真昼の夢






 ひらひら、を掴もうとすると、するりと掌を抜けていく。
 それがさ、もう何度も何度もそうしてるっつーのに一向に成功の色を見せないそれはさ、もしかしたら瞬間瞬間に悟られて逃げられてるのかって思うくらいだ。

 街道を歩く、それは昼でも夜でも変わらない目的を果たすために常に。
 こうしてすぐ後ろを歩かせてもらえるまでどれくらいかかったっけ。はじめの頃はめちゃくちゃ弱かったくせに、ゼシカより後ろなんて男の沽券に関わるってゴネたんだっけか。実践慣れしてない奴なんて、足手纏いになるってわかってんのにさ。
 それでも切り捨てなかったのは、オレになにかしら思い入れてくれたから?それとも――――、戦力が欲しかっただけ?

 また、するり。手をすりぬける布。後ろを気遣う事ない歩みは、オレ達を信じているってことなのか?だったらうれしいって思うけど、でもお前の背中は少し危うげに見える。はかなくてはかなくて、ほら、

「なんだよ」

 後ろを振り返ったエイトの服の裾が、捻った半身と一緒に翻って掌に残った。瞬間的に手にしたそれを、ククールは離さないよう強く掴む。
 呆気に取られる。そしてひどく驚いて、頭一つ分下にあるエイトの顔を一点に見つめた。
 やや怒りぎみのような、不機嫌そうな眉根。黒い目でククールを見て、形のよい薄い唇を尖らせている。
「なに、って聞いてんだけど?」
 嘘だ、お前。そんなふうに意図も理由も聞かずにたしなめるような態度をしてみせてさ、そんな時のお前はわかってんだ。オレがなに考えてんのかわかっててそんなふうに聞くんだ。ずるいったらありゃしねぇ。

「…たぶん、エイトが考えてるとおりのことを」
 これもまたずるい答えだ。だけどお前がそんなふうに聞くんだ、いいだろう?少しくらい。
 わずかに瞬いて控えめに見開かれた目。すぐにきびすを返して歩きだそうとしたのは、その火照った頬を隠すためなんだろ?耳まで真っ赤に染まったそれは、後ろを向いたって見え隠れしてるってのに。
 馬鹿だなぁ、本当に馬鹿だなぁ。そんなことないって、わざわざ振り返って拗ねてくれたんだろう?

「そんな調子で歩いてくと、最後はバテちまうぜ、なぁ」
「あー、もうっ!うるさい」
 逃げるようにぐいぐい前に、それこそさっきのペースを凌ぐみたいにムキになってさ、お前疲れちまうよ、疲れて足を止めてそんでもって捕まえちまうよ、なあ。

 捕まえたら、離さねぇからな、絶対に。離さねぇからな、これだって。


 思う以上の、思い入れを、してくれてる?







九月八日計画自作お題"ひらひら"

2005/9/8  ナミコ