし、とけそうになるエイトの意識を呼び覚ます。
本当は冷たくなんてないのかもしれない。もたらされた愛撫から熱に浮かされそうになっている。だから、熱いのは自分自身で、触れる手の温度は普通なのではないのだろうか。
どっちにしたって、そんなこと考えてる余裕なんて、すぐになくなってしまう。
太ももを這っていた手はそのまま腰へ渡り、下りていき、ゆっくり下着を取り払っていく。
まだ半分足にかかったままなのに、あてがわれる感覚にまぶたを閉じてしがみついた。

「あっ…ククー……」
膣をすりあげゆっくり侵入してくるそれに震えながらククールの名を呼ぶ。
開いた唇から吸い取られるようなくちづけを貰い、深く蹂躙される。舌は歯列をなぞり、舌を嬲る。
呼吸もままならない激しいくちづけに眩暈を覚えそうになりながらひとつになるのを待った。
ひとつになれば、腰は自然と揺れ、名前を無意識に呼ぶ。
我を忘れるような、という言葉がピッタリと来るそれは、まるで夢心地の時。
声にならぬ嬌声は短く息継ぎのように口から漏れ、ククールはその言葉を吸い取るように何度も唇にバードキスをした。

守りたいとか、守られたいとか、そんなんじゃない。
胸を熱く焦がすような、この気持ちはなんだろうか。
それを恋というほどささやかではなかったし、愛と呼ぶには大層すぎた。

抱きしめたこの男を離したくないと、そう思う。

男であると信じてきた心の根底に、深く根付いた想いの種。
花を咲かせるか、はたまた腐って死んでしまうか、どちらか。


 (優しく見下ろす目が、好きだ)


ゆらゆら揺れる銀糸はキレイだった。(髪も)
肌にあたってはからかうようなくすぐったさを覚える。(笑顔も)

簡単に答えは出せない…と思う。
抱きあって眠る夜明けまで、惜しげに唇を交わす朝の始まりまで、確かにエイトは女になるのだから。
それからまた夜までは、エイトは男であるのだから。

迷いの棘は心に刺さる。
それが抜けた時、移ろいは確定し、確固たるものに変わるはずなのである。
…今はただ、完全になりたくて、ひとつになってるんだ。(好きなんだ)

あ、また。

優しく見下ろす目が優しく笑う。
撫でられるのも好きだけど、キスをしてくれればいいと、そう、思った。





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2万ヒットありがとう記念リク第3弾。
竜人族は性別を相手に合わせて変えられるネタの女体クク主(濃い目の) ということだったんですが、物書きの癖に 濃い目=エロ しか考え付かなかったです…よかったんでしょーか(不安)

2005/1/20 ナミコ