クリア後ネタバレ
しかしそろそろネタバレ解禁してもいいんじゃないかと思いながら、もう少し。

あ、あと暗いですよー
エロはないも等しくぬるいですが

※※まー、嫌な方は見ないようにお願い致します。※※












































Lacrime






 尖った牙、尖った耳。人のものとは違う目の色、色素薄く変わっていく髪―――金色に近く変化していくそれは紛れもない竜の血を通わせている証だった。しかしその血に伴って併せ持っているはずのそれを制御する力は、混ざり合わさった人の血によって掻き消されてしまったというのか。エイトには、自らの身の変化を、竜の心を、制御することはできなかった。
 人あらざる姿、はじめこそかすかに笑いながらどうにかなると思っていたのに、今はもう鏡に映る自分を恐れ、竜神の里の長達に助けを乞い、それでも術が見つからないとわかると愕然とし、人寄らぬ高い山荘に身を隠し、細々と生きてきた。共に。
 その変化に耐えられないとでもいうように日に日に衰えていくエイトの自我は、野生の血に噛み付かれていったようだ。日が経つごとにひどくひどく廃れていく。
 どんなに変わってしまってもお前を愛すると言っているのに、その言葉に微笑み返してくれるお前はそうそうこちら側に戻ってこられない。あんなにもお前の愛していた世界なのに、狂気じみた目で世界を見る。整理整頓を怠ったら怒られるのはこっちだった筈なのに、いつの間にか部屋をめちゃくちゃに荒らすのはお前。

 肩で息をする、こらえきれない涙を床に落とす、自分自身の牙に傷つけ血を流す口、力のままに叩いて壊して血の滲んだ手、震える手足、かきむしった痕が痛々しい尖った耳のまわり、

 また、今日も。新しく買ってきたばかりの食器は次から次へと床に叩き付けられ、形を失い、粉々に。椅子は足が折れ、テーブルは強く叩いたせいでえぐれしまい、一緒に選んだカーテンは破れさりその役目を果たさない。
 竜の心と血に食い殺されそうになりながら、それでも必死に人であろうとしがみつくのはオレがいるからか、そうなのか、なあ。その牙と耳のように尖った神経はとても怯えている、なにもかもに。眠ったらもう二度と戻れないのではないかと疑心暗鬼になって、不眠不休のまま自らを傷つけて正気を保とうとして。血まみれの腕も手も見たくなかった。今すぐに癒しの呪文を唱えて眠りの淵へ横たわらせてやりたかった。そんなにも苦しんで、それでも、浅ましい心は誰よりも何よりもお前に想われているのだと、嬉しくて。

 こんなにもお前は苦しんでいるのに、嬉しかった。




「エイト?」
 金色かがったいつもの髪がもとの亜麻色に近い色に戻っていた。オレはエイトを呼ぶ。声は届いているのだろう、ぴくりと反応を返したエイトはいつもより穏やかで、そして珍しくオレに微笑みかけた。「ククール」とオレを呼ぶ。久しぶりに呼ばれた名前にどうしようもない充足感が胸に芽生えた。優しい目、穏やかで少しだけ高いエイトの声。震える口元を引き結んできつく閉ざし、隠した。
「ククール」
 名前を呼び合う、それだけでいいと思えるほど、たまらなかった。エイトから伸ばされた手に応えて抱きしめてやる。漆黒の瞳が抱いてと呟いていた。そうだ、正気を保っている間、エイトはこうして出切る限りひとつになることを望んでいる。いつの日か、すべて取り込まれてすべてなくしたときのことをひどく―――恐れているから。

 優しく愛撫を、執拗なくちづけを、そして激しい注挿を繰り返す。溢れ溢れる快楽に溺れてどろどろに溶けて、ひとつになって愛を囁く。枯れることのない愛。けれどいつそれが狂気によって閉ざされてしまうかわからない恐怖も隣り合わせに嘲笑って。
 くちづけ舌を絡ませる。飲み込みたい、飲み込まれたいとくちづけに夢中になって執拗に舌を辿るうち、エイトの尖ったままの牙によって舌を傷つけた。舌の上をぴりりと広がる痺れるような痛みと、咥内に滴った血の味。唾液をやり取りしているうちに、そのうちそれに血も混ざり、化け物めいて妖艶な重なりとなっていったけれど、くちづけをやめることはしなかった。血がエイトの自我を凌駕してしまうなら、なにか奇跡めいた力でもいい、このオレの血が救いとなって浸透し、元に戻ればいいと。
 それは儚い幻想で妄想に過ぎなかったのだけれど。

 てらてら艶やかに黒の目が潤む。涙と情欲に潤む。…潤んで、吐露した。

 泥のように抱き合い溶け合い吐き出した精の中でとけきったエイトの漆黒の目が金色に変わっていくのを見て遣る瀬無い気持ちになった。エイトはオレを押しのけ身体を離そうとするけれど、オレは離さなかった。離せなかった。愛していたから。いつこの愛しい男の自我がなくなり闇の底に葬り去られるともわからないけれど、意識を失う寸前の、エイトがエイトであるとわかっている意識のほんのひとかけらが最後の最後に見たものが離れていく大切な人だったら嫌で、悲しいんだろうと思う。たとえそれが何よりもオレのことを思ってのお前の行動だったとしても。
 最後の瞬間まで抱きしめて、いつまでも、ひとつでいて。離さない。



 がぶり。



 肉を破る音、裂けるような痛み、かぐわしき血のかほり。その金色の瞳に迷いがなくても、オレはまた優しく愛撫を、執拗なくちづけを、そして激しい注挿を繰り返して、その痴態を目に焼き付ける。

 殺されたっていい。
いつか、途方もない時の彼方、またお前がお前を取り戻したとき、泣いてくれるなら。





 
覚えているだろう、最後に焼きついているオレの姿はお前を強く抱きしめるオレ。お前を離さないオレの姿。オレはお前を離さない。







2万ヒットありがとう記念リク第12弾!!全リク消化ーーーーッ!!
ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございまして申し訳ございませんm(_ _)m
「半分竜なエイト」はこんなに暗くなってしまいました…………………明るく獣姦できなくてごめんーーーーッッ(コラーーー!!!)

2005/7/19  ナミコ