そうさ、ショウアク






 やや好戦的な足取りとも取れる足音と気配が近づいてくるのにうんざりしながらオレは向かってくる気配に極力低く潜めた声で「なに」と振り返った。
 うんざり、そう「もううんざりだ」。(嫌なのは毎度同じ言い争いを繰り返すことだけだけれど)
 瞬いた目がククールの驚きを表しているというのなら、確かにオレは君の虚をついたんだろう。

「そんなふうに思ってたのかよ」
 極力―――、穏やかに柔らかに努めて言った言葉は、それでもピリと張り詰めたものを纏ってククールに張り付いている。傷つけた、と反射的に思った。そうだ、この男は、ふらふら軽いふりをして、誰でも見目麗しいものを、可愛いものを、気に入ったものを傍に置いておこうとする癖に、去るものを拒まない。拒まないから、執着していないのだと言い聞かせて傷つくことからうまく立ち回っていて。

「必要ないだろ」
 それがオレが思うとおりのことならば。それとも、他になにか理由でも?
(もしもそれが君の―――、たった一人の、家族に関わるものだとしたら、)

「何の為に必要だって言うんだ」
(眉根を寄せて睨むようになってしまっているのは、君のせいなんかじゃない)

 ツキリと胸が痛んだ。そんな胸中をククールは知らないのだろう、知るはずがないのだろう、心をうまく伝える術がわからずに、オレだって立ち回っている。苦しい苦しい苦しい、女だったらよかったのに。どっちが?お前が?オレが?それともこんな感情を、持っていなければ…?

「世界の女の子が美しいオレさまの姿を求めてるんだよ」
 大嘘吐き、君なんか。

(軟派に笑ってるより、真剣な顔して剣を構えてる方が)

「え…?」
 また瞬いた君の青い目、それがさっきの痛みを取り除く虚であるならば、それを失言だったとは言わないさ。好きだよ、とは言ってやらないけど。


 世界の女の子が求めるもんと、オレが求めるもんとどっちが大切かなんて、天秤にはからなくったってわかってるよ、なあ。



(いつか言ってやろうか。そうしたらいつも味わうオレの気持ちが君にもわかるだろ)








九月八日計画自作お題"スキル"

2005/9/8  ナミコ