つきいろ落として 2






 はらり、と零れて広がったさらさらに目を細めて「女の子みたいだ」と呟いたら、少し怒ったような拗ねたような声でたしなめられた。
 そうだ、昔は、長い髪のキレイな女の人が漠然とした理想の女の人だった。女の子をなにも知らない子供だったオレが胸に抱いていた幻想。だけどこじ開けてみれば、髪の長くキレイな男がオレを抱きしめる。とんだ理想だ、と笑えるけど、別に悪くはないって思えるのは、本当に、好きだから。

 伸ばした手で触れながら、膝で足を突いて身を乗り出していく。胸元に温かな吐息の気配を感じながら長い髪を何度も何度も梳く。艶やかで、滑らかで、指をすり抜けていく髪は、砂時計の砂のように零れ、時を忘れてしまうくらい恍惚に魅入られる。

「エイトの心臓の音が聞こえる」

 ぽつんとした呟きが、自らの鼓動を確認させるみたいに体内で音を紡ぐ。とくん、とくん、と規則正しく聞こえるそれにそっと耳を傾けるククールの頭をそっと抱きしめてくちづけを落とした。
 と思えば器用に素早く抱きかかえられたのはエイトで、押し倒すようにククールの膝の上に倒された上で強くくちづけられた。

 きらきら、星みたくときおり輝いたみたいに見えた銀糸が大きくゆれて、ふわりと宙を翻る。それに目を奪われて、大きく開いた目にはさらにそこから落ちてくる銀の。

 上等の衣が落ちるみたく、髪は身体に落ちてぞくりと胸に甘美な疼きをもたらした。

「ん…、」

 触れ合ったくちびるが熱を持つ。いたずらに小さく唇を食むように、ひたひたとふれあいが繰り返されるそれは可愛らしいくちづけに見えるのに、その隙間から覗く舌は妖艶に咥内で蠢いて強く吸われている。喉元にせりあがる熱い、かたまりのようないとおしさに手にした黒のリボンを強く、強く握って震えた。
 皺になる、と思っても固く握った拳はなかなか開けなくてもどかしかった。全身に覆いかぶさるようなククールの重みに、きっと、緊張している。いとしくて、こわばっている。

「エイト……」

 しっとり潤った声で名前を呼ばれて、下肢に触れた掌に揺れた身体。
 掌からはらりとリボンが落ちたのに、見ていたのは君の顔だけだった。








九月八日計画自作お題"リボン"

2005/9/8  ナミコ