メロウ(ますらを)











やけにあっさり開放された性交に今日はこれでおしまいか、なんていつものねちっこさゆえに少しばかりの物足りなさを感じたとしても明日のことを思えばこれくらいでなくちゃ困るんだとバスルームでシャワーを浴びていたというのに、やっぱりあいつはどんなときだってあいつで、あれで終わるはずがないんだという諦めのような思いはやっぱりという予想でもってしめくくられた。
後ろから伸びた手が身体を抱きしめながら這っていく。
耳元と首筋を舌が辿るように流れていきと、自然と身体は跳ねて熱を高めた。
「エイト」
低く囁く低重音は痺れとなって身体を支配する。身をよじってもそれは拒むためのものではなく、戯れのようなものだと知っているのだろう、楽しむような笑い声が微かくすりと耳についた。

「エイト、好きだよ」
「あっ…」

心臓を焦がすような想い、心地よさ。身体に与えられるそれだけではない、心に響く満たされるもの。
ふらふらと倒れそうになる身体を支えているのはもう自分の足ではなかった、後ろで自分を抱きとめるククールが支えてくれているからやっと立っていられる。
身体を這う手が昂ぶりを煽り、それに比例していくように昂ぶりを与えていくククールも熱く高揚していっているのを激しい息遣いで感じとった。
投げ出し押し付けられるように乱暴にタイルへ転がされけれど痛みは感じなかった。
夢中に貪る息も出来ぬくちづけに痛みを感じる暇さえ与えてくれなかったせいかもしれない。軽く唇は合わさるくせにまるで噛み付くみたいに乱暴で激しく、キスをされているというよりは食べられるようだと感じで、嗚呼、でもオレはこいつになら食べられたっていいと、骨も残さずすべて食われて糧にされてしまっていいと心は思い、腕は勝手に伸びていった。
銀糸に指を絡ませ落ちてくる髪にくすぐったさを感じながら深いキスを強請るように引き寄せる。
食べて欲しかった、栄養にして欲しかった、溶け合い体内から身体に吸収され糧となり永遠にひとつのままでいたいと思った。

ひとつで。

ずくんと身体の奥が疼いていく。
キスと舌と指とが今エイトに悦びをもたらしているすべてだったけれど、足りないと泣くように喉はしゃくりあげ強くククールを抱きしめた。
「やっ…だ…、もう……ッ!!」
背中は冷たく冷え切ったタイルの温度を伝導し、どんどん熱を奪っていくのに抱きしめた真正面、ククールの身体はあたたかく、なにより心を熱くさせる。
物足りないと、あの時感じたことはまさに今それを代弁するかのように激しく蠢く。
いつもいつも淡白に応対しているのは照れているからだよ、嫌いじゃないよと今叫びだしい気持ちが喉からでかかったけれど、それは小さな嗚咽に飲み込まれて言葉にならず、生理的な涙と一緒に零れ落ちて流れていった。

「     」

呻くように小さく、けれど叫ぶように切なく、言葉になった声を自分では聞き取ることはできなくて、しかもそれが無意識のうちに言った言葉だったらしく自分でもまったくわからなかったのは困ったけれど、でも、それでもその言葉はきっとククールの耳には届いたんだろうと思う、きっと。
それはまったくの予想だったけれど、でも、息もつけぬ行為はその瞬間相手を感じること以外のすべての神経が真っ白になってしまうくらい激しくククールを駆り立て、そしてその激しさゆえにエイトは意識を失う羽目になった。





