ラブポーションパニック?






「うーん…」

それは珍しく腕を組み、なにかを考えているようだった。
しかし期待はしない。期待するだけ無駄だというものだ。
なにか考え事か、と聞いてまじめな答えが返ってきたことなどあっただろうか、いいやない。
顔は恐ろしくまじめなくせに「今日はラヴィを誘おうかマリアを誘おうかどうか迷っている」とか「お前って本当に細っちいよな、実は女の子ではあるまい」とか「どうしたら自白剤及び媚薬は錬金できるのか」など、瞬時に聞いた自分が馬鹿だったと謝りたくすらなってしまうようなことを考えている。こいつはアホだ。
だからオレは期待しない。そもそも聞かない。聞くものか、と思う反面どうしたんだと言わなければこの繰り返し繰り返される「うーんうーんうーん」は止まらない。
まるで壊れた目覚まし時計のようでイライラする(元々壊れてるんだから大人しく沈黙してろ)。

はぁ、とエイトは大きく溜息をついた。
「なー…お前、なにかんがえてんの?」
「…ん…ちょっと、…な。錬金のことさ」
おお?珍しくマジメっぽいことかもしれないような、そんな雰囲気、か?
そのままククールの手元を覗き込めば、薬草、毒消し草、満月草のみっつがあった。
「なに、おかしな薬でも作んのか?」
「いやー…体力を回復する草と、毒を回復する草と、麻痺を回復する草でなんでおかしな薬が作れるのかと思ってさ」
「はあ」
「全部回復薬なんだぜ、なんでそれが混乱させる薬に…!!」
ククールはひどく恨めしげに机をダン、と叩き3つの薬を見つめた。
「あー、ほら、なんだ。回復薬って強すぎると逆の効果が現れるときがあるからじゃないの?」
「ならばなぜ、いやし草ときつけ草と万能薬で超万能薬ができるのか…。それこそ強すぎると思うんだ、オレは」
「う、うう…」

珍しく、本当にめずらしーくククールがまじめなことを言っている。
ってか、パーティ内で一番かしこさが高いって本当だったんだな…オレ、言ってること全然わかんないや。
いつもメダパニくらってるような感じなのに、今日はちょっと知らない面を知ったていうかさ…。
あいつのこと、見直さなきゃなって思った。

それなのに、

「そこらへんをうまく調整すればよ、エイトもメロメロな媚薬をつくれると思うんだよな!!」

やっぱりな。
どんなにまじめな顔してたって、馬鹿はアホなことしか考えらんないもんな。
薬草と毒消し草と満月草、全部口の中突っ込んで頭に星でも回させたら人間錬金釜にでもなるかなぁ。

ちからはオレのほうが上ってことは、まぎれもない事実なわけなんだよ、あっはっは。







「エイトー」
「んー?」
やけにうきうきした足取り、そして笑顔でククールは室内にやってきた。
人間錬金釜に薬草、毒消し草、満月草を食わせたのはほんの一週間前の話だ。
それを忘れたわけではあるまい。あれからまじめにまじめじゃないことを考えていることは何回か目撃したが、いつもの聞いてくれアピールである「うーん」は一度も聞かなかった。
多分もう懲りてるはずだ、きっと。
きっとそのはず。

「なに」
「オレ様成功しました!!解明しました!!世紀の大発明だぜー!!」
でもパルミドあたりじゃあ合法でゴロゴロしてんだけどな、と笑いながら近づいてくるククールのその手の中にはなにやら瓶のようなものがあって。
「…それって…まさか、なあ」
この間言ってたようなシロモノじゃあないだろうな、という牽制の念をこめて細めた目で見据えてやる。
「あ、違う違う、媚薬とかそんなんじゃないって」
「じゃあなんだよ」
慌てて手を振るククールは違うっていうことを顕著にアピールする。
まったく無邪気というか、邪念のない目でそれについて説明しようとするものだから、ちょっと警戒しすぎている自分が恥ずかしくなるじゃあないか。
それを誤魔化したくって、口調はいつもの5割り増しで不機嫌そうになってしまっているんだけど。

「これはな―――」
にこやかにククールはその瓶をエイトの目の前すぐに持ってくる。
透明の香水を入れるようなキレイな瓶の中、マゼンダの液体が揺れた。ん?香水?
瓶の上部先端にある、通常の瓶にはあるまじき噴射口。
しまった、とおもったときにはもう遅く、そこから細かに分散された水の粒子が霧となってエイトの顔といわず髪といわず口の中にさえも入り込み、むせかえらせる。
「バッ…か、お前なあ!!」
「みんながメロメロ、男の香水。男性ホルモンを刺激してくれるので一時的に魅力がアップします」
っていうのは嘘で、とククールは笑う。
にこやかではない、巧みな笑顔に切り替えて。

「惚れ薬!!!!」

高らかに言い放った男へ対する報復は、コンマ10、00秒数えたところでいまだなにもない。
なぜならいつも報復を与えるエイトはいまだなんの行動も起こしていないのだから。
惚れたかな、とエイトの次の行動を待ちわびる男は至極楽しそうである。
エイトはといえば下を俯きふるふると手を震わして、顔をあわすのをはばかっているのか、どうなのか。
ククールはその手を取り、優しくくちづける。
「エイト?」
俯かせたその顔をあげてよ、なんて意味を込めて。

切なげに顰めた眉が俯いててもわかって、覗き込むように笑いかけたらエイトは目にうっすら涙すら浮かべていて。
「エイト…」
「ククール…」
これぞ待ち望んでいた展開、思いを寄せるものたちの祝福の一瞬、最高の時。
顔をあげたエイトはまっすぐククールを見据え、極上の笑顔を向けた。

「目に染みただろーがっ!!!」

無体な言葉の次には素晴らしいアッパーカット。
エイトさん、エイトさん、貴方格闘スキル0じゃあありませんでしたっけ?と問いたくなるほど素晴らしく力のこもった会心のアッパーだった。
遠くお空の星になっていくククールはその間、ルーラの改良呪文でも作れないかと考えながら頭をひねる(トベルーラ?)。

いやだがしかし、なんで効かないんだ、と。

街をうろつく犬猫に試したときはちゃんと効いていたんだけどなあ。効力切れか?




真相は謎のまま、と言いたいところだけれど、一部始終を見聞していたゼシカ嬢はすべて見通したようにこう言ったそうな。
元から惚れてちゃ惚れ薬も効くはずないわよねぇ、と。

その言葉が薬物製作者の耳に入るのはいつだかなんて、そんな途方もないことは聞かないで欲しい。





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惚れ薬にはあらかじめ惚れてほしい人物の体液を入れておいてください(笑
バレンタインおめでとう。んでもってククールかわいそう…orz
忙しかったのでバレンタインは拍手以外なにもやってません!!!!!!
フォルダに紛れていたこの話を見つけたのでこれをバレンタインにこじつけてアップしました。(まったくこじつけもいいところだ!!
ついでだからバレンタインフリーにもしてしまいますよ!!!

2005/2/14 ナミコ