03 ケンカしてしまった






バカッ!!  って、意図せず見事にはもりにはもった一言に、呆気に取られたのはほんの一瞬、すぐにふつふつと怒りはこみ上げぎらぎら睨みあげてその勢いのまんま首をそっぽにふりかぶって。
大嫌いだ、こんなやつ。そもそもはじめっから気に食わなかったんだ、キザったらしいし軽いしさ、トロデ王のことを失礼な呼び方するし、聖職者のくせに口は悪いは性格も結構よろしくって!!ほんっと飽き飽きしないっていうか、軟派でだらしがないように見せてるくせに本当はちょっとナイーブだったり、強がってたり、仲間たちに気を使ったり優しかったりするのに、大事なこと一人で抱え込んだり、黙ってたりみずくさいし、…さ。
すぐに傷ついて馬鹿みたいに落ち込むくせに、微塵もそんなこと見せないで僕たちのこと信用してないのかよ。まるで空気を吸うみたく自然に好きだよって言うくせに、ちらちら好きって言って欲しいみたいな顔でこっち見るくせに、口を開けばさらりと逃げてさ、頑なに言葉から逃げて、お前それでいいのかよ、なんて言えないけどさ。

なんで好きって言わせてくんないんだよ…。

ばかっ!!  って、意図せず見事にはもりにはもった一言に、呆気に取られたのはほんの一瞬、すぐにふつふつと哀しみは湧き上がりぎらぎら睨みつけられる目にそのまま勢いのまんまそっぽにふりかぶられる首、あ、あ、あ……!!!
大好きだ、このやろう。はじめてあったときから好きだったんだ、華奢で細っこいから女の子かと思った、王と姫と国を愛していて他にはなんもいらないって顔してさ、可愛い顔してるくせに強くてかっこよくって男前なんて立つ瀬がないしさ、でもホント好きだよ、好きだからさ、大切だって思えるからさ、肩の荷をちょっとこっちに預けてくれたりさ、時には寄りかかってくれたっていいじゃないか、…よ。
すぐ笑ってなんでもないよって言うなよ、オレって信用ないかよ、オレは冗談は言うけどさ、嘘はつかねぇよ。受け入れて、なんて言わないよ、オレお前に好きって言うだけで満足だもんよ、だからさ、ちょっとでも息をついて欲しいわけなの、寄りかかって欲しいの、オレの事はぽぽいって捨てちゃっていいんだから、なあ。

なんでそんなに前へ行こうとばっかりするんだよ…。



そうしてケンカしてしまった少年たちは背中を合わせにふと空を見上げるのです。
一番最初に言った言葉をリフレイン、頭の中でぐるぐる回らせて、ふつふつ怒りと哀しみを膨らませ、ぴんと張り詰めた最頂点に辿りついた頃ハッと気づくんだ。
すぐに傷ついて馬鹿みたいに傷つくあの子。なんでもないよって言うあの子を怒らせた。怒りと哀しみのかわりに今度はそれがぐるぐるまわってそわそわ、背中を気にしだす。右から後ろを見ようとしたり、左から後ろに振り向こうとしたりしても、ほんのちっぽけな照れくささがほっぺたつかんでぐるんと前、真正面に視線を戻して、あーあ、あーあ。
そしてやがておひさまが沈み、お月様が顔出す。闇色の空に銀色がきらきら輝いて、髪の毛の色、そう思ってもっとよく見ようと真上の空をゆくおつきさまをいつまでも見ていたんだね、背中にあの子の体温を感じながら、それでもまだふりかえることはできないまま。

こつんと頭があたって少しの脳震盪にくらくらしながら無意識のうちに振り返ったふたりはほっぺたを真っ赤にさせて見詰め合う。
こんな簡単なことなのになんでできなかったんだろうね、なんて言葉は恥ずかしさと一緒に胸の中にしまいこんで、夜特有の誰もが寝静まった静かな夜空の下で、少年たちはくすくす笑うのさ。










太陽が昇ると同時にケンカして、月が昇る頃には仲直り。
大好き同士なのにそれをうまく伝えられなくてケンカしちゃうのさ。

2005/3/1   ナミコ