銀のバレッタを君に






 露店に並ぶ髪飾りを見て、ああ、姫に似合いそうだなと思った。ほんの、それだけだったのに横にいたククールは「お前はこっちよりこっちの方が似合う」と、シンプルな銀の髪留めを指さした。

「彼女にプレゼントかい?にーさん、安くしとくよ?」
 露店商は露店商で私がククールの彼女であろうがなかろうが品物を買ってもらえればそれでいいんだからさ、ちょっと調子づいてんじゃねえぞこのバカリスマ!!
「彼女じゃないし、私は姫に似合うなって見てただけだし、髪留めるほど長くないし」
 なにがそんなに楽しいんだか、そうやって談笑してればいい。
 すっくと立ち上がったエイトは買出しの途中だったと市場へ向かう。

「ふられちまったねぇ、にーさん」
「つれないんだ、本当に」
 でもその髪留めは頂戴ねと、いくらかのゴールドを渡す。女へのプレゼントは言い値で買ってやるのが筋ってもんだ、それが愛しい女であればあるほど…って言っても細やかな装飾が施されたそれは思ったよりも根が張ったけどさ。


「エイト、待てって!!」
 一緒に買出しに来たのに置いてくなんてひでぇなあ、なんて笑いながらエイトの手荷物全部受け取って後ろをついていく。
「よくもまあ口からでまかせみたいな会話を平気でできるもんだ」
 おばさんリンゴ6つ、と付け加えた言葉尻。グリーンアップルの香りが漂う紙袋を受け取って窺えない表情を読み取ろうと必死になる。ああ、後ろからじゃよくわかんねぇんだよ。

「口からでまかせっても、そうなったらいいなあって思ってることだから嬉しいンだよ」
 わかんない?好きな子と噂になる気持ち。そんな事実はなくたって、むず痒い嬉しさっていうかさ。

「…こんなに冷たくあしらわれてんのに、噂だけでも恋人になれて嬉しいの?」

 意気地なし

「え?」

 今なんか言った?変わらない黒の目が無表情でククールを見る。エイトがそんなふうにククールを見るようになったのは、そうやってククールが胸の内を打ち明け始めたころだった。特別の好きを、どうしたって跳ね除けてしまうのはなんでだかわからないけど。

「今なんか言った?」
「別に。ホラ、次は干し肉を買うんだから早く来て」

 急かすように口を尖らすエイトを、自分のだけのものにしたいと思ってる。大切にして、絶対に離さないって思うのに、まだうまくはいかない。
 っていっても大切なものをそう簡単に手に入れてしまったらありがたみも何もないかもしれないから、今はゆっくりと。

 むず痒く嬉しい噂話、それを耳にしたエイトはオレのことを考えて考えて、もしかして自分も好きなのかなって思ってくれたら最高なんだけどな。


 たとえ勘違いで愛が生まれたって、ちゃんとそれを本物にさせてみせる自信はあるさ。








九月八日計画リクエストお題"クク女主"
どうもありがとうございました!!

2005/9/8  ナミコ