ブルーバート






 ふらふらあっちこっち寄り道ばっかするお前に、ついにこの間寄り道キングの敬称をやったと思う。それが言葉どおりの敬称であると同時に、少なからずの嫌味も含まれているってことはわかってねーんだろーなぁ。言われた言葉を言葉どおりの意味で素直に受け止めちまうとこはお前の美点だってわかってるけどさ、そんなんじゃいつか騙されちまうぞ、わかってんのか。
 ふらふらふらふら、あっちに行ったと思えばこっちにいたり、取りとめもねぇ足取り。お前の目に、世界はどんなふうにうつってる?

「エイト?」

 ふと気が付けば街中で、それが街の外でもきっと、はぐれて見えない姿。後ろをふりかえんねーで、どんどん前に進んでいっちまうからな。

(そしてなにに向かって突き進んでいくのか、知ってるのはお前だけ)

「エイト…」
 街中ならまだいいさ、この街のどこかにいるって思えるから。必死になって、ひとりでも探してやれるからさ。でも、世界に出てしまったらひとりでは探せない。後ろを振り返らなずに前だけ進む姿を、捕まえらんねぇよ。

 お前が自分で気付いて、ひとりぼっちに涙してくれなきゃあ。


 暗い黒いヘドロみたいな思考に飲み込まれそうになって、踏みとどまろうとした足はずぶずぶ沼の中へ消えて、偏った足は身体全体のバランスを崩していく。怖い、と。
 どうして前を歩かせたんだろう、手をつかんで誘導してやればよかった。そうしたら見失うこともなかったのに……でも、寄り道は出来なかったかもしれない。
 はじめて来た街じゃないからある程度勝手知ってるのに、足が動かない。探さなくちゃいけねぇと思うのに、動かないのはなぜ。あいつはきっと止まらないまま動き回って、立ち止まったオレとの距離は離れて行って。……いいや、なにを馬鹿なことを考えてるんだろうか、はぐれたって宿屋に戻ればいい。今日の拠点はそこだと決めた、出歩く前にそこだと決めた。
 なのに。

「ククール?」
 呼び声に振り返れば、そこには「エイト」。口を開いたオレは思いつく限りの文句を言おうと構えるのに言葉が出てこない。もどかしいったらありゃしねぇ。

「もう、いい年して迷子なんて情けないぞっ
「…………オレが迷子なのかよ……」

 やっと出た言葉はもっと情けなく身体中に染み渡る。自分が迷子になったなんて、思わないわけなんだ、こいつは。がっくり強張った肩から力んだもんが抜け出して、もう今日一日フルタイムで働いたような疲労感。
 ああ、でも。一緒に安心感も胸にやってきたけれどさ。


「ちゃんとオレの後ついてきてくれよな」

 お前があんまりひょこひょこどっかにいっちまわなかったらな。








九月八日計画リクエストお題"迷子"
どうもありがとうございました!!

2005/9/8  ナミコ