クリア後ネタバレ(パラレルに近い設定です)
そんでもってクク主前提の月→主。

※※なので嫌な方は見ないようにお願い致します。※※












































ハイビスカスの丘で






「あなたは…そうやってずっと待ってるのですか?」

「……うん、だって、……約束、した」

その、ただ待ちわびるようにまっすぐ空をゆく瞳になにが映っているというのだろうか。青い空、白い雲、太陽、時おり空を行く鳥、風に舞う木の葉。そんなものなにも目に入らず、目に入れず、空を仰ぎ続ける彼の瞳は、耳は、肌は、身体は、命全体すべてはもうここにはいない遥か昔に消えてしまった影をずっと追い求めてるのだ。
そしていもしない夢幻ともつかない儚い幻影に、今生きるすべてのものはかなわず、追い越せずにいる。
まっすぐ彼だけを見つめていた瞳は、そうしてやっとこちらを見てくれるのかと、悲しみに泣き暮れた日々を払拭した後必ず来るのだと思っていたのは愚かな幻想だった。彼は涙を枯らした後もなお、ただひとりしかその目に映さない。

彼の心を占めるただひとりが今わの際に託した言葉がなんだかは知らない。知ろうと思えば知ることもできた。そうすることができる術を、少なくとも彼は持っていた。彼が竪琴をかき鳴らせばたちまち本人の意図と関係なくその記憶と真実を教えてくれる。けれども彼はそれをしない。頑なに心をひとりに縛らせるだけの言葉など予想もついたしなにより知りたくもなかった。


「人の子よ、あなたは幸せにはならないのですか?」
「オレ、幸せだよ?」
「…………人の子」
「だって、待ってるんだ」
「そなたは知っていよう」
「約束した」
「死人は還らぬと」
「…………」


昔から変わらぬ容姿、それに深い影を落として今の彼はある。伏目がちに彼は俯き唇を噛み締めた。それも無意識に、だ。

「あなたは幸せになってもよいのです」
「…………」
「あなたの愛したただひとりのように、私はあなた愛しています」
「………どうせ、もう長くもない」
「…そのようにほとんど食せず、虚ろに生きているならばそれもまた当然でしょう」
「放っておいて欲しい」
「…私なら、あなたをひとりになど……」
「オレはひとりなんかじゃない」
「…………」
「ひとりじゃない」

一対の鷺が、片割れをなくして生きられないように、彼もまたそうだと言うのか。ふたりでひとりなんて、そんな言葉、切ない。
たしかに生きているはずの彼の瞳は、映し出す色鮮やかなこの世界をとおり越えた果てにいる彼を追いかけていた。もうすぐにでも、消えてしまいそうなくらい、儚く脆く、それは空ろだ。

「…あんたも、いい加減にしないとうつるよ?」
もう治んないと、どうして彼は穏やかに笑うのか。
置いてゆかれた年月は、辛く苦しく引き千切るような痛みを孕んで膿んでいる。涙も血も流しつくしてそれなのに、どうして彼は笑ってられるのか。
「笑わないでください」
彼は彼の性に似合わず珍しくも彼を睨んだ。
怒りを込め、悲しみを込め、切なささえ含ませて睨み、ゆっくりと目を伏せた。

それでもそれでも、それなのに、やはり変わらず穏やかに微笑む彼は、儚く。彼とこの世を繋ぎとめるものが、どんなに脆いものかを、知らしめる。

「エイト、」

どんなに呼んでも、彼はもう振り返ってはくれなかった。







本当はこういう悲しいのは嫌いなので、この設定では書かないと思っていたのに書いてしまった。困ったなあ。つか、短いし。
クク主前提の月→主でした。
私は竜神族は王以外は人と同じ寿命だと考えているのでもう書かないぞ!しあわせになれ、クク主!!

2005/6/3  ナミコ