Another Phantom Story






「見て見ろよ、エイト」
「わっ!?」

 たまに設けた休息日にも関わらず、ククールはせわしない。せっかく読書にふけっていたエイトの手にある本を無理矢理奪い去って視線を向けさせようとして―――駄々っ子かっつーの。「なに!?」
 たまには落ち着いてくんないかなあって意味も込めて睨みを聞かすけど、そんなこと今の君には関係ないみたいだね、なにその顔、好奇心を抑えきれないような子供っぽい顔。言って欲しいんだろ、気付いて欲しいんだろ。

「…そのマスクはどうしたの?」
「おうっ、あのな、さっき出来たんだよ錬金釜で!!」
「ああ、そういえば最近王の所―――というか、馬車の中の錬金釜の前に入り浸っていると思えばこんなの作ってたのか」
 ファントムマスク、というそれは、アイアンヘッドギアと闇の衣から成る、敵の攻撃をかわしやすくなるマスクだったっけか。まあ別に、必要じゃないわけじゃないし、いずれは作ろうと思っていたものだけどさ。

「戦闘中は頑張って攻撃よけろよー」
 さあ、とにかく本は返してくれと手を伸ばす。「いやいやそうじゃなくってさ」じゃあなんだってんだ。

「オレとオペラ座の怪人ごっこしない!?」
 オレがファントム、お前クリスティーヌ。とにこにこ顔で笑うククールに、盛大な溜め息を見せ付けてやろう。ああ、もう本当になに言ってんだよ。

「遠慮する」
 休息日は休息日らしくちゃんと休んでくれよ、子供じゃあるまいし。
 困り顔のエイトを見れば少しは思いなおしてくれるだろうか、でも目先の欲望と妄想に捕らえられたらちょっとやそっとじゃその信念みたいなものを曲げることができないんだ。それが恋なんていう厄介なものであればあるほど、それこそ―――ファントムみたいに。

「えー、やろーって!な!!ぜってー楽しいから!!!」
「この馬鹿」

 楽しいわけないだろーが。不服に眉根を寄せるククールを小突いてそっと、そのマスクを取ってやる。その下から現れるのは見目麗しい顔。この世のものとは思えない、という言葉はたしかにククールにも当てはまるかもしれないけど、下から誓いのキスみたいなくちづけを施してやって、それから愛してるって言ってやろうか。

「オペラ座の怪人は悲恋だ」
「いやいや、オレファントムは非の打ち所のないファントムだからハッピーエンドだぜ!」


 …この馬鹿リスマ!!








九月八日計画リクエストお題"ファントムマスク"
どうもありがとうございました!!

2005/9/8  ナミコ