昼の向こう
ひらひら蝶の飛んでる草原に横たわって昼寝をしたある日。涙を流す銀の髪の子供に出会った。
「ん…」
眩い太陽との間、すぐそこに見える黒い人影。逆光でよく見えないけれど、それは多分子供。草原とはいえ、モンスターもでるこんな場所に、ひとりなにをしているのか。
「どうしたんだい」
よく見れば、はたはたと零れる涙が重力にしたがってオレに降りかかってきていた。涙の雨だれを胸に零して、なにを悲しんでいるのだろうか。そっと手を伸ばす。まだ覚醒し切れてない意識は鈍い感覚を伴って少年の頭を撫でた。
柔らかで、滑らかな髪質。
「…し、んでるのかって…思った」
ぐずり、と鼻をすする音が盛大に聞こえる。「死んでないよ、ホラ」小さな手を取り心臓の上に導けば、静かに規則正しい鼓動の音を感じるだろう。生きてるあかしだろう。
それで安心するかと思ったのに、それでも少年は鼻をすすり、涙を零し、しゃくりあげる。
「父さまと母さま、流行病で死んじゃったんだ」
ぽつんと零す涙粒と同じくらい悲しい言葉を、エイトは受け止め、あやすように小さく微笑んだ。
「人はそんな簡単に死なないよ」
「嘘だ、だって…父さまと母さまは、土の中に…」
「それはね、魂をいれていた器を大地に還しただけなんだよ」
寝転がっていた草原から身を起こし、エイトは少年の涙を拭いてやる。涙に真っ赤に濡れた目。腫れぼったさに数日は悩まされるだろう、きっと。
「魂は空に還って星になり、いつでも君を見守っている。それに―――」
短いおかっぱの髪をかきあげて、涙のたまる青い宝石のような目をじっと覗き込み、エイトは思い出す。愛しい人の、瞳。
「君が君の父さまと母さまを覚えている限り、ここに生きているよ」
とん、と突いたハートに、思い出はいつでも鮮やかに蘇ると、笑いかけて。少し火照った頬に、エイトは満足そうに頷いて少年の額にキスをおくる。
「それでも寂しいというのなら、ずっと一緒にいてあげるよ」
君がオレをみつけることができたら。
涙に濡れた目が太陽の光を入れてきらきら光る。うん、涙よりよっぽど子供らしい。
白色の光が眩いほど世界を照らす。ああ、これは夢だったのかなんて思うのは、もう少年の姿がどこにも見当たらなかったから。随分長いこと昼寝してしまったのか、真上にあったはずの太陽は西に、東からは月色の―――。
「エイトー?」
月色の銀糸を揺らめかして歩み寄る、その人は傾く太陽の赤に照らされる、なにより赤が似合う人。オレの、いとしい…。
「こんな変なとこで昼寝すんなよ、探すのはオレなんだからさ」
「ごめん、ごめん。なんか、気持ちよくって」
差し伸べられた手を取って、立ち上がる。
ずっと一緒に、生きる人。
九月八日計画自作お題"時をかける少年E"
2005/9/8 ナミコ