目覚めた次の瞬間エイトは湯船の中にいた。
もたれかかるようにして抱きついていたククールはにっこりと笑って目覚めたエイトのこめかみに軽くキスを落とした。
「ごめんな」
意識を失ってしまったことを言っているのだろうか、そう思ったエイトは瞬時に首を振り、そんなことない、と膝を立てて詰め寄るみたいな顔を近づけようとした。なのに思うように動かない身体に少なからず首を傾げたいような気持ちになって、でもそれはすぐククールの、そうだよな、と不敵に笑った笑顔に意表を取られたせいで掻き消えてしまった。
「エイトがあんなこと言うから悪いんだよな」
それは非難ではなく、冗談でもない艶やかな色を含む言葉。
とても嬉しそうで照れくさそうに笑うククールがエイトに深いキスをおくる。ずくん、と中から生まれる甘い痺れのせいで顕著に身体の変化はあらわれるのはきっとまだ、身体がさっきの余韻を忘れていないからだろう。
気づかれないかと緊張から心臓は波打ち、けれど気づかないはずがないのだという安堵にも似た期待がエイトの中でぐるぐるまわった。

「気持ちいい?よな、」
慈しむように歯列と唇をなぞり、それからククールは囁き微笑った。エイトは肯定も否定も出来ずにただその唇の動きに見惚れては頬を染め、酔ったようにククールを見つめていた。それは言葉で成される肯定否定のなによりも素直にそしてありのままに心を伝えるすべてのものとなっているだろうことに気づいているだろうか、きっと無意識なんだ、だけどそれは無意識にそう思うほど自然体に思われているということなんだと思えばククールの胸はじんと熱を灯し、ますます愛しさがこみ上げる反面、もっと自覚して欲しいとも思う貪欲な気持ちも浮かび上がるのだ。
同じ想いを、同じ強さで返して欲しいと、そう思うことは決して悪いことではないはずだ。

「なぁ、もっかい言ってくんない?」
さっきの言葉嬉しかったんだと、笑う笑顔がその言葉を露にしていて、まるで力が抜けるようにへなとしなるようにこみ上げる。
小さな星のようにキラキラした気持ち、さっき言った言葉がなんだったのかわからない筈なのに、それを知っていた。
はにかんで口を閉じたのは、そうでもしなければ言葉すぐ飛んでゆきそうだったからだ。そんな簡単に外へ出すほど軽いものではないと、そう思うから思いとどめて言葉を食む。
それを知ってか知らずかククールはエイトの口から言葉を受け取るべく、その唇に軽いくちづけを施し解いてゆこうとする。
「な?」
ほだされていく心はとうの昔の陥落したのだと、わかっている。それを口にしなかったのは、やっぱりどこか、悔しかったからなんだろうなあと思うのだ。エイトはそのことを考えると少しだけ寒くなった。きっと寂しいからだ。

「……ん、  」

掠れるように小さく、小さく、その言葉は自分の耳には届かないで欲しいと思うのはなぜなのか。
心を燃やす灯火をそっと隠して、大切にしたいと、そう思う。
重なり合った唇から漏れる言葉を閉じ込めるようにエイトは自ら唇を近づける。
この言葉はまるで増幅呪文であるかのように胸の高鳴りも頬の火照りも嬉しさも、幸せも夢のように反復して気持ちを増やしていこうとする。
「  、   
、   すき…」

恥ずかしさに顔はあげられず、そっと額を埋めた胸は同じリズムを辿っていたように思えた。
こつん、とその頭に寄り添うようにククールは頬を寄せる。それと一緒に落ちた視線の中に長く伸びる腕と手が見えたものだから、それにそっと手を添える。まるで触れただけで繋がったようにひとつになるような感覚に充足感をいっぱい抱いて、きっと今、ふたりは微笑んでいる。

のぼせるまで抱き合う愛の形を知っている、のぼせるまで心を通わせる甘美なときも。
くらくら眩暈を起こして倒れるのはどちらだろうか。抱き上げ運んだその先で、もう手放す気なんてないのだと眠り顔に誓いを立てて明日を迎えればいい、ふたりで。それだけさ。










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2万ヒットありがとう記念リク第8弾。
「イチャイチャ甘々なクク主」でした。イチャイチャといえばえっち、甘々といえば……(思い浮かびませんよ、この子!!)…そんなかんじで書いちゃいましたけどよかったですか?
この間書いたメロウと対になるつもりで書いたのでタイトルも題材も一緒です、意図してです(苦笑い


2005/2/28   ナミコ