恋するティーンエイジャー






 付き合ってた彼女と自然消滅したのはちょうど夏休みに入る半月前のことだったっけ。久しぶりにあの子に会いたくなってかけたケータイが繋がんなかった。ってもさ、付き合ってる女なんて何人もいるから別に平気。あの子がダメならこっちの子、とっかえひっかえ渡り合うんじゃなくて、複数の子と同時に付き合う賢い方法って知ってるか?なるべく付き合ってる子達の行動範囲が重なんないように気を配るってことと、あとはこっちの度量と頭の使いようっていうの?まあそんな感じ。ああ、あとは前提条件として女の子にモテるってことがあなくっちゃあな、はは!

 なんて大学のダチと笑ってたオレは一体どこ行ったんだ。気が付けば自然消滅と、お遊びって割り切ってた向こうから夏休みは彼(本命)とすごすから、という明るい声が。
 バーカ、ツケが回ってきたんだろ。事項自得だ、たまにはひとりのむなしい夏ってもんを味わえ!!と情けのない悪友は笑って彼女との約束があるからとメールすらろくによこさねぇ始末だ。

 そしてオレは空しさついでに急募していた夏いっぱいの予備校の講師のバイトをして、ながーくながい夏休みを満喫しようってわけだ。受験に死にもの狂いの高校生達と一緒にな。

 ヤッタジャン!!現役女子高生とお勉強!!!とか、下品な内容のメールも相当数送られてきたりしたけど、いささか早とちり気味の馬鹿からも合コンだのメールが送られてきたけれど。バカ言ってんじゃねえよ、ガキくさい高校生なんか相手にできるかってーの!!

 夏休み前にダチどもを一笑したオレは、冷や汗をたらしてホワイトボードの前でつんのめってる。えぇーと、君、なんて言ったっけ…なんてベタな答えをしなくたって名前くらいわかってる。オレの担当してる数学が苦手で、ときどき質問にくる子。ショートカットにまるい大きな目が可愛くって、年相応のふるまいの割に他のことは違う垢抜けた感じがして、こんな妹がいたら可愛いなあって思っていたんだけど。

「先生、ククール先生。すき」

 うっとり夢見てるみたいに目を細めて―――、いったいどこを見てるのやら…ってオレか。いやいや、君ねえそれは反則でしょう。っていうか不意打ち?オレもまさか妹みたく思ってる子から告られるとは思ってなかったっていうかさ。

「エイトちゃん、三角関数の説明はもういいのかい?」
「もう、先生ってば関数の前に教えてほしいって言ったのに」
 "私のことどう思ってますか"って、だから妹みたいだよって……言ったら傷つくんだろうか。
 短いスカートから細い足がすらりと伸びて、決してグラマーとかそういうんじゃないけど、スタイルのいい子で、素直で可愛いし、この子のことを好きな子もたくさんいるんだろうに、どうしてよりにもよってオレを選ぶんだ。

「ククール先生、大好き」
 そんな顔で見るんじゃねーよ、マジで勘弁してくれよ。オレのストライクゾーンに高校生なんか入ってないんだよ、体よく遊べていつでもサッパリした関係でいれて面倒じゃないの。楽しければいい、そんなのを望んでんだよ、こんなふうに好意を寄せて惚れた腫れたってもんじゃないの、なあ、わかってくれよ。
 なんて言葉も、きらきらした目には言葉に出すことが出来ないけど。

「出会ってまだ1週間、その上君とあたった授業は5回コッキリ。どこをどうしたらオレを好きになるっていうんだ」
「だって一目惚れちゃったんだもん」
 ああ、もう、本当に。火照った頬に嬉しそうな顔を乗せるんじゃないよ、そんなふうに純粋に誰かを好きになる君におにーさんちょっと尊敬する。けど、

「ごめんな」

 瞬間的に悲しそうに歪んだ目元にさすがに涙は滲まなかったみたいけど、ちくりと痛んだ胸に棘は刺さったみたいだ。
「…なんでぇ?」
 消え入りそうな声にちくちく胸が苛んで、せめて嘘だけはつくのをやめようと思って口を開く。それはちょっと、というか多分この子の理想と言うものを打ち砕くんじゃないかと思うけど。

「オレはね、君みたいな子供に手を出すほど不自由してないの。付き合ってる女の子はたくさんいるし、本命は今のとこ持つつもりないんだ、遊んでいたいから」
 すっぱりこれでもう諦めてくれって気持ちで嘘偽りなくすべてを伝えた。悲しげに歪んでいた目がみるみるうちに険しくなって、妹みたいに思ってる子にこんなことはいいたくなかったし、できれば軽蔑とかもしてほしくはなかったけど、でも、しょうがないだろ。
「………それって…私が幼児体系だからダメってことなんですか…!?」
 なにを言ってるんだ、この子は……!!!

「いや、そうじゃなくってさ……」
 頭いてぇなあ、君みたいな子供の部分しか聞いてなかったのか?それともわざとスルーしたのか?どっちにしたってめんどくせーってんだ。
「……オレはすぐこういうことするぜ?」
 俯きがちだった顎をすくって軽くくちづける。その手はそのまま背中に滑らせ引き寄せて、もう片方の手をスカートの裾をめくって太ももを撫でた。びくりと強張った身体で、嫌だと感じたらいいと思いながら。

 腕の中で震えてる、なみだ目で見上げるこの子を見てこんなみとしなきゃよかったって思ってももう後の祭だ。それこそ大切にしたいって思ってたのに。(………いや大切にっておかしいだろ、ただの生徒に!!妹みたいだって思っててもおかしいだろなんか!!夏休みだけなのに!!!)

「…せんせーだったら、いい、よ」

 怖いくせに震えてそんなことを言う。そんな馬鹿なことを言う。好きになった奴になら、そんな馬鹿なことを言っちまうのかと思ったら、なんだか無性に腹が立って力任せに彼女を抱きしめる。泣くな泣くな、泣くんじゃない。
 オレは盛大な溜め息をついて抱きしめた彼女の耳元にそっと囁きかけた。

「とりあえず、夏休みだけな」

 幻滅してさっさっと諦めてくれ。なんて少しでも妥協しちまったオレの負けになるんだろーか。まだまだ長い夏休みは始まったばかり、なのにこんな女子高生に振り回されている(ような気がする)。








九月八日計画自作お題"女子高生"

2005/9/8  ナミコ