愛のビヘイビア
「なんでそれ、薬指にしねぇんだよ」
まるで不服そのものを孕んだ表情でククールが指を指したのは、エイトの左手の人差し指におさまった聖堂騎士団の指輪だった。
「なんでって言われても、サイズ合わないんだ」
「だから直しに行こうっつってんだろーが」
いや、でもそもそもサイズが合うどうのこうのよりももっと根本的に、別にエンゲージリングでもないのに薬指にはめるわけがない。しかも、男から貰った(?)モンに対してなんか余計に。
なにを言ってるんだと訝しげに見られていることに気がついているのかいないのか、ククールは手を取って抜き取った指輪をぎゅう、と薬指に押し込むことに躍起になっていて。
まあ、無理矢理入れれば入らないことはないけど。
「痛い、離せ馬鹿」
取られた手を力任せに振り切って触らせない。指の真ん中辺り、指輪の円周の許容範囲を超えたそこから嫌な感じに肉が膨れ上がっている。きっとずっとこのままでいたら血が死んでしまうと、力を込めて指輪を引き抜いてやる。
「なんで外すんだよ!」
「なんで薬指にはめさせんだよ」
まるでこっちが悪いみたいに言うなよ、守備力も攻撃力も手持ちの装飾装備品に比べて質の劣るそれを今までつけてきたのは、お前が執拗にそれを望んだからなのに。
「ちゃんとはめてるじゃないか、どこの指だって同じだろ?」
ホラ、と抜き取った指輪を人差し指に戻して見せてやる。はじめのうちはそれだけで喜んでたのに、君はどんどん貪欲に多くを求めるんだな。なにが欲しいっていうんだ。心ならとっくにくれてやった、身体だってククールのもんだ。みんな、全部、欲しそうに見ていた形見の指輪だってやっただろ、あげられるすべてのもんをやっただろ。
「全然違う」
違くない、なんていったら泣き崩れる?
君のもちものの中に入ってる、あの、指輪を捨てたらって言ったら、君はどんな顔をする?
心臓に一直線に繋がる薬指に、指輪をはめて。一緒に縛られて頂戴と、駄々っ子みたいに強請ればいい。
馬ァー鹿、ホラ、直しに行くんだろ。
九月八日計画自作お題"指輪"
2005/9/8 ナミコ