クリア後ネタバレ
竜×主です。
そんでもってこれでもクク主風味とか言いやがりますよ、この女は。

※※まー、嫌な方は見ないようにお願い致します。※※












































マタイはヨハネの名の下に



額にくちづけそれから微笑んでその人は仰ったのだ。"祝福を"と。
俺は反芻してその言葉を頭の中で巡らせた。祝福、祝福とは何だ。
たとえば神に仕える僧達に言わせればそれは神の思し召しで恩恵であるのだろう。その恵みを与えられることなのだろう。
呪文で言わせれば回復呪文や蘇生呪文にあたる、人の力あらざる神の力を受けたある一種の職業のものしか使えないようなもの。
祝福とは何だ、この人の与える祝福とは。
これからの幸運を祈るものか、無事を願うものか、はたまたそれとも。

伸びた腕がバンダナを払い、頬に触れた。笑っていた顔は、聖人のものではない。
唇に触れた唇は情欲に潤い首を絞める。オレは逃げられない。

「これは祝福なのですから」

だからおとなしく神に抱かれろと、冷たい瞳は物言わずに語っていた。
神は自分をご所望であられるか。
ならばくれてやるしかないのだろう、人身御供さながら命すべて捧げる少女のように、穢れなく清らかなるまま神に召されて。

指先が肌を辿る。冷たかった、しかし熱くもあった。
この神という名の元に生きる気高くも物悲しい竜の祝福を受けてオレはなにかが変わっただろうか。変わりはしない、誰もその変化に気付かない。それでいい。
ぽつんと胸に残る棘のような、気づかないくらい小さい、けれど触れるだび小さく苛む消えない違和感に口元を濁していることに気付いているのは、自分だけでいい。

祝福という言葉を通してしか欲することのできない皆の神に少しばかりの哀れさを感じてしまったから。







長い道のりの旅路の途中、竜神の里を見つけてからというもの、定期的にこちらに足を向けることが多くなった。
何故か、と問われれば入用のアイテムがここでしか売っていないとよく口にしたがそうではない。それはこの里に住まう長との約束であった。かつて人と恋に落ちた哀れな娘の忘れ形見を今度こそ大切にしたいと願う彼との。
眉根を押さえほろほろと涙を流した。小さく震えていた肩が弱々しく後悔と自責に崩れてしまいそうに見えたその人に、毎月必ず顔を見せると言ってしまった。それは間違いだったのかもしれない。
エイトはこの里の荘厳なる門を潜り抜けるたびにいつもそう思うのだ。そして後ろ暗い気持ちで彼の元に訪れる。

その人に会うのは決まって夜が更けてからだった。いつもポケットに入っている祖父でもある彼の人は、何故だかその晩に限っては姿を見せない(すべて知っているとでも?)。仲間達も皆、笑ってエイトを送り出す(何も知らないからこその仲間たち。知っていたら、こんなこと)。
ひとりだ。まるでその人に会うことは儀式的ななにかを思い起こさせる。選ばれたただひとりしか召されない、召された者はその人に跪き祝福を与えられるのを待つしかない。

エイトは長い道のりと薄く光る半透明の階段を長い時間かけて昇った。不思議と魔物は現れず、とどこりなく足を進められる筈なのに。嫌だった。本当は嫌だった。その先に待ち受けている祝福という名の性交にエイトは首を振りたくてたまらない。目を閉じてその場に膝を抱え座り込んだって、なにも変わりはしない。短くなる時間にもしかしたら機嫌を損ねてしまうかもしれない。どっと脂汗が全身を冷やしていく。閉じたまぶたの向こうですべてを見透かしたあの人がエイトを呼んでいる。映像を流し込んで、逃げ道などないのだと言うように、足を促す。そう、そうだ。額にくちづけられ次に情欲を孕んだ唇におかされていく。逆らえない、あの瞳に言葉すべて封じ込まれるように抱きすがるしか道はないのだろう。

祝福とはいい言葉だ、すべての幸福を、幸運を、富を、力を、すべての誉れあるものを祝福という言葉につめてその言葉ごと与えるのだから。
そうだ、この里の最も力ある長に抱かれるなんて、それこそ祝福を受けていると同じことではないか。
なにを不満に思うのか、わからない。
ちらりと側近達から向けられた視線には、そんな思いが詰まっていた。



「いたっ…!」
ぎち、と無理に詰め込まれる重圧に肺は硬直したように呼吸を止めた。地についた腕が小刻みに震える。本来排泄すべくために存在するものに無理矢理押し込んだ反動が波となり一気に押し戻される。後腔から滴る生温かいものは恐らく血で、辛うじてもたらされていた快楽は伴った痛みと共にすべてかき消さた。
「エイト」
それは恍惚とした声だった。決して見えはしないが恐らく表情も、それこそ慈しむように柔らかな表情で、世にも冷たい零度を内包させて。

竜神王はエイトの肌に掌を這わせる。滑らかに、滑らかに、エイトの肌はそうして誰かに触れるたび艶やかになっていく。
「誰のことを考えている」
優しく肌を行き来するのに指先は冷たい。熱く憤怒の色をすべて凍りつかせてしまうような温度差にエイトは震えた。
「誰のことを」
「…っ!!」
首筋に皮膚を突き破る痛みを感じた。喰らいつかれている。
ぽたぽたと首筋から流れる血は鎖骨を通り、胸から重力に耐えきれず下に落ちた。赤い血が、目に入る。

「あんたのことを、いつも」
それは本当のことだった。いつも本当に、この人のことを考えていた。
嫌だと思うことも、行きたくないと考えることも、すべて彼に繋がった要因のせいだった。
そしていつもそれから解放されたいと願っていた。
「偽ってなんの意味があろうか」
「私を思う以上に、心を占めるものに、お前は」
赤くくれないの血に染まったエイトを竜神王は放り出した。
「気がつかないと」
エイトは放り出された場所から竜神王を見つめた。透き通った透明の水が双眸から溢れていた。

「お前も、」

神が涙を。

「ウィニアも、」

泣き崩れるその人は神ではなく竜でもなく王でもない、ただの人の子だった。
透き通る水は大きく雫となってエイトに降り注ぎ、少しずつくれないを洗い流していった。
エイトは恭しく手を伸ばす。
またひとつ、またひとつと雫が染み込み流れていく。
エイトは止めどなく流れるそれを拭い、そっと身を寄せた。
肩に腕が回され、エイトもならうように腕を回した。強く抱きしめられる。

「離れてくれるでない」
きりりと声は立ち、強く不動のものとなった。
エイトはただ目を瞑り、顔を埋めた。
涙はこびりついた血さえ流し落とし、深く染み込んだ。










マタイの福音はイエスの人間性を現しているそうですよ。

えーと2万ヒットありがとう記念リク第11弾です。
「竜神王×主」ということでいろいろ浮かびましたが一番早くできたのがこれだったので。
まーあとこの他に馬鹿っぽいマンガちっくなものもありますけどそれはまた後日に。

2005/6/13  ナミコ