ブルーデイズ、いつか






 ククールはゼシカが好きなんだろうなあって、思っている。だってそういう雰囲気がでてるもの。女の子を―――ゼシカを、大切に扱うその雰囲気が、ね。ゼシカだって満更じゃないんじゃないかあ、優しくされて嬉しくない女の子なんかいないよね。

 まるで世間話でもするみたいに、ユリマと談笑を交わす。ときどきトラペッタに足を向けるのはユリマがいるからだ。同じ年頃の女の子と、いろいろ楽しく話がしたくってさ。…まあそれをするだけならゼシカがいるからいいはずなんだけど、なんでかな。つい、足が向いちゃうんだ。聡いゼシカにはあんまり話したくないのかもしれない。

「ユリマは、誰かいい人いる?」
「私は―――、うーん。いない、のかな」
「へぇ、でもユリマは周りが放っておかなさそう」
「ふふ、さあ。どうかしら」

 肩を竦めて紅茶を口にすする。小さな仕草で耳を貸してと示すユリマはそっとエイトに囁いた。

「家じゃね、ダメよ。お父さんが気にするから」
 ああそうか、と思ってエイトはカップに残っていた紅茶を飲み干し「せっかく天気もいいから散歩でも行かない」と立ち上がる。にっこり微笑んだユリマはすぐに「ええ」と返して続いて立ち上がる。
「お父さん、私ちょっとエイトと散歩してくるね」
「お邪魔しました」
 そうだ、壁に耳あり障子に目ありのこんなところでは、恋バナなんてできないからね、と思いながらも外へ行く足取りは重い。それぞれには好きなように時間を過ごすように言ってあるけど、多分、あのふたりは。

「噴水のところ行きましょ」
 ユリマが指差し、階段の中ほどでエイトを待つ。小さく頷いて下りた広場。初めはあんまりこの町が好きになれなかったけど、でも、のどかでキレイだとは思ったっけ。

 くるりと見渡す広場には、まばらに町民が行き来している。噴水の淵に腰掛けて水を手で弄びながらエイトは口を開いた。
「ユリマはお父さんには内緒だけどいい人がいるんだ?」
「うん、そうよ」
 くすくす笑いながら「でもお父さんはあれだから」、と階段上のギリギリまで身を隠しているらしい人の影がある。ああ、ユリマは苦労しているんだな、とじっと見つめた視線に気が付いたのか、覗き人は完全に向こう側に身を隠した。

「今は片思いだし、でもそういうふうになったらちゃんと言うわ」
「そういうふうになる予定はあるの?」
「うふふ、いやあね。エイトったら。そういう貴方はどうなの?」
「私は―――……」
 ぽつん、と心の大半を占める恋心がほのかな炎を灯す。それが燃えてしまわないように、燃え尽きてぽっかり穴があかないように、気をつけて押さえ込んでいるって言うのに。
「好きな人はいるけど、でも……」
 ぽつぽつひとつずつ言葉が零れるみたいに、一緒に涙も零れて、その涙がこの恋心を洗い流してくれたらよかったのに。泣いたら泣いたぶんだけ恋心がなくなってくれたら楽になれるのに。

「もっとちゃんと、女の子みたいだったらよかったのに」
 自分の言った言葉がずしんと圧し掛かって息苦しかった。ユリマみたく可愛いくなんかなれないし、ゼシカみたいになれるわけじゃない。男の子みたいな格好して、武器を振り回して、そんなの。
「…エイトはちゃんと女の子じゃない、好きな人のことを想ってる、可愛い女の子だよ?」
 震えた口元、でも、うまく笑えたかな。
「ありがと、ユリマ」

 視界の端、道具屋の前にふたりがいた。


 みたくなかった、のにな。
 ちっとも軽くなんない片思いの恋心は、涙水をどんどん吸って重たくなる。重たくて、動けなくなってしまう前に捨てなくちゃ、いけないのに、これはとっておきたい一等の宝物だなんて。


































※オマケ(道具屋前での会話とか)


「あら、エイトがいるわよ。ホラ…ユリマだったっけ、そんな名前のこと一緒に」
 控えめに指をさすゼシカに「とっくに気付いてる」って愛想のいい、またの名を張り付いた愛想という笑顔のまま返してやる。おや、あんたらデートかい?だなんてふざけたことを抜かす道具屋の店主に揃いも揃って「絶対に違います」と仲良くハーモーニーかまして盛大な溜め息ひとつ、嗚呼。

「エイトとデートしてぇー……」
「だったらとっととない勇気振り絞って誘いに行きなさいよ、このヘタレ」

 毎朝毎朝、エイトに声をかけられずじまいで私のとこくんじゃないわよ、もう鬱陶しいったらないわ!!なんてそんな超笑顔!!!でいうんじゃねーよ、まあオレも人の事いえないけどよ。はあ……







九月八日計画リクエストお題"女主で片思い"
どうもありがとうございました!!

2005/9/8  ナミコ